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第5話 三日月のように鋭く、夜のように冷たく

 クリストファーが川で泳いでて溺死したので代わりの新人を雇い入れることになった。求人情報誌に広告を出して三日後、一人の男が応募してきた。その人物は東リンダリアのさらに東、海を隔てたグラブ大陸出身の、褐色の肌と銀の髪を持つ、屈強な戦士じみた祓魔屋だった。


 かの地では古代の王がレミュエル一世に先駆けて邪悪な竜を屠り、その呪いによって滅びたという伝説が残っている。かつて亡国の聖職だった祓魔屋は野に下り、放浪の傭兵として今なお呪いと戦っている。


「リジェル、あなたが既に解呪師としての高い能力を持つのは疑いもない」支部の応接室でハイネマン隊長は言った。「先だってウィルヘルミナと一次面接をしてもらったが、彼女の顔がはっきり見えたと言うからな」

「あの姉さんは別嬪だったが、あれは確かに、禁忌の呪いだわな」戦士は言った。「あれで静穏化してあるのか?」

「そうだ。それでもなお最も忌まわしい呪詛が、奴の体から漏れて止めることはできないのだ。あれは強力な武器にもなるがな。さて、既に合格は確定したようなものだ。あなたの力を最後に披露していただきたい」

「もちろんだ」自信ありげにリジェルの金色の瞳が光った。

「もっとも、その膂力だけでも並みの呪いを片付けることはできるだろうがな。ああ、注文通り大剣を発注しておいた」

「感謝する、隊長。通常のサイズじゃオレにはナイフにしかならんのだわ」


 解呪武具は、各々の希望に合わせてその形式を変更できる。エイダは「重そうだから」と働く予定もないのに短剣サイズを注文していった。


「言っておくがこの支部を破壊しない程度で頼むぞ?」隊長が言う。「さぞ強力な力に違いないだろうが」

「強力な力ってのは制御できて初めてそう呼ぶべき代物だ。手加減できん力など危なっかしくて仕事道具としちゃ不合格だわな」

「いかにもそうだ。この街の解呪師全員に聞かせてやりたい台詞だな」

「オレのはあまり使う必要もない力だ。ただ剣にものを言わせたほうが早いからな。こいつだ」


 いつの間にか、リジェルの手の中に銀の器具があった。水差しのような形のランプだった。

「なんだそれは、カレーを入れるやつか?」

「こいつは呪具だ。危険極まりない兵器だ。だがオレの意思次第で操れる、最も便利な道具だよ」リジェルがランプを擦ると、大量の煙が吐き出された。


《お呼びでしょうか、ご主人様》煙の中から重々しい声が聞こえた。《何なりとご命令をどうぞ》

「魔人よ。オレは今就職活動中で、ここにいらっしゃるハイネマン隊長がオレの能力を把握したいと言うのでお前を呼んだんだわ。どうしたら一番いいデモンストレーションができるか相談に乗ってくれ」

《そうですね、やはり、コミュニケーション能力を見せるのが良いと思われますが》

「例えば?」

《サークル活動などで大勢の人員を動因してイベントをこなした経験などがあればよろしいかと》

「残念ながらないな、うーん、どうしたものか。そうだな、ならば一つ目の願いはもう終わりでいいから、二つ目の願いでオレの過去を改変して、五百人くらいの大規模な飲みサーの幹部を務めた経験があることにしてくれ」

《かしこまりました》


 光がリジェルを包み込み、それが消えたときには既に彼はカリスマ幹事となっていた。

「フフフ、この感覚、今なら三次会、四次会まで余裕だな。泥酔した部員からも会費を徴収し、全員を家まで送り届けることができそうだ、素晴らしき力」

「リジェル、ちょっといいか」隊長が口を挟んだ。

「何でしょうか隊長。何でも聞いてください。この抜群のコミュニケーション能力、メガバンクだろうと合格できそうですよ、やはりものを言うのはサークル活動での経験だ」

「お前が就活にどんな意識を持ってるか知らんが、その煙は何だ、その中にいるのは」

「魔人です」

「誰だ」

「誰と言われましても困りますわな、魔人は魔人ですよ。ジンとかジーニーとか言いますけど、それは種族名か。とにかく一日に三回まで願いを叶えてくれるんですわ」

「それは何でもできるって言うのか?」

「できます」

「それが本当なら凄まじいな。ついに我が支部にも全能者が加わるとは。もっとも、すべての全能者が認めたがらない事実だが、呪いによる全能にはいくつもの制限と例外がある、お前のもそうだろうがな」

「疑っておいでですか。おい魔人よ。隊長に何でもできると言ってやれ」

《何でもできます。本当です》

「本当だと言っているから本当でしょう」

《本日の願いを叶え終わりました。またのご利用をお待ちしております》

「じゃあまたな。で、どうですか?」


 ハイネマンは頷き、「よかろう、その全能性、我が隊のために使うが良い、リジェル。呪いと、そして浄化機構との戦いに身を投じよ」

 隊長の言葉に、戦士は厳かに頷いて、「(浄化機構?)無論です。これより湾口地区南六番隊の指揮下に入る。〈三日月のように鋭く、夜のように冷たく〉」

「それはグラブにおける戦士の誓いか?」

「いえ、ビールのキャッチコピーです」

「なぜ今言う」


 そうしてリジェルは酒宴の名幹事としてその名を馳せた。

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