第1話 思惑と仮面
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王立魔導院への貴族子弟の入学――俗に言う徴兵組については、年に二回の機会が設けられている。
気候的に長旅の予定が立てやすい夏頃と、厳しい寒さで旅に不向きな冬頃の二回だ。
地方の貧乏貴族を自認する、バリアード男爵家のノエル一行は、当然のように夏で旅程を組み、無事に魔導院へと辿り着いた。
バリアードと似たような事情の貴族家御一行も同じくだ。
一方の冬には、比較的王都近辺に領地を持つ貴族家や、王都に別宅を持つ、いわゆる大貴族家の御一行が集う。
また、遠方からわざわざ冬場に旅をしてくる貴族家もいるが、それは一種の示威行為であり、力ある大貴族家が敢えて行っているという。
つまるところ、夏場に魔導院へと集う者らは、デイルの貴族社会において、さほど大きな力を持たない貴族家という区別だ。
王立魔導院新入学の本番は冬――などと公言されているほど。
ただし、その年については、少々通例とは毛色が違った。
神聖暦479年。
通例では冬に人材を送り込む大貴族家らが、こぞって夏に魔導院へ人を寄越したのだ。
冬に入学が予定されている、さる御方と時期をズラすという意味合いと、先に魔導院に赴き、その御方を待ち受けるためにという意味で。
そのさる御方というのが――
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「それで? リオンはどうするんだ?」
まるで今日の天気を聞くかのような気軽さで、ノエルは問い掛ける。
「えっと……どうするとは?」
問われたリオンの方は、いまいちノエルの質問の意図が掴めないまま。
「ん? いや……契約もあるし、深く詮索するつもりはないけど、リオンの目当ては《《ルーク殿下》》なんだろ?」
軽い口調の疑問形ながらも、さも当然だと言わんばかり。
「まぁ確かにそう言えなくもないですが……」
リオンとて、バリアード家への協力を求めた時点で、相手にもある程度は事情を知られるのも承知の上だ。
ただ、正面から、こうも気負いなく指摘を受けるとは思っていなかった。
「具体的なことは聞かないけど……バリアード家が名を貸しているってことだけは、頼むから忘れないでくれよ?」
実のところ、ノエルの心配事はそこだけ。
大貴族の子弟らも、時期を同じくして魔導院へ集っている。また、他にもリオンと似たようなことを考え、他家の養子として来ている者だっているだろう。
貴族社会の常識には疎いが、その程度はノエルとて察する。
リオンの目的について、気にならないと言えば嘘になるが、下手に首を突っ込めば、バリアード家など簡単に吹き飛ぶというのも理解している。
実際にそれができる大貴族の子弟が、今の魔導院にはごろごろしているのだから。
「はは。もちろん分かっていますよ。ただ、この仮面姿ですからね。私が目立つのは、諦めていただくしかないかと」
「……ふぅ。言われなくても、そこについてはもう諦めてるよ(うーん……ちょっと疑ってたけど、やっぱり趣味で被ってるわけじゃなかったんだな。そりゃ目立つよ、どう考えても……)」
意思疎通に若干の齟齬はあるものの、概ねの方向性には一致を見た二人。
「――では、私はお約束通り、〝バリアード家の使用人〟としてノエル様に付くようにいたします。もちろん、この件についてはバリアード家の保証などは求めませんので……」
やり取りが一段落したと見たミアが、改めての確認を行う。
「いや、それについてはどうかと思う……今でもミア殿には助けられているのに、使用人として付くと言われると、バリアード家としても知らん顔をするのは流石に……」
たとえ偽装であろうと、使用人として直接付くと言われてしまうと無視はできない。
懐事情の苦しい地方貴族家もまた貴族。それなりの見栄と誇りはある。雇用の保証というのは、その根元に近い。
「ノエル様。ミアの主である私がそう指示した――ということで収めてもらえませんか? 私が目立つのはいいのですが、彼女は私個人ではなく、あくまでバリアード家の所属としたいのです」
「うーん……そう言われるとなおさら……まぁミア殿の給金については、家の者に相談しておくよ。一先ず、一般の使用人へ支払う程度の額は出すさ」
ノエルとしては、リオンの目的を詳しく知りたくない。ここで押し問答を続け、余計な情報を知るのは悪手だと明確に理解している。
「――ありがとうございます。ノエル様やバリアード家にはご迷惑を重ねてしまい、申し訳ない限りです」
「はぁ……よく言うよ。そういう感じがいちいち怖いんだよなぁ……」
慇懃に感謝を述べるリオン。ノエルからすれば、どう考えても嫌味にしか聞こえないのだが――実のところ、リオンはノエルやバリアード家を高く評価している。
押すべきでないところ、引くべきところはさっさと引く。そして、表面上は決して引きずらない。
それを普段から、些細な場面でも実践できている。
地方貴族の処世術だとノエルは笑っていたが、リオンとしては見習う以外にない。
彼には〝引くべきところ〟の判断が難しいから。
なにしろ、このデイル王国には暗雲しかない。
争乱と混迷へと突き進んでいるのを……知ってしまっているから。
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通例となる予定を変えてでも、夏場に王立魔導院に集う者たち。
それは、冬に来られると公表された御方への対応によってだ。
ルーク・アーク=デイル王子。
デイル王国の第二王子であり、成人を迎えると同時に立太子の儀が確約されているという、やんごとなき御方。
婚約者であり、王太子妃、ひいては王妃となることが予定されている、アリア・ローゼイン侯爵令嬢を伴い、ルーク王子が今年の冬に王立魔導院へ赴くことになった。
ルーク王子は十一歳。アリア嬢は十三歳。
十代の子弟がいる貴族家は、こぞってこの機を狙う。なんならリオンと同じく、あえて格下の家の養子として、出自を偽って魔導院へ手駒を向かわせる者らも多い。
そう。名だたる貴族子弟が一堂に集うと同時に、密命を受けた怪しき者らも策動する。
神聖暦479年からの数年間。
それは――〝今〟のリオンが介入できる、デイル王国の転換期にして、暗黒時代への幕開けとなる時節。
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