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4話 状況把握

『飛行艇の中身はいくつかに分かれています。大きく動力区画、生活区画、戦闘区画の3つです』


 氷川の治療を受けた葎は早速、飛行艇の見学を行う。飛行艇までの道すがら、ドールから簡易的な説明を受ける。


『特に動力区画が重要で、飛行艇たりうる根幹が詰まって…あ』


 突然足を止めるドール。見上げるほど大きな飛行艇に近づき入り口が見え始めた時、ドールはある問題に気がつく。


『葎様…葎様と御付きの方は入れないですね。』


 小人達と二倍の体格差のある葎たちは、腰ほどの高さしかない入り口に入ることは無理だった。


『…御付きの方?』


 身に覚えのない単語に、葎は後ろを振り返る。しれっと二人がついてきていた。氷川は首のない体を調べるために帰ったので、ここにはいない。そこにいたのは、背に大きな刃物を持った女性と小さい子供だった。


「…お前たち、なぜついてきた?」

「あたしの仕事は鯨が来てからだから暇なのさ。集落に引きこもっていたら見れないもんばっかあるから、ちょいと見てみたくてね」

「面白そうだからー!」

「そうか」


 女性は飛空艇を、子供は大陸人を物珍しそうにみている。葎とドールのやり取りを邪魔しないことを条件に、葎は好きにさせてやることにした。


 飛空艇に入れない葎たちは、飛空艇の船首で説明を受けることにした。体が半分程度の大きさしかない大陸人が使う飛行船であるが、間近で見ると圧倒される大きさを誇っている。そして、その船体の全てが金属で構成されており、葎はこの重量物が空に浮いていたとは信じられず、まじまじと観察している。


飛行艇の正面にはたくさんの機能が備え付けられていると感じる機器類が多数あった。特に目を引くのは、闘牛の角のように突き出している2本の金属の筒。


『あの両脇に並んでいる筒は大砲といいます。巨大な銃だと思ってください。そして、中心の大きな穴が空いている場所は指揮所だったものです。…ところで、葎様は一体どうやって飛空艇を墜としたのでしょうか?』

『弓だ』

『…』


 大砲を闘牛に例えるなら、葎が弓で射抜いた場所はまさに頭であり、ヘッドショットを決めたと言えるだろう。金属であるはずのその場所は、まるで紙でも破いているかのように鉄板が花開いて捲れ上がっている。ドールは常識はずれの弓の威力と、葎の精度に言葉を紡ぐことが出来ない。


『それよりも、どうしてドールだけ大陸の言葉を知っているんだ?』

『士官として、さまざまな言語を学んでいるからです。私からすれば、どうして葎様が蛮族の言葉を話せるのですか?』

『俺は直接、大陸人に教えて貰ったからだ。それにしても機関長やら飛行艇やら、それは俺に大陸の言葉を教えてくれたヤツの空想話と言っていたのだが』

『いえ、数十年前から使われている単語ですか?』

『そうか、それと、蛮族と言っていたな…やっぱりお前たちは俺の知っている大陸人ではないようだな。大陸人にしては大きいと思っていた』

『そうですね、我々グレイソンの民は彼らよりも大きい』


 初めて聞く単語を聞き、葎は飛行艇を観察していた目線をドールへと移す。


『グレイソン…それがお前たちの祖国の名か』

『はい。葎様の祖国はなんというのですか?』


 ドールの質問に葎は即答することが出来ない。答えず何かを思案している葎の様子に、ドールは不思議そうに首を傾げる。


『祖国か…それは、俺には分からないな』

『分からない…とは?』


 全く理解できない返答にドールは困惑するばかりである。ドールから見ると、葎の格好は騎士、特に上級のそれである。これほどの武具を揃えられるのは、国から相当な地位を授かった者しかいないと考えている。ふと、ドールは考えた。この武具を個人で揃えられるほどにこの土地の人は裕福で、強大なのではと。葎のような強者が数多いる群雄割拠の地では無いかと想像してしまう。

 不安に思うドールに、葎はさらに懸念点を増やす。


『元々、俺には忠誠を誓う祖国というものがわからない。だが、仕えていた主人というのはいる。いや、いたと言うべきか。目の前で主人が吹き飛ばされていたから、家が無くなっているかもな』


 さらに大きな問題の発生により、ドールは混乱と絶望の極致である。葎のように圧倒的な力を持った者でも負けると言う事実に、恐怖を禁じ得ない。しかし、当の本人はなんでもないかのように平然としたままである。


『あの時は多勢に無勢だったな。次に会ったらどうやって屠ろうか』

『…』


 ドールは葎のことがわからない。いや、最初から訳のわからない常識外の強さを見せているが、それよりも内面のことだ。口ぶりからして負け戦に遭ったことはわかる。しかし、それを経て口に出るのが報復でも主人の安否でもなく、次の殺しなのが理解できない。嗜虐的な笑みを浮かべず、快楽を求めるような声の抑揚もなく。ただ淡々と次の殺し方について考える様子に、ドールは葎が人の形をしただけの化け物ではないかと戦々恐々とする。


 そんなやりとりをしていると、飛行艇の指揮所に空いた穴から誰かが出てくる。それは油で黒く汚れた機関長のトーマスだった。何やら考え事をしているようで、葎たちに気がついていない。工具を振り回しうんうんと唸りながら動き回っていると、ようやく葎が視界に入る。瞬間に青ざめ、腰が抜けてしまうトーマス。トーマスは決闘の場にはいなかったため、氷川とのやり取りが頭の中を巡っているのだろう。


 そんなトーマスに、今まで静かにしていた子供が駆け寄り手を差し伸べる。


「大丈夫?立てる?」


 心配そうに声をかける子供。言葉は分からずとも、トーマスは目の前の子供が自分を気に掛けていることは伝わったようだ。トーマスは、青ざめていた顔色が戻り、恐怖に歪んでいた表情を緩和させる。子供の前でみっともない姿は見せられんと気を引き締め、子供の手を握り立ち上がる。


 しかし、子供だろうと大陸人との体格差は依然として存在する。顔が幼く、体の比率も子供のそれであるが、身長はトーマスと同程度ある。立ち上がったトーマスはそれに気づくが、口の端が引きつく程度に収められたようだ。


 そんなやりとりを見ていた葎は、トーマスが落ち着きを取り戻したのを確認してドールに事情聴取させる。さっきまで内情では恐怖にまみれていたドールであるが、子供とトーマスの微笑ましいような間の抜けたようなやり取りを見て落ち着きを取り戻している。


『トーマスは飛行艇の状態をチェックしていたようです。結果は操縦系統が深刻なことを抜けば、被害は軽微だそうです』

『修理して飛び立てるにはどのくらいかかる?』

『修理自体は1~2週間ですが、部品がないので無理だそうです』


 葎の質問をドールを介してトーマスに伝え、返答をまたドールを介してやりとりのするので時間が掛かる。その甲斐もあり、葎は大まかな状態な飛行艇の機能と状態を聞くことができた。途中、葎はトーマスの話が明らかにドールの返答よりも多いことが気になったが、これはただトーマスがおしゃべりなだけらしい。


 説明を受けている間、子供は熱心に聞いていたが、女性は途中でどこかに行ってしまった。見渡すと、女性は少し遠くの方で小人に餌付けをしている。いつの間にか持っている鍋で、いつの間にか獲っている魚を煮て振る舞っている。


『何してんだ?…おい、お前らは食べ物に対する警戒心はないのか?さっきまで俺にはあんなに反抗していたのに』

『いえ、ないわけではありませんが、我々は遭難していて食べ物がないのです。目の前で料理の匂いを嗅がされて耐えられなかったのでしょう』

『持ち合わせが一切ないのか…長老に頼んだ分で足りるか?』


 すごい勢いで飯をかっ込んでいる集団を見て、長老への支払いを多くすべきだろうかと悩む葎だった。

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