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アンチノイズ ―それでも音は僕らをつなぐ―  作者: 夢見る冒険者


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第21話 親子?

瑠璃たちがジェットコースターから戻ってくる頃には、俺の体調もだいぶ落ち着いていた。二人が近づいてくるのに気づき、軽く息を整えて顔を上げる。


視界に入った瑠璃は、今にも「ふんすふんす」と言い出しそうなほど興奮していて、全身から満足感が滲み出ていた。


思わず苦笑しつつ、彼女に問いかける。


「瑠璃、楽しかったか?」


そう問いかけると、瑠璃は迷いなく、こくりと大きく頷いた。


「……楽しかった」


短い一言。けれど、その声はわずかに弾んでいて、普段の無機質さとは違う温度を帯びている。それがあまりにも嬉しそうで、つい口が軽くなる。


「じゃあ、もう一回行くか?」


半分冗談、半分本気。そんな調子で言ったが——


「もう満足したから、大丈夫」


あっさりと、しかも即答で断られる。……あれ?


ほんの少し肩透かしを食らった気分になりながら、視線を横に流すと、律花がどこか呆れたような目でこちらを見ていた。


——あんた、懲りないわね。


そう言われている気がして、俺は小さく視線を逸らした。律花は一度だけ目を伏せると、すぐにこちらへ向き直る。


「一旦休憩かねて、あそこのキッチンカーで何か飲まない?」


その提案に、


「そうする」


瑠璃が即座に乗り、


「そうするか」


俺も小さく頷く。


三人で並んで歩き出し、キッチンカーへと近づいていく。距離が縮まるにつれて、美味しそうな甘い香りがふわりと漂ってきた。


近くに置かれた看板には、色とりどりのメニューが並んでおり、クレープにアイスにドリンク。どれもいかにも遊園地らしいラインナップが揃っていた。


どれもおいしそうなのだが今は見るだけで、胃の奥からこみ上げてくるものがある。


(……さすがに、今食べたらやばいな)


まだ完全に回復したわけではない胃の状態を自覚しながら、俺は無難に飲み物へと視線を落とした。


少しして、それぞれの注文が手渡される。


瑠璃は、いちごバナナチョコのスペシャルクレープとアイスティー。

俺はブルーハワイ・ソーダ。

律花は自家製レモネードを頼んでいた。


二人の注文を見て、思わず目を引かれたのは瑠璃のクレープだった。顔の大きさに近いんじゃないかと思うほど大きく、クリームもチョコも惜しみなく盛られている。


無意識に、そのクレープをじっと見つめてしまう。


(……あれ、食べきれるのか?)


そんな疑問が浮かぶと、律花も同じことを思ったらしい。


「意外と食べるのね、瑠璃」


少し驚いたような声を上げながら、小さく呟く。それに対して瑠璃は、まったく気にすることなく。


「うん。甘いものは別」


と、淡々と答えていた。それぞれ注文したものを手に持ちながら、テーブルに腰を下ろす。そうして、ようやく一息ついた。


遊園地の喧騒が少し遠のいて、ここだけ切り取られたみたいに、穏やかな時間が流れ始める。


件の瑠璃はというと、手に持ったクレープに夢中だった。大きなそれを両手で支えながら、一口、また一口と丁寧に食べ進めていく。


そのたびに、ほんのわずかに目元が緩む。


(こういう時は、ほんと分かりやすいな)


普段の無表情からは想像できないくらい、小さな変化がはっきりと見え、思わず、じっと眺めてしまう。


すると、口元に、白いクリームがついた。


本人はまったく気づいていないのだろう。気にする様子もなく、そのまま次の一口へと進んでいく。それを見て、律花がわずかに表情を緩めながら、カバンに手を入れた。


「ほら、じっとして」


そう言って取り出したハンカチを、瑠璃の口元へとそっと当て、付いていたクリームを、優しく拭い取った。


「……」


ルリは一瞬だけ目を瞬かせる。けれどすぐに状況を理解したのか、


「ありがとう」


と、素直に礼を言った。そのやり取りがあまりにも自然で、気づけば、言葉がこぼれていた。


「なんか親子みたいだな……律花がお母さんで瑠璃が子供って感じ」


そんな言葉が、するりと口をついて出る。律花もまんざらではないのか、頬を緩めていた。


「そうかもしれないわね」


なんて、くすりと小さく笑う。その声音は柔らかくて、三人の間にほんのりとした温度が広がった。どこか、気の抜けたようなけれど心地いい、そんな空気が流れる。


——けど、


「じゃあ、湊がお父さん?」


ぽつりと。瑠璃が、首をわずかに傾げながら、純真な瞳で問いかけてくる。


「ぶっ……!」


その言葉に俺は思わず飲んでいたドリンクを吹き出しそうになる。必死で口元を縛って、なんとか耐えたが、驚きのあまり目を瞬かせながら瑠璃を見つめてしまう。


(そんなわけないだろ!)


そんな言葉が出るよりも早く、律花がじわじわと頬を赤く染めながら、キッ、と俺を睨んできた。


その視線は明らかに……はめたわね。そう告げているようだった。


「待て待て待て。誤解だ、誤解」


思わず、言葉が前のめりになる。自分でも分かるくらい、声に焦りが滲んでいた。


「ただ、二人の表情が微笑ましいって思っただけで……その、変な意味とか、そういうのは一切なくて」


言いながら、どんどん弁解じみていくのが分かる。そのせいだろうか。律花の目はさらに細められ、じっとこちらを見据えてくる。


(……本当に?)


そう探るような視線で。どこか疑うような、少し蔑んだように見つめてくる。


(……こわい)


思わず身が竦みそうになるのをこらえながら、俺は言葉を重ねる。


「本当だって。今まで作ってきた曲に誓ってそう言える!!」


少し叫び声に近い響きになっているのを自覚しながら、そこまで言い切った。すると、律花の表情が、ほんのわずかに緩んだ。そして、ふっと肩の力を抜く。


「……ま、そこまで言うなら。信じてあげる」


その言葉を聞いて、俺もようやく肩の荷を下した。どっと疲れが押し寄せるのを感じる。未だに、先程の緊張が残っているのだろう、自分の手が、わずかに震えていることに気づいた。


少し息を吐いて自分の気持ちを落ち着かる。テーブルの上のドリンクに手を伸ばした。指先に残る微かな震えを感じながら、俺はカップを持ち上げる。


そのまま、ゆっくりと口をつけて……ごくり。と一口飲んだ。


冷たい液体が喉を通っていく。それと一緒に、さっきまでの緊張も少しずつ流れていく気がした。


「……はぁ」


小さく息を吐く。ようやく、本当に一息ついた気がした。


その後も、瑠璃が選んだアトラクションを楽しんでいく。初めてだからだろう。はしゃぐその姿に、どこか昔の自分を重ねてしまう。


初めて遊園地に来たときのこと。そして、曲を作り始めたあの頃のことを。胸の奥に、じんわりとした温かさを抱えながら気がつけば、閉園時間まで遊び倒していた。

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