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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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47.【一瞬】

引き続き過去回です。

 一週間後ーー


 ブォンッ! ガダンッ‼︎


 生徒会室での約束通り、テレーズがライザ嬢の作成した『火』魔石を木箱に詰め、グラシース侯爵邸へと転送してくれた。かなりの重量なのか、床にそれなりの衝撃音を響かせる。


 魔法陣が敷かれた部屋の中、ヴォレークがその中身を確認しようと、そっと木箱に触れた。



 セレスティーナ嬢が狙われる少し前から、グラシース侯爵邸のセキュリティーは厳重に強化されていた。ヴォレークに恋焦がれた令嬢からの狂気的な手紙や贈り物に悩まされていたからだ。

 中には呪物のような怪しいモノも含まれており、それを仕分ける使用人が危険に晒されたこともあった。


 届け物は配達人に頼んで、門扉横へ新たに設置した小部屋のような箱の中へ入れ、扉をガチャリと閉めてもらう。すると、荷物が邸宅内の一室に転送される仕組みだ。

 その際、品物が検閲されるよう陣の構成に設定しており、不穏なブツは贈り主の元に強制送還されるシステムとなっている。悪意ある品物を、不用意に屋敷内へ持ち込まない為だ。


 ただし、差出人が侯爵家同等か、高位貴族家からの場合は、中身も見ずして返送するのは不敬に当たるので、いくら煩わしくとも除外はしていない。

 ちなみに、送り主が不明なときは、転送されずに箱内へ残され、次に配達人が来た時に回収してもらう手筈となっている。


 今回のように直接やり取りしたい場合のみ、ヴォレーク自身が相手に転送魔法陣を記した紙を手渡すか、白鳩姿の手紙で送ることにしたのだ。


 これにより、麗しい貴公子への膨大なラブレターや侯爵宛に送りつけられる不愉快な賄賂(わいろ)もブロック可能となり、使用人達の余分な仕事が一つ減ったのだった。



 カポッ!


「……でかいな」


 木箱の蓋を開けたヴォレークが、中身を見て呟いた第一声が、それだった。


 箱の内容量の大部分を占める一石が、スポーツ競技に使用するボールくらいのサイズ感だ。それが中でガタガタしないよう、隙間に大小様々な結晶石やら加工石やらがぎっしり詰め込まれている。

 機械産業を主力とするどこぞの領主が見たら、泡を吹いて気絶するくらいな魔力量を誇る『火』魔石詰め合わせ超お得パック。


「……こんな規格外な魔石が作れると知れたら、間違いなくライザ嬢は国中から狙われるだろうな」


 そう独り言を呟き、ヴォレークはふっと五日前に見た彼女の顔を思い出していた。



◇◇◇◇



 貴族学院の西側、中等部の校舎裏ーー


 青々と葉が生い茂る大樹の下には、ベンチが一台設置されている。そこに、中等部の真新しい制服を着た女生徒が二人、仲良く腰を下ろしていた。ライザ嬢と友人のアイリス嬢だ。何やら楽しそうな様子で、話に花を咲かせている。

 

 そんなお喋りに夢中な彼女達の上に、陽を遮る二つの影がふっと落ちた。近くを通り過ぎる人の気配だと気づき、少女達は反射的に顔を上げると……。

 

「あ……」

「……」


 ほんの一瞬だけ……ライザ嬢と影の主、互いの視線が交差した。


「「……」」


 だが、急に知りもしない令嬢に話しかけるのは不自然。立ち止まるのも怪しまれる。


 そのまま彼らは、美しい顔をすうっと正面に戻すと、何事もなかったかのように、校舎裏の奥にある池の方に向かって、静かに進んで行ったのだった。


『ありがとう』


 口から飛び出しかけたその言葉を、ぐっと喉奥に飲み込んで……。



◇◇◇◇



 あの日、ヴォレークとレイは生徒会業務の一環として、高等部棟から中等部の校舎裏へと出向いていた。池の調査……というのは、あくまで表向き。本当のところは、テレーズから指定された場所を通過する為だ。



 生徒会室での談話の中で、『グラシース侯爵家とフレイブ伯爵家が急接近したと周囲に知られては困るが、恩人となるライザ嬢の顔も知らないというのは大変失礼だ!』という話がヴォレークから上がった。


 すると、少し考えるような素振りをしてから、テレーズがサラサラとメモを書き、彼にそっとそれを手渡した。


『二日後 午後四時 中等部西側 大樹の下』


 同じ貴族学院の敷地であっても、高等部と中等部はしっかりと区切られており、実はなかなか接点がない。

 そこでテレーズは、ライザ嬢の友(・)人(・)を(・)動(・)か(・)し(・)て(・)、メモの内容通りに妹君をあの場所まで誘導したのだ。


 フレイブ伯爵家は『火』魔石の販売において、国内でも有数の貴族家。彼らの不興を買い、流通を止められては困る家が大半だ。

 ライザ嬢の友人役を担う彼女の家も、脅されているわけではないにしても、テレーズの命令に背くことは絶対に出来ないのだろう。

 テレーズ・フレイブ次期伯爵……味方ならば心強く、敵にはけして回したくない男である。



◇◇◇◇



「セレナが元気になったら、フレイブ家の二人には、改めてお礼を言わないと……」


 そう言ってヴォレークは、木箱を持ち上げ……ようとしたが、あまりに重すぎて持ち上がらず。


「……重っ」


 一旦、手を離してから、魔法杖を取り出し、それをさっと一振り。


 ふわりと木箱を空中に浮かび上がらせると、ヴォレークは大切な魔石を、転送部屋からセレスティーナ嬢の元へと運ぶのだった。

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