表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/44

40.【有給申請】

ようやく説明回が終わります。

 執務机上でカタカタとなにやら動く小箱。蓋を開けなくても、何かの生物が閉じ込められているのは一目瞭然だ。


 カチャッ!


 テルディウスは腰に下げた剣の柄に手を掛け、さっと身構える。だが、それとは対照的に、ヴォレークは焦ることなくソファから上半身を起こした。


「そこまで心配ないから斬るなよ、テディ。あれは証拠品だ」

「証拠品?」

「しかし、(かえ)るのが予想より早かったな。いくらケージによる魔力拘束があるとはいえ、断りなしに提出していくのは、少々マナーがなっていないというかなんというか……鑑識部に後で注意しておかないと……」


 ブツブツと呟きながら、ヴォレークは立ち上がり、魔法杖をさっと振った。


 シャッ! ポワッ……


 分厚いカーテンを閉め、小さな光球を浮かせて、室内に薄明かりを灯す。そのまま手首を捻り、小箱の下に敷かれていた紙をふわりと手元に引き寄せた。ついでに、先程脱げた片靴も。


「それが、近衛騎士の体内から取り出した魔物の卵か?」

「あぁ。檻と鑑定によって魔力を浴び、ある基準値に達したことで卵が孵化したんだろう」


 靴をトントンと履き直し、そう言ってヴォレークは机に近づいた。


 蓋の隙間からそっと中を覗くと、魔法ケージの中では、土蜘蛛(つちぐも)がカサカサと漆黒の手足を動かしていた。


「日光に当たると、地下迷宮に生息する魔物は死滅する。それも利用していたんだから……もはや人間の所業ではないな」

「想像しただけで胸クソ悪い」


 テルディウスが忌々しげにそう吐き捨てた。


 檻でのデイドロワ卿の自白は、聞くに耐えないものだった。廻風迷宮の悪用、純血系血統者からの結晶石採取、人身売買、裏取引、人体実験を用いた研究……どれも、人の命をモノとして扱う、非人道的な行いの数々。


 行方不明者の捜索過程で、偶然、ロッテン伯爵家が所有する廻風迷宮の『秘密』を知り、若き伯爵を利用することで、デイドロワ卿の悪事はさらに加速していった。


 そのうちの一つ、捕らわれた際の証言回避の為だと、土蜘蛛の卵を丸薬と偽り、手下達に飲み込ませていた。皆、捨て駒だ。

 捕縛され迷宮刑となった者は、時間が経てば土蜘蛛が腹を食い破り、命を奪う。さながら時限爆弾。

 用済みとなった者には、魔力を照射して強制的に体内の卵を孵化させる、逃げようがない状況。そして宿主を殺し、身体から這い出た土蜘蛛は、陽の下で消滅……こうして証拠は勝手に消える。ザックスの父親、ミュード伯爵もそうして始末された者の一人だ。

 そうやってデイドロワ卿は、関わった者達の口をその都度封じ、己まで捜査の手が及ばないようにしてきたのだった。


 険しい表情を浮かべて鑑定結果を目で追うヴォレークに、テルディウスが声を掛ける。


「で、それには一体、何が書いてあるんだ?」

「土蜘蛛の身体から……キャニバス伯爵家の魔力が検出された」

「キャニバス伯爵家? 由緒正しい『土』属性の……確かあそこも純血系貴族だったな。それが?」

「失踪したロッテン前伯爵夫人の生家だ」

「何? じゃあ夫人は……その土蜘蛛に食べられたってことか⁉︎ いや……でも、それではおかしいな。彼女はかなり昔に行方不明になったはず」

「あぁ、そして前伯爵も数年前に突如、消息不明。子息がその伯爵家を継いだ。しかし、この鑑定結果は……キャニバル伯爵家に報告しづらいな」


 ふぅっと溜息を吐き出してから、天井を仰ぐヴォレーク。彼の手中に握られた結果用紙がグシャッと音を立てた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……………


「は? 今……なんて?」


 戸惑うテルディウスがヴォレークに聞き返す。


「この魔物の母体である迷宮の土蜘蛛は、夫人が人間ではなくなった姿だ。鑑定結果がその証拠。どうやらデイドロワ卿も知らなかったようだな。『ロッテン伯爵家は土蜘蛛の魔物を迷宮内で飼い慣らしている』……ヤツはその程度の認識だった」


 そう言って彼は、また別な調書を机の引き出しから取り出した。


「それは?」

「虚偽申告が発覚した際のロッテン伯爵の薄っぺらい調書だ。だが、伯爵家が取り潰された後、彼もまた行方知れずになっている。ほれ」


 テルディウスは書面を渡されると、ざっと中身を一読する。


「罪状は『階級詐称』か。この段階ではまだ『風』迷宮としての登録なんだな。ん? 現当主だったロッテン伯爵自身は『風』属性か」

「彼は養子だ。夫妻に子供はいなかった……いや、成せなかったんだよ」

「成せなかった?」


 ヴォレークは一瞬、間を置いてから、また語り出した。


「長い年月、同属性同士の婚姻を繰り返した純血系貴族の身体は……魔物と同じか、それに匹敵する魔力の組成となる」

「なっ⁉︎」


 短く驚きの声を上げたテルディウスだが、すぐに納得がいったといわんばかりに首を縦に動かす。


「そうか……なるほど、だから結晶石が……なぁ、ヴォレーク。お前の方こそ、どこまで知っていたんだ?」

「我がグラシース侯爵家も当て嵌まるからか、純血系の危険性については、以前からレイの父上、ラグナット卿から聞かされていた。血の歴史において『魔力量が人間を超越している者が出始めた』と……そしてそれは、破裂寸前の風船と同じ……で、そこに……子、子作りで……あの……その……そういう行為で……た、体内に魔力が入って……」


 話途中で、ヴォレークが急に顔を真っ赤にし、なんだか言いにくそうにゴニョゴニョと口籠った話し方になる。

 それで察したテルディウスが、呆れた声を上げた。


「……おいおい、ヴォレーク。恥ずかしがりながら言われると、余計に気まずいだろうが。で…………えっと要するに、子を孕ませる過程において、男性側の魔力が女体に流入することで、保有する魔力量が閾値(いきち)を超え、夫人は魔物へと変貌してしまった……そう言いたいのか?」

「お、おう!」


 テルディウスの言葉に、ヴォレークがこくこくと頷く。


「ロッテン前伯爵は、元々B級だった廻風迷宮にS級魔物と化した奥方を放り込み、(かくま)っていたんだろう。当時、行方不明となった探索者は皆、彼女の『餌』というわけだ」

「純血系でさらなる『土』属性同士……あぁ、だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……それだけじゃないがな。なぁ、テディ」

「なんだ?」

「もしも……俺が化け物になったら……その時は……お前が俺を殺してくれ」


 ヴォレークはテルディウスを真っ直ぐに見つめ、静かにそう告げた。


 だが、彼からの返答は意外なものだった。


「嫌なこった」

「なっ⁉︎」

「お前は死ぬまで人間で、俺の友人として生きるんだよ」


 そう言うとテルディウスは、拳でヴォレークの胸をコンッと軽く叩いた。流石に今度は力加減を覚えたようだ。


「……あぁ、そうだな。悪い。変なことを言った」


 苦笑いをしてから、ふっとまた真面目な顔へと戻り、ヴォレークが話を続ける。


「貴族なら血統がはっきりしているし、所在もわかるからデイドロワ卿も狙いやすかったんだろう。平民でも、魔力量の多い者の中にはごく(まれ)に純血者もいる。上位ランカーの中には餌としてだけでなく、実験的に殺された者も多数いたはずだ」


 ターニャの仲間達はそうして迷宮内で殺された。唯一、レジェの心臓部が綺麗に抉り取られていたのは、身体から結晶石が出来たのが彼だけだったからだろう。


「しかし、あの魔石埋没法という手術方法の裏で研究されていたのが、不老不死や死者蘇生だったとは……」

「馬鹿馬鹿しい話だ。永遠などないし、一度失われた命が戻ることは二度とない。どこかの国では、首を斬られたのに死に戻った令嬢がいるという噂もあるが……そんな御伽話(おとぎばなし)みたいなこと、現実にはありえない」


 太い腕を組み、大きく溜息を吐き出すと、今度はテルディウスがヴォレークをじっと見つめる。


「デイドロワ卿の証拠品は順に押収させるが、量が多いだろうから、完了するには時間がかかるだろう。王女の所有物の方がまだ先に終わりそうだ。お前なら……その結晶石達を、家族の元に帰してやれるのか?」

「貴族家は魔力パターンが登記されているからな。鑑定すれば元が誰かわかるだろう。探索者については、俺の能力を使って全力を尽くそう。どこまで出来るかは分からないが、やれるだけのことはやるさ。ただ……」

「ん? なんだ?」

「明日は有給休暇を申請する。セレナの手術があるからな。セレナの身体から無事に魔石が取り外せ次第、証拠品としてこっちに送るから、後はよろしく」


 ヴォレークの言葉に、テルディウスが怪訝そうに首を傾げた。


「『よろしく』って、お前……王女の断罪に立ち会わないつもりか⁉︎」

「あぁ。俺が行ったら、アレを無駄に喜ばせるだけだ。それに……俺の記憶にこれっぽっちもアレの存在を残したくはないんでね」


 そう言うと、ヴォレークはヒュッと杖を振り、カーテンを勢いよく開けたのだった。

次話で久しぶりに主人公が戻ってきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ