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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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35/36

35.【絶対に救う!】

 レイ達が部屋に到着した後、ザックスが紅茶を一杯飲み終えた頃合いで、ベッドの方から布擦れの音が聞こえてきた。


 ゴソゴソッ……バサッ!


 薄い掛布団を足で蹴り落とし、ベッドに寝そべったまま全身で伸びをする少女。その可愛いらしい口唇から、唸り声が吐き出される。


「ゔぅ〜〜んっ!」

「あぁ、()()()()()()()()()()、セレスティーナ様」


 カチャリ……


 持っていたカップをソーサーに置き、ザックスがセレスティーナ嬢の方を振り返る。すると彼女は、小柄な身体を勢いよく起こして、ベッドからピョンと飛び降りた。


「ただいま、ザックス! ……って、あれは何? 空気がすこぶる悪いわね」


 そう言って、セレスティーナ嬢は怪訝(けげん)な顔で、部屋の片隅をクイッと顎で指し示した。


 そこには、椅子に向かい合って腰掛け、仲良く項垂(うなだ)れる二人……ヴォレークとレイだ。間に挟まれた丸テーブル上に、彼ら分の紅茶も用意されていたが、どちらも手付かずのまま残されている。


 ザックスもそちらを一瞥(いちべつ)してから、また視線を戻し、ニッコリと少女に微笑んだ。


「あぁ、あれらは適当に放っておいて大丈夫です。それよりも、どうでした? 練習とはいえ、()()()()()()()辿()()()()()()()()?」

「えぇ! バッチリよ!」

「「えっ⁉︎」」


 ザックスとセレスティーナ嬢の会話を聞き、ターニャとアグウィが同時に驚きの声を上げる。


「……」


 レイも己の頭を切り替えるように、目の前の冷めた紅茶を一気に飲み干し、椅子からスッと立ち上がった。


「おはよう、セレナ。今の話はつまり……お前は()()()()()()()()()()……ということか?」

「えぇ、そうよ。お兄様が、お義姉様の今いらっしゃる位置を光の魔法陣でマークしてくれたから、体内を巡る魔力の流れに自分の意識を乗せ、そこを目指した……ってわけ」

「「「……」」」


 自分の胸を指差しながら、さも当然のように、サラリと言ってのけるセレスティーナ嬢。


 理屈は分かる。でも、口で説明したことを即座に誰しもが実行できる程、生半可(なまはんか)な技術ではない……高度な魔力のコントロール。

 アグウィが金タライで氷漬けにされていた際、身体は『水』属性でありながらライザ嬢から流入する『火』魔力を扱えたり……紛れもなく、セレスティーナ嬢は天才肌だ。彼女からは、グラシース侯爵家の優秀な血統を感じる。


「そうそう、お義姉様の魂自体が自らを護ろうと、私の身体の『水』魔力を活用して保護膜を作ったみたいよ? 素晴らしいわ! それにしてもお義姉様……水のクッションの中で丸まって眠ってて……愛らしいったらありゃしない! リアル女神様の寝起きドッキリよーーーー!」 

「まぁ! 鼻血が出てますよ、お嬢様! とりあえず落ち着いて……」

「ふぐうっ!」


 ターニャにハンカチで鼻をギュッと摘まれ、暴走気味なお嬢様の動きがピタリと止まる。


 ガタンッ!


 その時、セレスティーナ嬢の報告を生気の失せた顔で聞いていたヴォレークも、ようやく立ち上がり、重たい口をゆっくりと開いた。


「ライザ嬢が『水』属性……俺と『お揃い』だな」


 ………………


「おい、こっそり喜ぶなぁぁーーーーっ!」


 レイが愚かな従兄弟に向けて、怒鳴り声を上げる。


「はっ! お兄様ったら甘いわね! 私はお義姉様の『火』属性も使えるわよ! っていうか、今、一心同体よ〜〜ほほほほ! 私の方が上だわ!」

「あっ! ずるいぞ、セレナ!」

「だから、張り合うなぁぁーーーーーーっ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ、三人のやり取りを眺めていたザックスは、深々とあからさまに溜息を吐き出した。


「はぁぁぁぁぁぁ……」


 すると、急に思い出したかのように、ヴォレークが彼に噛みつく。


「そ、そうだ、ザックス! こ、婚約者のいる女性を呼び捨てにするってのは、ちょっとどうなんだ?」

「……私とライザは友人同士、愛称で呼び合うのに何か問題でも? 婚約者の友人関係に口出しする程、余裕が無いんですか? ヴォレーク殿はそんな狭量な男なんですか?」

「ぬぐっ!」


「そういえば……ザックス、お義姉様のこと、ちょっと口説いてたでしょ?」

「さぁ、なんのことでしょう?」

「なっ⁉︎」


 驚きのあまり言葉が出ず、口をパクパクさせるヴォレークを無視して、ザックスはセレスティーナ嬢に向けて話を続ける。


「ライザは清く正しい伯爵令嬢。一応はヴォレーク殿という婚約者がいる状況下において、不貞に当たる行為や、それと疑われるようなことは絶対に避ける。……どんなに苦しくても、辛くても……どんなに私が両手を広げても……ライザはこの胸には飛び込んで来ないんですよ。だから……ヴォレーク殿のことをきちんと、彼女自身がしっっっかり嫌いになってもらわないと……」

「……は?」


「婚約解消が円満に済み、グラシース侯爵家とフレイブ伯爵家が関係を清算し終えたら、その時は改めて、全力でライザを口説こうとは思っていますよ?」

「ほ……本人を前にして、よく言えたもんだな」


 ザックスの背中に向けてヴォレークが恨み言を吐くと、彼は顔だけをちらりと向け、冷たく言い放った。


「そうかい? むしろ裏で言うより、正々堂々としていて潔くないか?」

「うぐっ……」


 薄笑いを浮かべたザックスの言葉に(ひる)み、情け無い表情を浮かべるヴォレーク。


 するとザックスが突如、彼の胸ぐらをグッと掴み上げた。


 ガツッ!


「ザックス⁉︎」


 レイがギョッとして、義弟の名を呼ぶ。


 呼ばれた当の本人は、真正面からヴォレークを睨みつけて……だがすぐに、その手を彼の服からパッと離した。


「ザ、ザックス?」

「理屈の通りに人間が動くのなら、誰も恋になんて悩まない……どんなに私が愛を(ささや)いても、ライザが振り向いてくれないなら……なんの意味も無いんだから……」

「?」


 (うつむ)くザックスの独り言は、ヴォレークの耳には届かなかったようだ。


 そんな二人のやり取りを、下からじぃっと見守っていたセレスティーナ嬢が、意外そうに声を漏らした。


「あら……ザックスったら、もっと怒り狂って、なんか、こう……お兄様の靴を片一方隠したり、服を全部裏返しにするとかやっちゃうかと思ったのに……」

「……セレスティーナ様は一体どんな嫌がらせを期待なさってたんですか? まぁ、正直なところ、こんな残念麗人(れいじん)にライザを()(さら)われるとは思ってませんでしたから、腹立たしいのは否めないですかね」

「い、言い方ーーっ!」


「でも、ヴォレーク殿……これだけは言っておきます。私は……ライザの愛らしい顔を曇らせる、この世の全てのモノを排除したい。でも、本人が望まないことは絶対にしたくないんでね……あくまで、私は彼女に選択肢を提案しただけです」

「好かれていることに余裕ぶっこいて、お義姉様の気持ちを考えなかった罰ね……ざまぁないわ」

「……」


 二人に返す言葉が見つからず、ヴォレークが沈黙し、重苦しい空気が部屋に漂う。



 その雰囲気を切り替えようと、セレスティーナ嬢は突然、両手を打ち鳴らした。


 パンッ!


「はい! お兄様へのお説教会は、また改めて開催するとして……私、ちょっと聞きたかったことがあるんだけど……」


 すると、彼女の言葉にレイが応じる。


「ん? なんだ?」

「王女が私の命を狙った理由はこの前教えてもらったけど、それだけだと『純血系貴族が狙われる』って話と、なんか噛み合わないのよね。ターニャ達の仲間の件だって、何か繋がりがあるんでしょ?」


「おや、察しがいいな、セレナ。あの色ボケ極悪王女に、入れ知恵をした貴族がいるんだよ。そいつの狙いもお前の命だった……利害の一致さ。そして、横取りするつもりだったんだよ、セレナの死体を……」

「うげぇ……ハイパークソ野郎ね。反吐(へど)が出るわ」

「セレスティーナ様、言葉遣い……ライザに聞かれても困らない範囲でお願いしますね?」

「あ! おほほほほ!」


 ザックスに(たしな)められて、セレスティーナ嬢が口元に手を遣る。彼女の口の悪さは、どうやらレイ譲りなようだ。


「ライザ嬢……」


 ヴォレークは愛しい婚約者の名前を呟いてから、室内にいる全員をぐるりと見回した。


「俺は今日この後、王宮に出向いて取り調べに参加する。そして明日はいよいよ、セレナの手術だ。魔石を取り外せ次第、ライザ嬢の心臓及び魔臓に刺してある連結杖を引き抜く。これが無事成功しなければ、彼女の意識は戻らない……だが、絶対に救う! そして……俺は……心からの言葉を伝えて、彼女の誤解を解きたい!」


 それを聞き、皆が静かに頷く。ザックスだけは微動だにせず、ただ目を瞑っていた。彼なりに思うところがあるのだろう。


「セレナ……もういっそ、この際だから……ほ、他にライザ嬢は何か言っていなかったか?」

「何? またトドメを刺されたいの? 他? 他には……あっ!」

「な、何だ⁇」

「お義姉様……昨日の朝食に出されたスープのレシピが欲しいって、さ」


 そう言って、セレスティーナ嬢はニヤリと笑った。

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