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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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34.【誤解しかしていない】

 セレスティーナ嬢の部屋の前で(うつむ)くアグウィ。するとレイが指先で、彼の顎をくいっと持ち上げ、ジロジロとその顔を眺め回す。


「顔色が優れないな。眠れなかったのか? まぁ、慣れない環境じゃ仕方あるまい。無理はするなよ」

「っ!」


 自分を(おもんばか)ってくれる優しい言葉が逆に辛いのか、アグウィはぎゅっと顔を(しか)めた。


 『裁かれたい』と願ったのに、それが叶わず……結局、昨晩は一睡もできず夜が明けた。

 そして今朝方のヴォレークは、他の使用人と同じように自分と接してくれた。だが、それがかえって居心地の悪さを増幅させたようだ。


「……」


 悔恨(かいこん)の念に(さいな)まれる青年を見て、レイが深く溜息を吐き出した。


「アグウィよ。己の過ちを反省し、深く後悔してるというのなら、この先、一生懸命セレナに仕えることで償え。彼女の幸せを心から願え」

「レイ様……」


「それに……お前だけじゃないさ。なぁ、ターニャ?」

「えぇ。アグウィの他にも、グラシース侯爵邸に侵入して取っ捕まり、使用人になった者が何名もゴロゴロいるから大丈夫よ」

「……は?」

 

 ポカンとするアグウィを見て、ターニャがニヤリと笑う。そしていきなり、彼の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。


「わっ! なにすんだよ⁉︎」

「坊ちゃまに『皆と共に、仲良く働いてくれ』って言って頂いたんだから、その通り頑張んなさいな。お前が暗い顔していたら、それこそお嬢様が心配するでしょ? いい? わかった?」

「う……うん。わかっ……」


 昔に戻ったように、ターニャへ素直に言葉を返そうとしたアグウィ。


 だが、彼の言葉を遮るように、突如、低く唸るような奇声がセレスティーナ嬢の部屋から漏れ聞こえてきた。


「ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」



「「「⁉︎」」」


 三人は互いに顔を見合わせると、レイが扉を勢いよく開けた。


 バターーンッ!


「どうした⁉︎ 一体、何があったんだ⁇」

「あぁ、義姉さん……ちょっとお静かに……」


 声を張り上げ室内に入ってきた彼女を、書類の束を抱えたザックスがやんわりと注意する。そして、自分の口元にそっと人差し指を立てた。


「おっと、すまない。それより、今の声は……」


 言いながら、彼女の視線が素早く部屋の中を見回し、一点で止まる。

 

 ベッドの上、両手を腹部の上で握り、目を閉じ横たわるセレスティーナ嬢……の横で、この世の終わりのような顔をしたヴォレークだ。

 頭を抱えて下を向き、血の気の失せた顔で椅子に座っている。その半開きな口からは今もあの奇声がゴボゴボと漏れ続けていた。ネルトワーグ国内、令嬢の憧れ殿方ランキング1位の貴公子はどこへ行ったのやら……今ならもれなく、乙女達の夢を一瞬で粉々にぶち壊せそうだ。


「ヴォレーク……な、なんて酷い顔……まさか、ライザ嬢の状況はそんなに深刻なのか⁉︎」

「いや……あれはセレスティーナ様から聞かされた話に相当なショックを受け、立ち直れずに、グダグダと過去の自分を悔い嘆いている、ただの情けない男の顔です」


 レイの心配をよそに、ザックスがしれっと身も蓋もないことを言い放った。


「は?」

「ライザの魔力は、かなり微弱ながらも深部、セレスティーナ様の魔臓内から探知できました。どうも、彼女の魂を守り包むように、水属性の魔力が周囲を覆っていたようです。その為、セレスティーナ様ご自身では見つけにくかったのでしょう」


「……セレナは……眠っているのか?」

「いえ。覚醒はしていますが、()()()()()()()

「?」


 ベッドで仰向けになっている少女に、こちらの会話は届いていないらしく、彼女はピクリとも反応を示さない。


「「……」」


 一緒に室内に入ってきたターニャとアグウィは、状況がよく飲み込めず、二人揃って呆然としていた。それをちらりと見遣ってから、レイはザックスに向き直る。


「ザックス。悪いが、もう少し詳しく状況の説明を……」

「ライザの魂がセレスティーナ様の中に入っていたことは、義姉さんも既にご存知ですよね? その時に聞こえた彼女の心の声を、正直に兄君へセレスティーナ様が伝えた結果……こうなりました」


 そう言って、廃人のような彼に手を差し向ける。


「内容は……えっと、たしか……『妹がいることを教えてくれなかったのは、自分には教える価値もないからだ』『大好きな妹を救う為に私を生け贄にした血も涙もない人』『心臓を奪う計画を立てた人殺し』『仮初(かりそめ)の婚約者』『幻想魔法を贈る労力すら無駄』『妹に叱られて悦ぶ被虐嗜好者(マゾヒスト)』だったかな? これでも、一部抜粋ですよ?」


 どうやらセレスティーナ嬢は、親愛なるライザ嬢の心の声を、余すことなく記憶していたようだ。


「あははははっ! すごいな、ライザ嬢は……見事なまでに、誤解しかしていない……」


 ガタンッ!


「わ、笑いごとじゃないぞ、レイ」


 その時、ようやく椅子からヴォレークが立ち上がった。だが、ショックが尾を引いているのか、足取りがおぼつかず数歩よろけた。

 その様子をザックスが冷ややかな目で見つめる。


「ヴォレーク殿もいい加減、現実を受け止めて下さいよ。これが貴方のやってきた『愛しい婚約者との交流』の結果です。全く、ライザをこんっっなに悲しませるなんて……婚約者失格なんじゃないですか?」

「うぐぐぐぐっ……」

「ほら、言わんこっちゃないじゃないか」


「あ、ちなみに義姉さんもしっかりと巻き添えくってますからね? ライザは二人を恋仲だと勘違いしているので」

「……」


 ザックスの言葉を聞き、(しば)しの間を開けてから、レイが驚きの声を上げる!


「はぁ〜〜? 天変地異が起きても有り得んだろ⁉︎ 私にはテディという可愛い婚約者がいるのに……なぜそうなった⁇」

「あの日……義姉さんが退室した後の会話で、ヴォレーク殿が言ったんです。『俺のせいで式が遅れた』って……その通りなんですけど、聞きようによっては新郎の台詞(セリフ)とも取れる」

「……」


 レイがヴォレークを振り向き絶句しているが、ザックスはそのまま言葉を続ける。


「『二人は相思相愛でお似合い』『自分は役割としての婚約者だから、ヴォレーク様のことは諦める』『笑顔で祝福を』とかなんとか……あ、これもセレスティーナ様から伺った、ライザの心の声ですよ?」


 そう言って、ザックスはニッコリ微笑んだのだった。

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