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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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33.【 おつかれ! また明日!】

 ライザ嬢を救うべくヴォレーク達が場所を移し、しばらくしてから……グラシース侯爵邸の一室、先程まで皆がいた部屋の転移魔法陣が突如、光り輝いた。


 ブォン! しゅぅぅぅぅ……


 閃光の収束とともに、転移してきた人物の輪郭がだんだんとはっきりしてくる。陣の中央、片膝をついて、(うつむ)(しゃが)むのは……昨晩、ザックスを屋敷に残し、帰宅したレイだった。彼女の右手には小さな懐中時計が握られている。どうやらそれが、この通用口のカギの役割をしているようだ。


 彼女が乗り込んでくることを、前もってヴォレークは予測していたのだろう。彼の指示で使用人が一人、室内に待機していた。

 すると青年は、緊張した面持ちでその口をゆっくりと開いた。


「お、おはようございます、レ……レイ様。お、お待ちしており……」


 そう訪問者に声を掛け……ている途中で、彼はピタリと動きを止める。部屋が異常なほど、急速に冷え込んでいくのを肌で感じ取ったのだ。この冷気の発生源はもちろん、目の前の彼女。

 無意識的なのだろうが、その静かなる怒りにより、空気中の水分が極微な氷の粒子へと変えられていく。その為、室内温度はあっという間に氷点下へ達した。


「おはよう、アグウィ。ヴォレークは……今、どこにいる?」

「ひぃぃぃぃぃぃっ! レ……レレレ、レイ様⁉︎」


 彼女の麗しい見た目とは似つかわしくない、濁った野太い声を聞き、青年が震え上がる。


「昨日の(やから)達を『自ら取り調べる』と豪語していたくせに……今朝になって、私の大切な婚約者に、手紙一通で丸ごと押し付け……王宮へ登城せずに……一体、屋敷で何をしている? まさかとは思うが……『可愛いセレナがせっかく元気になったけど、やっぱりまだちょびっと心配だから、今日はお仕事お休みで〜〜』とか、ふざけたことを抜かしては……」

「ぬ、抜かしてません、抜かしてません! 違うんでらっしゃいます‼︎ お坊ちゃま様は、ライザ嬢殿の超絶一大事なんでございまするーー‼︎‼︎」


 平民出身のアグウィは、ぐちゃぐちゃな敬語を使いながらも、慌ててレイに弁明する。


「何? ライザ嬢⁇ どういうことだ⁉︎ きちんと説明せーーい‼︎」

「ははぁーーーーーーっ!」


 ブチ切れているレイの怒声が部屋に響き渡り、アグウィはもう半泣きだ。完全にとばっちりである。その目元に浮かんだ涙はピキッと凍り、氷膜で引き攣れた顔になった彼は、その場にガバッと平伏(ひれふ)したのだった。



◇◇◇◇



「なるほど。わかった。先程は怖がらせて、すまなかったな」

「い、いえ……」


 レイが令嬢らしからぬ大股で、ズンズンと侯爵邸の長い廊下を突き進みながら、ちらりと振り向き、アグウィへ軽く謝罪する。屋敷内の配置がまだわからない彼は、置いていかれぬように、彼女のすぐ後ろをつき従っている。

 だが、一応はこの移動までの間に、怯えながらも、ざっと大まかな説明だけはできたようだ。猛獣のようだった彼女が、すっかり落ち着きを取り戻している。


「そうそう、言い忘れていた。アグウィの相棒は無事だ。今朝もしっかりと食事を取っていたぞ? もう少し我が侯爵邸で養生させてから、お前の元へ返そう」

「あ……ありがとう……ございます!」


 大切な存在の息災を聞けた青年は、ピタッと足を止め、深々と彼女に頭を下げた。


 レイはそれを見て、軽く頷いてからまた前を向き、階段前を通過し、右に曲がる。すると、セレスティーナ嬢の部屋の扉前にいる侍女が視界に入った。ターニャだ。彼女の方も二人に気づき、そっと会釈をする。

 今回の一件に深く関わりがあるターニャとアグウィには、ある程度の事情が知らされているようだ。


「おはよう、ターニャ」

「おはようございます、レイ様。そこのアグウィ、なにか粗相(そそう)を致しませんでしたか?」


 ジロリとターニャが目だけを動かすと、アグウィがビクッと肩を震わす。いつもの冷静なレイが、二人の様子を見てふっと笑い、彼女へ言葉を返した。


「大丈夫だ、ターニャ。おい、アグウィ……その服、なかなか似合っているぞ?」

「えっ⁉︎ あ、あ、ありがとう……ご、ございます……あ、あのぅ……」


 彼女から予想外な言葉を掛けられて困惑しながら、おずおずとアグウィが話を続ける。


「じ、自分で言うのもアレですが……罪人の俺が侯爵邸内でこんな……普通に働いていて……いいんでしょうか? もっと、こう、なんか……奴隷のように地下迷宮へ押し込められ、二度と出られず、昼も夜もないような生活を……」


 ゴンッ!


 言葉の途中で、アグウィの頭から鈍い音が鳴った。ターニャが拳骨(ゲンコツ)を落としたのだ。


「痛ぇっ!」

「お前は〜〜! 昨晩、坊ちゃまが言っただろ? 聞いてなかったのか?」

「⁇⁇」


 両手で頭を押さえたアグウィは、ターニャを見つめながら首を傾げた。


「なんだ? アグウィはそんなに働きたいのか? 随分と殊勝なヤツだな」

「い、いえ、レイ様。そういう意味では……」

「罰せられる覚悟でいたのに、自分を拘束しないどころか、自由にさせてくれる坊ちゃまのことが、不思議で不思議で仕方ないんですって」


 ターニャがアグウィの気持ちを代弁する。


「まぁ……ヴォレークには()()()()()()()()()()……それに言っただろ? セレナが許してるなら、不問だ。お前はもう、この屋敷の仲間なんだから……」

「仲間……」


 レイの口から出た言葉で、ふとアグウィは昨夜のことを思い出していた。



◇◇◇◇



 昨晩、セレスティーナ嬢が眠りについた後……アグウィを脅していた騎士達は、警備隊が全員捕縛。そして、監禁されていた彼の相棒も、無事に救出された。

 


 時計の短針は頂点をとっくに通り過ぎ、日付の変わった深夜、三人は転移魔法陣を使ってグラシース侯爵邸へとようやく帰還した。

 アグウィの相棒は、体調チェックとしてラグナット侯爵邸に直接転送された為、レイは先に帰宅。室内で待っていたザックスも、セレスティーナ嬢の入眠を報告し、退室していった。


 

 パタンッ……


 しんと、一瞬静まり返った室内で、ヴォレークがぐーーんっと背伸びをする。


「ふぅ〜〜。さて、もう遅い。俺達も休もう。ターニャ、アグウィの世話を頼む。部屋に案内を……」

「はっ!」

「あ、あの…… 警備隊に、俺のこと突き出すんじゃ……」


 オロオロと困惑する青年に、ヴォレークが告げる。


「アグウィ……お前は、とある事件に深く関わり、そして、我がグラシース侯爵家の事情を知り過ぎた……だから、ここから帰すわけにはいかない」

「っ‼︎」


 『監禁』という二文字が、アグウィの脳裏を掠める。


「いいか? これから真相究明の為には、お前の協力が必要なんだが、証言されたら困るという存在がいる。裏の仕事として頼まれたんだろ? 俺が言うのもなんだが、王宮管轄の牢屋なんてセキュリティーが甘い。迷宮刑送りにされる前に、ヤツらに消されるぞ? だからお前は、グラシース侯爵邸にて……皆と共に、仲良く働いてもらおうか」


 バサバサッ!


「へ……?」

「働かざるもの食うべからず、よ」


 そう言ってターニャは、アグウィの腕に数セット分の使用人服一式をドサっと渡した。


 昼間の作戦会議の時は、処遇がうやむやになってしまっていたが、アグウィの心は決まっていた。『屋敷に戻ったら、罰を受けよう』……そう思い身構えていた彼が、キョトンとした顔になる。


「えっと……」

「アグウィのお陰で、事件に関与している者達を複数名、捕らえることができた。あらためて、礼を言う」


 そう言って、ヴォレークが間抜け面な青年に頭を下げた。


「坊ちゃま⁉︎ そう軽々しく頭を下げては……」

「えっ⁉︎ あ、頭を上げてください! 俺は礼を言われるようなことはなにも……むしろ、貴方の大切なセレスティーナ様を……だから……お願いします、俺を……」


 そう言って、アグウィは両手を揃えて、前に差し出した。『手枷を付けてくれ』……そのつもりな彼の行動を、ヴォレークは……何を勘違いしたのか、ガシッと両手で握る。


 ………………


「ん?」

「あぁ、おつかれ! また明日からよろしくな、おやすみ! じゃ、あとはターニャよろしくな!」

「あっ、ちょ……ちょっと……」


 バタンッ!


 (ねぎら)いの挨拶も簡素に、彼はささっと自室へと引っ込んでしまった。呼び止めようと、伸ばしたアグウィの手は虚しく、空中で宙ぶらりんとなった。


「たぶん、あれ……握手を求められたと思ったのね。相変わらず、安定の天然っぷりだわ」


 ターニャがボソッとそう呟いたのだった。

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