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『私の心は貴方のモノです』と告げたら、婚約者様に心臓を串刺しにされました……なぜ⁉︎  作者: 枝久


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28.虚偽。

 とっぷりと日が暮れ、夜が世界を支配する。朧げな月灯りが照らし出したのは、元ロッテン伯領の封鎖された『廻風迷宮』。

 入り口の魔法扉が塞がれて、もう五年も経過しているが、その周囲には手入れされている形跡があった。王宮管理下にある為だろう。もっと野晒(のざら)し状態で草が伸び放題かと思っていたので、正直意外だった。

 むしろ、そのすぐ近くに設営されていたギルドの社屋の方が荒れており、外壁の劣化が進んでいた。人間達の活動が停止したことで、朽ち果て、ボロボロの廃墟と化した建物が今回の目的地……アグウィがセレスティーナ嬢を依頼主に引き渡す為の待ち合わせ場所だ。



 ガラガラガラッ……


 小さめな荷車の荷台に酒樽(さかだる)を乗せたアグウィが、入り口ドアから静かに中へと入る。鍵が開いてる時点で、王宮の管理がザルなのか、それとも関係者が王宮内部にいるか……どちらにしてもバレたら大問題だ。


 その(ほこり)っぽい室内で待ち構えていた人間は、目視で確認できるだけで三名。フードで顔を隠しているので素性はよくわからないが、そのうちのリーダー格と(おぼ)しき男が一歩前へ進み出て、静かにその口を開いた。


「連れて来たか?」

「あぁ……ここに……」


 コンコンッ!


 アグウィがそう言って、樽を軽くノックする。


「手荒な真似はしたくないので、眠らせたよ。屋敷から出すのに苦労したがね」

「……中を見せてみろ」

「うぇっ⁉︎」

「何だ? 中身を見せられないのか?」


 そう(うたぐ)る男の言葉で、後方に控える二人の男達がすらりと(さや)から剣を抜き、その切先をアグウィへ向け構える。それは騎士か剣士特有の、その身に染み付いた動き。やはり敵は近衛騎士の可能性が高いようだ。


「……分かったよ」


 渋々返事をしてから、アグウィが酒樽の木蓋をそっと外した。


 その中を上から覗き込むように男がじっと凝視し……中身に手を伸ばす。


 さらり……


 顔を隠すように垂れた、少女の長い髪を手の甲で軽く払うと、男は彼に向き直った。


「間違いなさそうだな」


 酒樽の中には、目を閉じたセレスティーナ嬢が膝を抱えるようにすっぽりおさめられていた。またしても猿轡(さるぐつわ)をかまされた状態だ。


「グラシース侯爵家のお嬢様を(さら)ってきたが……一体、誰にこの子を会わせるんだ?」

「……お前は知らなくていいことだ」

「ちっ!」


 舌打ちをし、フードの隙間から覗く男の眼を(しば)し睨みつけ……先にアグウィが視線を逸らした。

 そして、話を変える。


「まぁ、いいさ。約束通り連れて来たんだから、借金はチャラなんだろ? 俺の相棒も返してくれ」

「……そうだな。もう、お前に用はない」


 ザッ!


 その言葉が合図のように、後方の二人が前へと進み出て、中央の男も自身の剣を抜いた。


「おいおいおい! 話が違うじゃねえか!」

「安心しろ。相棒もすぐに後を追わせてやるからな。『侯爵令嬢誘拐犯アグウィ』……後世まで重罪人として、お前の名を残してやる。ありがたく思え」

「ふざけんなっ!」


 悪役のお決まりな台詞(セリフ)に、アグウィが激昂する! 


「裏で色々と……よくも……こんな ()()()()()()()利用して……一体、何が目的なんだ⁉︎」


 彼の言葉に、男がすうっと目を細める。


「ほう……そうか気づいたのか」

「あぁ、シンプルな話だったんだな。廻風迷宮……名前に『風』とついているから誤認させられていたが、本当は『土』属性だったんだろ? 出現したS級魔物が『土』属性だったのはその為だ。雑魚の魔物は生息分布の多い種族、どの属性迷宮にも出没するヤツらだったみたいだし……地形的に 強風を発生させていたようだから、皆まんまと騙された。そして、攻略難易度の高いS級は探索者に人気がないから、手頃なB級と偽ったんだろ? 虚偽報告。そうして、探索者達をおびき寄せた……」


 属性も階級も『嘘』。探索者達は本領発揮しづらく、深層へと進んだ者は苦戦を強いられたはずだ。だが、表沙汰にはならなかった。それが何を意味するか。


「ほぅ……よく調べたな」

「え? あははは……そ、そんなことはどうだっていい! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

「さぁな。数なんて知らん」


 特定の住所を持たずに迷宮へと潜る探索者達。当然、消息が途絶え、行方不明になる者もいる。本来、迷宮ごとに設営されているギルドで入場記録を残すのだが、おそらく、それも改竄(かいざん)されていたのだろう。


 何かしらの理由で選ばれ、依頼された探索者パーティ。その中で、ターニャだけが生き延びて事件が明るみになったが、それが無ければいつまで続いていたかわからない……これは、()()()()()()()()


「迷宮の奥まで進ませて……お前らは、探索者に何をしたんだ?」


 怒りを押し殺すように、アグウィが低い声で尋ねる。彼の脳裏に、殺されたレジェ達の顔が思い浮かんでいるのだろう。


「ここで死ぬお前に、教える義理などない」


 すると、男の言葉にアグウィがニヤリと笑う。


「おっ! やっと出ました、殺害予告ワード! さっきのだけじゃ証拠として弱いと思ったけど、これで言質(げんち)は取ったぞ! 記録媒体への転送もオッケーだぜ!」


 狙っていた単語が敵の口から出て、彼がガッツポーズを決める。だがそれを見て、男達が揃って失笑した。


「くははっ!」

「な、何がおかしい⁉︎」

「お前は……本当に可哀想なくらいに馬鹿なんだな。ここがどこか分かっているのか? ()()()()()()()()?」

「あ? それが何だってんだ?」

「探索者同士のトラブルや建物の破壊を防ぐ名目で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……魔法陣か魔導具かは知らんが、それらによる記録転送は出来ない。お前が何かを狙ってると思い警戒していたが、ただの間抜けだったとはなぁ!」

「‼︎」


 男達にどことなく余裕が見えたのは、一対多数だからではない。この場所では、アグウィの力が発揮できないと最初から分かっていたのだ。


「まぁいい。とりあえず死ね」


 そう言って、男は剣を振り下ろした。

とある理由でライザ視点にてお送りしています。

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