第24話 初恋はレモン味、屋上にはブラックモンブラン_2
「なんか静かすぎるね」と、安田が上擦る声で気丈に振る舞う。私はスマホを操作し、いつか一緒に聞いた陳腐なロックバンドを流す。
授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。安田はハンドタオルで目元を拭っている。
「早く食べないと、アイス溶けちゃうよ」
「加藤、食べたいなら食べていいよ」
さっき食べたからもういらないと言おうとして、思いとどまる。キャラクターの巾着に包まれた弁当箱が、灰皿の横に置かれている。
「じゃあ、食べる」
「ありがとう」
安田が正面を向いたまま、不細工な雲しかない凡庸な青空を一心に見つめたまま、安田がしゃくり上げる。瞼は泣いたから腫れているのか、もともとそういう化粧なのか分からない。
安田の好む特異な化粧は、正直よく分からない。法律を破って煙草を吸う神経も理解できない。勉強は人生のすべてではないのだから、模試や期末試験の点数で一喜一憂する気持ちも受け入れられない。クラスメートが客観的に可愛くないからといって、「美人だね」と適当に煽ててあげることが出来ない正直さにも、共感できない。
それでも、どこまでも稚拙で不器用で純粋な安田に、私はどうしようもなく好感を抱いている。
安田が唇を噛みしめて、ぽつりと呟く。
「ひとりでご飯を食べるの、やっぱりしんどかった」
緩くなったアイスを口に含む。セーラーの純白の生地にチョコレートが落ちないよう繊細な注意を払いながら、安田の話に相槌を打つ。
クラスや部活で異物扱いをされ始めた経緯、親や教師の反応、屋上の鍵の器用な開け方、最近読んだ漫画、好きな麻雀の役、初めて煙草を吸った時のこと。
未成年の煙草は本当にダメです。
フィクションを真に受けたら詰む。




