第23話 初恋はレモン味、屋上にはブラックモンブラン
「え、加藤?」
鉄製の錆びた屋上のドアを開けると、レジャーシートに体操座りをした安田の背中があった。予期せず開いた扉の音に振り向いた安田が、私の姿を見て素っ頓狂な声を出す。
「鍵くらい閉めなよ。先生にばれたら怒られるよ」
日陰に敷かれたレジャーシートへ、私は足早に歩いていく。私もローファーを脱いで、安田が揃えて置いていたローファーの隣に置く。脱いだ靴下を適当に丸め、シートの上に体操座りで座った。太ももやふくらはぎの内側の熱が放出され、皮膚の表面の熱が揮発していくのを感じる。女の子らしく足をそろえて座るより、格段に開放感がある。それでもセーラー服の背中の部分は張り付き、下着が透けるほど湿っている。
安田も、私も、鬱屈した湿度に殺されかけている。
「何で? まだ昼休みなのに」
安田が俯き、消え入りそうな声で言う。
纏わりつく空気は湿気を含んで重い。予想通りの蒸し暑さに、汗が全身からとめどなく噴き出す。綿のハンカチでは吸水が追い付かない。風向きによって、校庭の砂埃が屋上まで運ばれるのが、うざったい。
直視する入道雲は、窓越しに見るより立体感があり巨大で、圧倒される。売店で買ったブラックモンブランを、ビニール袋ごと安田に渡す。躊躇する手に強引に握らせた。
「真夏のピークが去って涼しくなってきたって、天気予報士がテレビで言っていたの」
私はポニーテールを片手で弄びながら、思いついたことを適当に口に出す。安田が不思議そうに顔を上げ、素っ頓狂な子を出す。
「え?」
「あいつ、結構予想を外すの」
「それがなに?」
「だから、嘘じゃないかなって検証しに来た」
教室で安田のことを考えていると、なんとなく顔を見たくなった。放課後ではなくて、すぐに。時計を見ると、昼休みが終わるまでに少し時間が残っていた。適当な理由をつけて教室を抜けだした。すぐに向かいたかったけれど、今までクーラーの中で快適に凍えていたのに、暑い中耐え忍んでいた安田に手ぶらで会いに行くのは、後ろめたく気が引けた。
売店に寄り、目についたブラックモンブランを買って屋上へ急いだ。
「なにそれ。訳が分からない」
安田は呆れたように笑い、両手で顔を覆った。肩が不規則に震える。隣でたまに背中を擦りながら、雲が流される様子を見つめる。錆びたフェンスは塗装が剥げて、どことなくみっともない。
綿の制服は、汗を吸って生ぬるくて不愉快だった。
フジファブリックの「若者のすべて」は名曲。
いまだに夏に聞く。胸に染みる。




