第20話 入学式は昨日のこと_2
それでも安田は無邪気な子供のように、きらきらとした瞳で私を褒める。
「遅刻と欠席ばっかり繰り返してるのに、指定校使えるのは要領いいよ」
「成績だけはずっといいからね」
「うわ、嫌味かよ。こっちは無遅刻無欠席で登校してるのに、模試もテストも低調なんだけど」
「今度、答案持ってきて。解説してあげるから」
推薦入試の対策に、校長や担任を相手に校内面接を何度も行った。面倒で窮屈だった。けれど入試の当日は、拍子抜けするほど容易に終わった。予想よりはるかに簡単な筆記試験に、予定調和の質問ばかりを繰り返す面接官。面接が終わり頭を下げた瞬間、思わず笑ってしまった。
「いいの? お金払おうか?」安田が目を丸くする。
「要らない。クラスの友達にいつも教えてるから、慣れてる」
「加藤って本当に、優しいんだね」
安田が嬉しそうに鼻をさする。そわそわとスカートの裾を触る仕草に、気まずそうに身じろぎする身体。無報酬の手助けへの困惑が滲むようで、慌てて安田に耳障りのいい言葉を投げかける。
「勉強なんて、大したことじゃないから。気にしないで」
合格が分かった日の夜。受かってくれて本当によかった、と母が心底嬉しそうに呟き、父が鰻屋に連れていってくれた。大学生の姉がブランド物のキーケースを買ってくれた。家族の笑顔を見て、心底ほっとした。
夢も目標もないのに、あと半年も大学受験のために机に縛り付けられるなんて、まっぴらだ。
「安田はどうするの?」動きのない雲を見上げ、安田に話を振る。
「看護師になるつもり」
「え、看護学校に行くってこと?」
驚いて安田を見やる。安田は大きく頷き、そんなにびっくりしないでよと笑った。
「堅実な生き方をしてるでしょ」
「うん、とても」
「セーラー服の美少女が、成長して美しい白衣の天使になるんだよ」
「安田って別に美少女じゃないじゃん」
「酷いな、加藤。それは言わなくてもいいでしょ!」
看護服を着る安田を想像する。
入学式は昨日のことのように鮮明なのに、半年後には卒業する現実を突きつけられる。
無邪気な笑顔を見せてくれた人のこと、一生覚えていられる気がする。




