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第16話 涼しくて煩わしくて快適な教室、利己的に甘やかされた友人たち

 「加藤ってさ、最近すごく付き合いが悪いよね」

 昼食を食べ終わっても続く、長い長い長い昼休みに、脈絡もなく綾乃が話を切り出した。

 喧噪の続く教室。綾乃、唯、百合谷、それから私で机をくっつけ、することもなく、だらだらとスマホをいじっている時だった。

 「そんなことないよ」

 私はスマホからちらりと顔をあげ、苦笑いとともに首を緩く振る。遊んでいたスマホの画面の向こうで、麻雀のアプリが佳境を迎えていた。

 「ううん、最近唯が誘っても遊んでくれなくなったもん」

 文庫本を読んでいた唯が顔を上げ、むくれながら綾乃に同調する。ピンクのブックカバーの中身はきっと、彼女が読み古したサガンの処女作。

 百合谷は薄い笑みを浮かべて、参考書を捲っている。

 何かと予定をつけて、唯たちからの誘いを断っていたことに心当たりはある。屋上に通うことを優先していたのだ。

 安田と親しくなり、教室の真上の屋上に定期的に出向くようになっていた。特に目的は無いけれど、得られるものも学ぶものも無いけれど、ただひたすらに、楽しかったのだ。

 何が楽しいのか、具体的に説明することもできないのに。

 「いい男でもできたんだ」

 質問と断言の間のような言い方を好む綾乃は、化粧ポーチを開けてマスカラを塗り始めた。恥じらいもなく堂々と手鏡を立てて、世間話とともに化粧を直せるところが、女子校の一番の利点。

 「いないよ」

 「本当かよ」

 「まず出会いがない」

 「えー、それは残念。でも私も同じ」

 綾乃はおざなりに相槌を打ちながら両目の出来を確認する。右目が気に入らないと判断したのか、ポーチから取り出した綿棒でリップクリームを擦り取り、瞼を撫ぜた。即席の化粧落としをゆっくり動かし、失敗を帳消しにしていく。

 「何か変わったことがあったら、教えてね」

 参考書にメモを書き終えた百合谷が、顔を上げてほほ笑んだ。

 「うん。みんなに1番に伝える」

 私は笑顔で大きく頷く。手元で操作していたスマホの麻雀アプリの決着がついた。大差をつけられて惨敗した。私の操作していたキャラクターが、うずくまってしくしくと泣いている。

 現代社会は大変に生きづらい、と評論家が声高々に叫ぶ。本当にそうだと思う。

 政治はいつでも国内外の軋轢で問題を抱えている。首相は漢字が読めないだけで毎日怒られている。経済は日本銀行の総裁一人の頑張りではどうにもならない。女子校の先生には過激なフェミニストが一定数いる。誕生日が来なければどんなに勉強しても選挙権は得られない。

 閉鎖的で風通しの悪い人間関係では、たったひとつの失言が居場所を失う決定打になり得る。

 「約束だよ、加藤ちゃん」

 私にとっての社会とは、家族と教室と演劇部だけ。塾も習い事もしていない。だから、その3つだけ。

 その中でも、一日の大半を占める教室での人間関係に躓くことは出来ない。家族にもそれぞれ、仕事や学校がある。演劇部だって、引退してからは顔を出しづらくなり、足が遠のいてしまっている。

気だるさに甘えている、取り繕った馴れ馴れしさに甘やかされている。

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