第15話 排他的で不安定な無法地帯_2
「衣装とか小道具って、遠目から見ても手が込んでたよね。どこで買うの?」
「既製品も買うけど、結構自作してるよ」
「え、加藤って、裁縫なんて器用なことできるの。不器用だと思ってた」
「失礼だな」
「あはは。怒った顔もかわいい」
練習が休みなのか、普段聞こえるソフトボール部の掛け声や吹奏楽部の音色が聞こえない。
「静かなのは嫌い」と言う安田が言うから、スマホの音楽アプリから適当な曲を流した。唯の好きなインディーズバンドが、初恋の正しさを主張する。
「初めて聞いた。結構好き」
「割と流行ってるんだって」
「あー、悩みの無い若い女の子が聞いてそう」
しばらく前に開けたポテトチップスは、湿気て油が浮きあがり、どちらも手をつけない。教室から持参した下敷きを緩く仰ぎ、日焼け止めの流れ落ちた顔にぬるい風を送る。
「加藤ってロックバンドが好きなの?」
「いや、クラシックの方が好き」
「クラシックが好きな女子高生って、狡猾で計算高そう」
「賢さを褒めてくれてありがとう」度の入っていない真っ赤の眼鏡を上げて、安田に視線を向ける。「何聴くの?」
「何だと思う?」
スマホで麻雀のアプリを操作しながら、安田が無邪気に白い歯を見せて笑った。アプリの中で、美少女のキャラクターが安田の戦いを応援している。
「予想出るほど、安田に関する知識が無い」
「もっと真面目に考えてよー。加藤、もっと私に興味を持って!」
「えー。そういうのって、ちょっとうざい」
顔を見合わせ、憚らずに大きな声で笑う。冗談まじりの本音は、濁った空気とともにゆったり流れる。気づけば夕日が刻々と傾いている。
電波塔と貯水タンク置き場以外に用途のない屋上は、案外手入れが行き届いている。けれど、何もない。業者以外は立ち入らないから、落下防止のフェンスさえ、あまりに古びていて安全なのか分からない。すべてが心もとない。本当に何もない。
けれど、安田がいる。
屋上からの夕焼けは、暑い中でも眺める価値がある。中身のない冗長な会話ほど、心を満たすものはない。三年間人知れず努力をしてきた毎日が、素直に認められる。
出会って間もない安田に、言葉に出来ない信頼と安心感を抱いている。
屋上に来る理由なんて、それで十分。
夏、夏、夏。
日焼け、夕焼け、蜃気楼。




