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第13話 逃避行の最適解_2

 ローファーは二足とも、安田がそろえてわきに寄せている。靴下を脱いだ彼女は、几帳面に畳んでいた。私の靴下は脱ぎ捨てた形のまま、レジャーシートの端に転がっている。

 「七本だと、えっと、なんだっけな。たしか、密かに芽生えた愛」

 空になったペットボトルはレジャーシートの外に適当に散らかり、安田の吸殻は持参した携帯灰皿に溜まっていく。

 私はスマホのホーム画面を開き、日付と時間をぼんやりと眺める。

 今は課外日の昼過ぎ。真下の一組の教室、つまりクーラーの程よく効いた私の所属するクラスでは、新米の国語教師のさとみちゃんが古文を解説している頃。

 足下の静かな教室で、最前列の綾乃は机の下で苦手な英単語を覚え、二列目の唯は頬杖をついてうたた寝をし、百合谷は机の上に堂々と志望校の過去問を広げて解いているのだろう。そして大部分の生徒は散漫に欠伸を噛み殺して、片手間のスマホでは満足に暇を潰せずに、慣れ親しんだ倦怠感とわずかな苛立ちを覚えているのだろう。

 私も本来、その中のひとりであるべきだったのに。

 「そんなことよりさ、安田ってここで昼ご飯を食べてるの?」

 小一時間前に教室で昼食を終えた後、急に勉強をする気分ではなくなってしまった。うら若き国語教師のさとみちゃんの恋愛事情には興味があるけれど、さとみちゃんが教えてくれる古文の授業には一切関心が無いことに、唐突に気づいてしまった。

 だから、「頭が痛いから保健室に行く」と綾乃たちに伝えて、昼休みの終わりのチャイムとともに屋上に向かった。

 ドアを開けると、背を丸めてレジャーシートに座っている安田が目に入った。

 弁当の入った巾着を脇に置き、空を見上げて体操座りをする小さな背中に、「次の授業ってテスト? 普通の授業ならサボってよ」と思わず声をかけた。振り返った安田は驚いた様子で、「レジャーシート、勝手に使ってごめん」と眉を下げた。

 どうしようもなく、夏の屋上は暑かった。

 「うん。ここで食べることもある」

 安田が背中を丸め、私の問いかけに小さく頷く。

 「ひとりで?」

 「教室は、人が多いから」

 「だけど、毎日すごく暑いじゃん。普通に教室で食べればいいのに」

 「うん」

 「屋上じゃなきゃダメな理由でもあるの?」

 私の不躾な問いかけに、安田は困ったように曖昧に笑い、目を伏せた。

 「暑いのは、温暖化だから仕方がないって諦めてる」

 安田はぎこちない笑みを浮かべ、スカートのひだを無意味にいじる。不必要に何度もショートカットの髪を撫でて、視線を青空へと逸らした。

 どんな物事にも、その状態に至るまでの過程や、ひっ迫した原因が存在する。それらは大いに部外者の興味を引く。けれどひとたび知ってしまえば、重荷を共に背負い、窮地を救うヒーローになる義務を負う。

 ポケットからハンカチを取り出し、私も額から流れ出る汗を拭う。簡素で軽薄な言葉が、取り繕うように私の唇を跨いだ。

 「まあ、屋上で食べたくなる日もあるよね。たまにはさ」

 責任感が欠落し、自分本位で他者を思いやれない社会不適合者の私には、誰かを救うヒーローなんて大役は向いていない。

ヒーロー映画は大好きなのに、

現実で大役を任されると怖じ気づく。

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