亀裂
最近あたしは、千世に負けられないと思いながら鍛錬に力を入れてるおかげで、何人かのギルドメンバーにも模擬戦で勝ってるし……今日も勝ち星を増やしたからその勢いで、厨房やロビーをあれだけピカピカに掃除して疲れたから、すぐ寝られると思ってベッドに飛び込んだのに……布団が体にまとわりついて
「だめだ、眠れない」
(せっかくの異世界、風に当たってこよう、きっと星空がきれいだろうな)
がらにもなく少女っぽい考えを巡らせながら、もしメンバーに見つかっても、深夜のパトロールと言い訳するため警棒と、飾り程度のナイフがついたベルトを締めて部屋を出る、常夜灯代わりにテーブルのランプが照らす無人のロビーと言うのも悪くないなどと思いながら、勝手口から運河沿いの道を歩く
満天の星空とそれを映す運河
(運河のせせらぎと、心地よい風……適当なベンチで寝るのも悪くない)
不意に感じる空腹感に、あたしは(まだ開いてるかな)とダメもとで『くちなし亭』へと足を運ぶ……あのスパイシーなラムの串焼きが忘れられない
分かってはいたが、当然店は閉まっていた。
肩を落としうなだれるあたしの背後を何かが通り過ぎた。
慌てて向けた視線の先には大小二つの人影が
(泥棒か? 物騒だな……でも今のあたしは自警団、みたいなものだから)
「おい、ちょっと」
意を決して、警棒に手を回しながら声をかけるあたしに、小さい方の人影が光るものを手に襲い掛かってきた
(刃物)「わぁ!」
声を上げ条件反射で、後ろに飛び避けるあたしの身代わりに……あわれ、近くの看板が切れて崩れた。
「誰、いきなり何すんの」
感情的なあたしの声に、身構える人影
(木製の警棒で対処できるか)
等と考えていると……今まで雲がかかっていたのか、月明かりが周囲を、相手とあたしを照らし出して……数秒、互いに言葉を失った。
「ちいちゃん」
「きょうちゃん」
「それに、イツキさん……て背負ってるそれ」
「邪魔しないで」
あたしの台詞を遮るように、千世が短刀を構え後ずさりする
「どういう事、どうして切りつけた」
「……」
あたしの質問に戸惑う千世に、イツキが冷たい口調でかつを入れる
「千世……狂子は良い奴だが、今は邪魔者だ、黙らせろ」
「ごめんなさい」
「うそ!」
イツキに言われるがまま、短刀を眼前に構え、態勢低く襲い掛かる千世に
(これはタダ事ではない、背に腹は代えられない)とあたしは、命の危機から本能で、ナイフに結ばれたひもの封印を引きちぎり応戦したが
キーン
心地よい金属音とともに、飾り程度のナイフの刃がものの見事に切断された。
「うそ、武器破壊」
喜んでいる場合じゃないのに、テンションが上がるあたしを睨み、平手で突き飛ばす千世
「ケガしたくないなら、邪魔しないで」
「でも、それ王子」
「任務だ、良いから邪魔するな……らちが明かんな、行くぞ千世」
「かえして」
とにかく王子をかえしてもらおうと思いで、考えもなく警棒を構える
「ふざけてるの、狂子」冷めた顔の千世に呼び捨てられ、固まるあたしに彼女は
「……頭冷やして」
「え」と、視界が暗くなり、宙に浮く感覚が……そのまま、運河に蹴り落されたあたしは、急いで岸に泳ぎ着き、周囲を見渡した頃には
二人を乗せた木製のボートは、まるでモーターボートの様に水しぶきを上げ運河をさかのぼっていった
「ちいちゃん……どうして!」
あたしの叫びはむなしく町に響き渡り、野良犬が遠吠えで返事する
ミルドニア「だめだこりゃ」
誘拐はするが、何の知識も才能もない王子……「これは、つかえない」と、不良品よろしく、王子を木箱に詰め込むと、しゃれた粗品と一緒に……送り返し……ある朝、イージス城、門前に、『王子をお返しします』と書かれた木箱と、豪華な装飾が施された宝箱が……
木箱を開けると文字どおり気絶している王子が……腕に着けられたアストラルデバイスには、ミドルニアでの扱い映像(手錠などはされておらず、べリハの私室で寝泊まり、元老院からの問答にまるで答えられない)
そして首には、ピーマンやカボチャなど中身をくりぬかれた野菜の首飾り
丁寧な謝罪文との最後にはお詫びの品を受け取って下さいと書かれ
宝箱を開けると……中身は空っぽ、だったそうだ。
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『オタク系女子中学生が異世界転移⁈ 狂子のお気楽ファンタジー』
第二十五部『亀裂』
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by.メガネ君(作者)




