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いじめられっ子卒業作戦?

昼休み……狂子はいつもどおり、席に浅く座りもたれながら、目を閉じ上を向いて、昼休みの解放感に身をゆだねているが、今日は違う……合図を待っているのだ

(千世ちゃんいつでも良いよ)

待ちきれず天井を見るようにもたれ、両手を垂らしては軽く唸り『ちらり』と視線を送ると……ようやく気付いたのか千世が立ち上がり、狂子の前に立ち


無言……十数秒、何ともいえない空気がただよう


(もしかして、打ち合わせ忘れた)

「うんと、どうしたのかな?」

「きょうちゃん」

(ようやくきたか)とうなずくあたしの眼前にハンカチを突き出し、おとす。

(そうそう、打ち合わせどおり。だけど、なんて不器用な)


「ちいちゃん落ちたよ」

狂子はすぐさま、足元に落ちたハンカチを拾い上げ、笑みを浮かべ千世に返した


「ありがとう」

そう言いながら、千世は受け取ったハンカチを、打ち合わせ通り再び落とす。

しかし! 風のいたずらか、ハンカチは狂う子の頭上に。


「あ」予想外の事態に思わず声をもらし固まる千世

(あれえ?)

狂子の視界。髪に綿ぼこりが

(いやいや、身だしなみに興味がないあたしでも、さすがにこれは)


「あれ……どういう事かな?」

不可抗力なのは分かるけど、感情的な声を出しに、睨み上げる視線の先……

謝りかけたのか、指先どおしをくっつけ。なんとも申し訳なさそうな顔を向ける千世だが、一呼吸、気をとりなおし睨み返してきた。


「どちらが強いか中庭で勝負しませんか」



「ごめん、耳の調子が悪いみたい、もう一度大きな声で言ってくれないかな?」

「はい。どちらが強いか中庭で勝負しませんか」

「それってあたしに喧嘩売ってんの?」

「はい。そのとおりです」


彼女の言葉に((こんなの勝負は明らかだ……でも、いつもをかばってくれる人に喧嘩を売るなんて血迷ったか))などと、クラス中の視線が注がれる

それに気を良くした狂子は、舞台俳優のように声を張りだした


「ははは、冗談だよね。そんなのあたしが勝つに決まってんじゃん」

「ふふ。狂子さんこそ冗談を……昨日はあんなに」遮るように

「本気でいくから、ケガしても泣かないでよね!」

「はい。狂子ちゃんこそ負けて泣かないでくださいね」


頷く千世に、腹を抱えて笑う狂子

「ははは言ってくれるね。ああそうそう、昼休みの水まきだけど……今日は血しぶきまきになるかもね」

「狂子ちゃんのね」

「ははは……その喧嘩買ってあげる、千世ちゃんとの喧嘩なって文字どおり昼飯前だもんね」



椅子が飛ぶほどの勢いで飛び掛かる狂子に『予想通り』とばかり、バックステップで華麗にかわし、微笑を返す千世。


「単純。狂子さんらしいですね」

「このお」


立ち上がりゆっくり前進する狂子に、千世は間合いを確保しながら後ろ歩きをすし始め……もうすぐ教室出入口、狂子が掃除道具ロッカーに視線を向け手を伸ばそうとした時


バン!


千世がハイキックでロッカーのドアをおさえ、声を上げる

「道具を使うなんて、手加減するつもりですか⁈」

思わず一歩下がる狂子。

とうって変わり、ふわりとめくれるスカートに期待(よくぼう)をのせた男子共はしゃがむなど視線を低くし、一斉に舌打ちをし、うち一人が呟く。

「なんだブルマかよ」

そう準備万端、千世はスカートの下にブルマを履いていたのだ。


『してやったり』と得意げな千世、構え直すなり飛びかかる狂子


「いざ」

千世はうれしそうに笑い、回れ右してダッシュ。教室を飛び出し、廊下の解放されている窓をハードルの様に飛び越え、砂煙を立て中庭に着地するなり、ボクシングの構えで、追って来る狂子にそなえる。



「やるね……でも逃げてばかり」

狂子は鼻で笑うなり教室を飛び出し、廊下の窓枠に手をつき足を折り曲げ飛び越えた勢いを利用し、飛び蹴りをくりだした。

しかしそんなオーバーアクションの攻撃。千世にとってはまるでスローモーション。よこに回転しかわし『今、何かした?』と笑みを向ける。



「なにくそ」

狂子は間髪入れず着地した衝撃をばねに、千世に大振りで殴り掛かる、が見事に受け止められた

「ふっ」

攻撃がとおらず悔しがる狂子に、千世は思わず笑いをこぼす。


「なめるな!」


声を上げ『これでもか』と受け止められた拳を強引に押しこむ狂子、突き返す千世

力比べ……と……コンクリートで囲まれた中庭に響く女子の怒号に群がる生徒たちが窓に並ぶ


その視線と気配に、千世はたまらずバランスを崩すが、その勢いを利用し、狂子の背後に回りこんでは背中を突き飛ばた

「え」

狂子が地面に倒れこむ瞬間、千世は彼女の後ろえりを引っ張り、勢いをころし顔面激突を避けた


「ありがと」

地面にうつぶせ状態の狂子はささやくなり仰向けになり、拳を振り下ろし追撃してくる千世の腹部を、両足で蹴りつけた


後ろに下がる千世、その紺色のブレザーにはっきりと足跡が付いている

「ひどい、女子のおなかを蹴るなんて」

「あごめん」


狂子の目から戦意が消えた瞬間

「えい!」


(水か、土か、落ち葉)が狂子の顔にかかる

「きゃう!」

顔をガードし後ずさる狂子に

「かわいい声」

拳を構え突進した千世は彼女の耳元でささやく

「悪ぶっても所詮は、お利口な道場武術ですね。弱い」


「この戦闘狂(じっせんは)が」

千世の肩を力いっぱいつき飛ばそうとするが

(さすが昼飯前。おなかが減って力が出ない。だからと言って手加減は出来ない)

「この」


休みなくつづく猛攻のことごとくを受け流し防ぐ千世。だが彼女も空腹で動きがにぶり、肩や腕、太ももに当たりはじめる


「よし」

(て、喜んじゃだめ。千世の強さを周囲に見せつけ、いじめをなくす、という当初の目的が果たせない……でも勝ちたい)

一人かっとうする狂子。不意に


「きょうちゃん」

顔を上げると、千世が壁に視線をあて『こっちに来い』と合図する


(とにかく壁に)

頷いた狂子は、かわした千世が好きな位置に立てるよう、わざと大ぶりの攻撃を放った。


壁に向かう狂子の前に千世、といった配置。

『おかげで良い距離(まあい)が取れた』と千世は壁に向かい走り出し狂子もそれを追いかけた……壁を背に立ち構える千世


「追い詰めた」

狂子は、パンチングマシンの標的を殴るようなオーバーアクションで、右ストレートをくりだした







待ってましたとばかり千世は、迫る腕に手をのせ飛び上がり、バク転の要領で狂子の背後に立つなり、空振りをし体勢を立て直そうとする彼女の背中を突き飛ばし

壁にぶつけた


おかげで狂子のブレザーは黒板消しの如く、白い粉だらけ

「な、何してくれるの」

「仕返しです」


「なら、仕方ないね!」

狂子は、声を上げ感情任せに肩を突き飛ばそうとしたが、狙いがずれ千世の胸に、すかさず胸を隠す千世に、男子共がどよめく

「きょうちゃんこそ何!」

「ごめん、ホントに狙いがずれて」

「うそ」

「そんな事より隙だらけだよ!」


今度は中庭中央の噴水へと千世を追いやっていく

へその高さまで、タイルが張られた水槽も兼ねた噴水の中には、メダカが泳いでいる

相変わらずひらりひらり攻撃をかわす千世に業を煮やした狂子は声を上げる


「さっきからかわしてばかり、やる気あるの」

「ありますが、親友に手を上げるなんて、何度も出来ない」

「その優しさがあだとなる……このまま噴水にはまらせ、水も滴るいい女にしてあげる」

「遠慮します」

「そう言ってる間に、ほら、追い詰めた」



再び突き飛ばそうとする狂子の頭に手をのせ、バク転で背後に立ち

「うそ、また!」

声を上げ振り向こうとした結果、バランスを崩し、水槽にははばりかける狂う子の襟を引き上げ寸前で止める

水面に触れる狂子の髪を、餌と間違えたメダカがついばんでいる


眼前の光景に、言葉が出ない狂子

「降参してくれませんか?」

「嫌」

「ホントはしたくないんですが、今の私は、このままあなたの頭を水中に押し付けて、気絶するまでおぼれさせる事も出来るのですが」

「……参った、参りました、降参します」



勝負は決した……普段、何とかごっこのやられやく、授業中の読書でない限り、聞く事の出来ない狂子の「降参」という言葉に周囲がざわめいている








「私の勝ちですね……ごめんなさい」

千世は、狂子を引き起こすと、取り出したハンカチを噴水で湿らせ、彼女のブレザーの粉を拭き取る

返礼と、狂子もハンカチを湿らせ、粉を拭き取りつつ


「ちいちゃんこそ、(予想どおり)なかなか強いじゃん……やるねえ」

(やるねえ……とくにこの胸が、なんて……まあ、作戦成功といった所か)

「それでは、いつもの水まきを始めませんか」


手を差し出す千世と握手し……ざわめきと視線の中水まきを始める

(……作戦成功、で良いんだよね)


放課後、活動をしていても生徒たちの視線を感じる

異世界に行きたいけど、このまま倉庫の中まで覗かれて、姿が消えるのを見られたら……とぼけてごまかせるだろうけど、間違いなくややこしいことになる


彼らがついて来られないところ……千世ちゃんの部屋から行こうとする


しかしタンスの上には二つの骸骨

(これはあれか、マスターであるべリハの影響か?)

「母さんと兄さんです」

「え、お父さんじゃないの」

「お父さんはその。いずれ話します」

「また秘密。まあ、気長に待ってる」

その日のうちに異世界に行く

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