ストーカー狂子(後編)
「やっぱりいい景色」
達成感に浸っていると、元の世界では聞く事など無いだろう、甲高く金属がぶつかる剣げき音と、気のせいか「てや!」とはきのある千世に似た女子の声に、狂子は思わず振り向き駆けだした
本堂と二重の塔が目に入り、本来の目的を思い出し急いで、木の影に隠れ耳をすまし、彼女の声と姿を探す狂子の目に鏡の反射か、不意に眩しい光がささり、狂子は正面にそびえる二重の塔を見上げると、頂上屋根の上に『人影』らききものが二つ。
(あんなところに人が居る訳ない)
目をこする狂子の前で、二つの影は剣げきを再開した。
(あれ? あの長い黒髪と、顔立ち、間違いない。千世ちゃん……でも普段の弱々しさなんて、みじんも無く、なんて凛々しい)
アクション映画さながらの剣げきに夢中のあまり……狂子は立ち上がり、木の陰から、ふらりと芝生の真ん中に立っていた。
「ちいちゃん。かっこいい」
呟く声に二つの影は止まり、そのうち大きな方は本堂の方へ飛び去り……小さい方は『何しに来た⁈』とばかりじっと狂子を睨みつける。
(間違いない)
「ちいちゃんだよね?」
狂子の問いかけに彼女は、避雷針へ伸びるワイヤを大車輪のように回りながら滑り降り『すごい』感心した瞬間。姿が消えた。
(どこに消えた)
周囲を見渡そうとする狂子の後ろから声。
「きょうちゃん」
ビクリ肩を揺らし振り返ると。鉄製の肩パットなど『くノ一か』とつっこみたくなる軽装をまとった千世が、気まずそうな表情で視線をそらし立っていた。
あぜんとする狂子に話しかける。
「きょうちゃん……なんで雑木林から」
「いやそれは……いやいやそんなことよりちょっと。ちいちゃんこそ、そのかっこう、何かのコスプレ……じゃないよね」
千世は……親友に嫌われたくないという一心で、演じ続けた弱い振りと、つき続けた嘘がばれ
狂子は……数日前から疑いながらも、知ろうと行動しなかった。その答え(悪い方)が目の前に
そのあまりの気まずさに、二人は無言のまま向き合い、動けずにいると……再び光が目に刺さるとともに、本堂の屋根にから視線を感じ目をやると。頭で夕日を反射させながらじゃがみ、様子をうかがう現世の姿が見える。
(なんとも気まずい……よし、逃げよう)
対処しきれない狂子は、ゆっくり後ずさりする……が……『お約束』と言わんばかり見事に足元の枝を踏み折り、音を立て、時の流れを元に戻した
千世は、体をびくんと震わせ、思わず短刀を落としてしまう
「ごめんなさい」
「え、何で謝ってんの?」
まだうまく頭が回らない狂子の、嘲笑い混じりの質問に、苦しそうに息をし言葉を詰まらせる千世
「弱いふりしてたら、そばに居てくれるから」
十数秒の沈黙……。
(ママの言ってたとおり。あたし『守ってやってる』っていい気になってた)
『こっけいな自分』
その恥ずかしさをかき消そうと湧き上がる『裏切られた感』に狂子はつい、意地悪な嘲笑を浮かべ、口を開く。
「へえ。しんどかったでしょ長い間……弱いふりして、親友のあたいへ嘘つき続けて……すごいね千世ちゃん」
「ごめんなさい……その……怒ってますか?」
「べつに。それ程怒ってないよ……けど確かに『裏切られたのに悔しくない』なんて言えば嘘になる……でもまあ、数日前から疑ってたけど確かめなかったあたしも悪い、かな。だから聞かせて」
「……」
「まあ予想は付くけど……直接、千世ちゃんの口から聞きたい……どうして弱いふりと噓をついてたのか」
「はい……嫌われたくなかった」
「嘘つきを好きになれって⁈」
「ごめんなさい」
「あ、あたしこそごめん。強く言いすぎた……大丈夫だから、くわしく教えて」
「弱くなきゃ守ってくれない、側にいてくれないと思って」
「千世ちゃんにとって、あたしって、何? 守ってくれる道具?」
「きょうちゃん、いじわる言わないで! あなたは私にとって家族同様、ううんそれ以上の親友……大好き!」
「はは『家族以上』か、嬉しい事言ってくれるね……で、どんだけ好きなの?」
(なんて返事するんだろう……いつもみたいに恥ずかしがって、もじもじ体をくねらせながら答える姿、可愛いんだよな)
想像し一人にやつく狂子……だが
千世はそんな思惑とは真逆に、ゆっくり接近するなり、小刻みに揺れる狂子の両肩を握りしめた。
「えっ?」
予想外の展開(感触)に慌て顔を上げた狂子の前には、こうこつとした表情の千世が立っている
「待って千世ちゃん、ちいちゃん、ちいちゃん!」
(聞こえてない。こいつはとんだ異常事態だ)
千世の手から逃れようと肩をゆするが
「うそ外れない、なんて握力」
後ろ歩きする狂子。だが『むしろ好都合』とばかり千世は押していき……されるがまま……先ほど隠れていた木に背中をぶつけた。
(追いやられた。でもこれって、壁、木ドン……ていうか、あたしってこの後どうなんの⁈ もしかして)
苦笑いとため息を漏らす狂子の、かすかに開いた口を目掛け、千世が口づけをした!
慌て唇を強く閉めた
(あたしは誰とキスしてる⁈ 千世だよね……てこの感触、舌入れようとしてる)
あまりのギャップに混乱、鼻息が強くなる
いつもリードしてくれる強気の親友が……今やまな板の鯉となっているギャップがそそるのか
「必死になって可愛い」
千世は吐息を漏らしながら、固く唇を閉ざしている狂子の鼻をつまみ、再び口づけをする
(息できない、このままじゃまずいって……仕方ない、ていうか、調子に乗るな……ごめん)
心で謝った狂子は、千世の腹部めがけて、パンチ『ボディーブロー』する
見事、溝内に入ったのか。たまらず、両手で狂子を突き飛ばし、せきこみながら彼女を睨む千世
「ひどいよ、きょうちゃん」
「どの口が言う、それはあたしの台詞だって……何でいきなりキスしたの⁈」
「だって私の思いを分かってくれたとおもって」
「だからって」
「それに、どれだけ好きかて聞かれて……何でか言葉に出来なくて、つい」
(いろんな意味で、リミッター振り切っちゃったてわけね、常識とか理性とか)
「うん、まあ、百歩譲ってあたしが原因だろうから。キスはとして……何で舌入れようと」
「キス出来たから、なんならいっそ、と思って……………ううん、嫌われたくなくて必死だった」
「千世ちゃん、なめてもらっちゃあ困るな、知ってるでしょあたしの独占欲」
「……」
「一度でも親友、て決めたら死ぬまで手放したくないし、させない」
千世の目を見てはっきりと言い放つ狂子
感無量と、口を押さえ涙ぐむ千世をよそに……手の平返しのようなあっけらかんとした口調で
「そういえば、実はさ……ここに来るまでに、ほら千世ちゃんが怖がってる向こうの崖下で、一部欠けた人間の骸骨見つけ……………」
その言葉を聞いた千世は、のんびり最後まで聞くことなく「お兄ちゃん」と呟き走り出し、彼女につづく様に現世も「秋と」と走り出した
「見つけたんだけど、これって警察にって、居ないし……えっ……お兄ちゃん、秋と?」
(秋と……どっかで聞いたようなって、ここに居ても仕方ない、あたしも行くか)
崖につづく雑木林に向かった時、頭蓋骨を胸の前で大事そうに抱えた千世と、どこから取り出したのか、それ以外の骨を入れてるであろう唐草模様の風呂敷を持った
現世が歩いてくる……二人とも、とても穏やかな顔をしている
「あ、おかえり千世ちゃん」
「紹介します。兄の暗木秋人です」
「……ちいちゃん。もしかして、さっきの稽古でハイになってる?」
「いえ普段どおりですが。兄さん、紹介しますね親友の、鬼道狂子さんです」
(確かに普段通りだし、なぜか嬉しそう)
抱え込んでる骸骨へ嬉しそうに声をかける親友
(ここは、とりあえずのっておくか)
「はじめまして秋人さん、鬼道狂子です……でもそれより、あんな崖どうやって降りたの?」
「はい、鍵縄を持ってるので……こうして」
と頭蓋骨を置き、背中から鍵縄を取り出し、投げ、本堂の屋根に掛け……縄を波打たせ、鍵縄を外し手元に戻した
(ママの言うとおり……忍者、くノ一だ)
苦笑い交じりに感心していると現世が
「二人とも、どろだらけじゃな。風呂に入ってきなさい……鬼道さん、お宅にはわしから電話を入れておく……それと、今日……わしらの秘密、真実を知っても変わらず……」
「うん、確かに嘘ついてまで隠し事されてたのはしょうじき、嫌だったけど……だからって、こんな程度の事なんかで『友達やめる』なんてありえないから安心して」
「ありがとう。千世はいい友を見つけたな」
「なんか照れるな……それよりショックなのは、あの忍者みたいな身のこなし! ……あたしより強いかも」
「いや、真っ向勝負なら君の圧勝じゃろう」
「ううん。じゃあ千世ちゃんあたしとさっきの続きしない?」
「キスのつぎ?」
首をかしげながら、指で唇をなぞる
(何このエッチな子。なに考えてんの)
「いやいや稽古の続きだって! ためしにあたしと手合わせしない?」
構える狂子……数秒後。ようやく理解したのか、取り乱し気味の答える
「はい……兄さん、ここで見ててくださいね」
骸骨を賽銭箱の前に設置して、あたしの五メートル前に立ち『これでどうかな』戸惑いぎみにボクシングの構えをとる
「うん、手合わせしてくれるのはうれしいけど、ごめん」
「え」頭を下げるあたしに再び戸惑う
「いや。もう強いのばれてんだから……当然手加減抜き『殺す気』でかかってきて」
「……はい。じゃあ、殺しますね」
無感情に返答する千世に(何かの冗談)と思った瞬間。ただならぬ殺気
千世は野生動物が獲物へとびかかるような低い構えを取りながら、腰に付けたのさやへ静かに手を回し、何かをつかもうとしハッと、周囲を見回す。
「『殺す気で』て言ったけど、いくらなんでも丸腰の相手に刃物はないんじゃない。あ、お探しのナイフならそこに落ちてるけど、あたしも使わないから」
「ごめんなさい……では気をとりなおして」
手刀で飛び掛かる千世に、回し蹴りで周囲の砂をかき砂煙を立て、初激を交わす狂子
お互い全力の摸擬戦する
そして、世間一般的な風呂場
頭と体を洗い終えた狂子は小さな声で
「おじゃまします」と千世が先に入っている湯舟へ、向かい合わせに浸かり「ああ」親父臭い息を漏らす
「兄さんを見つけてくれてありがとうございます」
「あのさ、そのお兄さんて……設定なの?」
「えっあ、はい」
「そうなんだ」(まあ深くはつっこまない様にしておこう)
「でも、崖の壁面を見るなら普通は上ばかり見てるはず、どうして足元の骸骨を見つけられたのですか?」
「ごめん、崖を眺めながら歩いてたら、そのちょっと足に当たった、ていうかけっちゃって」
それを聞いた千世は目を丸くし、無言で狂う子の頭を小突いた
「いたっ、何を」
「仕返しです」
「ごめんて、見つけた時ちゃんと謝ったし、手も合わせたし」
「うう……なら、良いでしょう……狂子ちゃん、もしかして異世界に行くまでしたいゲームって……私の秘密を知る事?」
「うん、ごめんね」
「いいえ謝る必要など……秘密にしていた私が悪いんですから」
「……あたしやっぱ長風呂は苦手、のぼせちゃいそう、だから先にちいちゃんの部屋に戻ってるから」
「はい、私も兄さんをきれいにしたら戻りますので……それと驚かないで下さい」
慌て付け加える千世の言葉を、狂子は笑いながら聞き流し風呂場を出ていく
「ははは何に? 勝手知ったる親友の家ってね」
(裸で頭蓋骨を洗う少女……うむ、シュールすぎる)
異様な場面を想像しながら廊下を歩いてると湯冷めしてきたのか、体を震わせ、急ぎ足で千世の部屋に着くなりドアを開け
「おわお!」眼前の光景に驚き、反射的に後方へジャンプしすぎ、柱に後頭部をぶつけ、尻餅をつく「いた!」
(何でここに⁈)
驚くのも無理はない……風呂場で洗われているであろう頭蓋骨が、ドアを開けた途端、正面のタンスに鎮座し、こっちを見ているのだから……
よく見ると頭頂部が欠けていない
(中学に入って趣味変わった? ある意味こっちの方が驚きだわ)
部屋に入りたくとも、自然にそれと目が合って入れず……ファイティングポーズをとってると
「きょうちゃん、どうかしたの?」
頭頂部の駆けた頭蓋骨を胸に抱えた千世が、質問してきた
「ど、どうしたのって、あれ、ん誰?」
「紹介するね、私のお母さん……お母さん、お兄ちゃん連れて来たよ」
と向かってお母さんの右側に置こうとする千世に
「いや、ひな人形的に、逆じゃないかな」
(あたしも冷静になにツッコミいれてんだろう)
「ありがとうございます」
そして並べ直し、穏やかな表情で二つの頭蓋骨を見つめる千世に
「今日のちいちゃんの身のこなしを見て、ちょっと提案があるんだけど、明日の昼休み、あたしに喧嘩うってくれない」
「やはり……私の事が嫌いに」
「違う違う……ちいちゃんの強さ見せつけて、いじめをなくす為」
「いいえ、そんなことをしても、無くならないと思います」
「ああ、あの腐った落書きや、言葉はつづくだろうけど、暴力はなくなるわ……何ていうんだっけ……うううん威力」
「抑止力」
「そうそれ……だから明日あたしに喧嘩うってね……でもごめん、あたしきつい言葉で返すかもしれないから泣かないでね」
どんな方法で喧嘩を売るか考える
「騎士みたいに、相手に手袋を投げつけるとか」
「愛好会や、境内の掃除で使ってる軍手でいいですか?」
「あの泥だらけの……いや、さすがに」
「ではハンカチをきょうちゃんの前に落とす」
「うん。あたしに拾わせて、それからどうするの?」
「もう一回落とします」
「うん、確かにカチンとくるね。それでいこう」




