帰還そして、疑問(後編)
自宅のリビング。並ぶ焼き魚や味噌汁が旨そうな匂いや湯気をあげる食卓を背に……母親(静江)はフライパンや包丁を洗っている。
「ただいま……ん」
言葉をきりいだせないあたしを見て、苦笑いする母
「おかえり。なに、しんみょうな顔して」
「ママ……ちょっと聞きたいことが有るから、道場に来てくれない?」
「良いわよ、ここじゃ言えない話?」
「異世界の話……だから」
『しかたない』とばかりため息をつくママ。
「もう……洗い物済ませたら行くから、狂子も鞄下ろして着替なさい」
「うん、ありがとう」
急いで着かえ、道場に駆け込むと……祖父が、なぎなたの素振りをしている。
「おじいちゃん、ただいま」
「お帰り狂子『夕飯が出来た』とでも呼びにきたのか」
「ううん……ママにちょっと聞きたいことが有って……それと夕飯は出来てるから」
「うむそうか。静江が来るまで、で良いから、軽く打ち合いをしてみんか? 異世界でどれだけ強くなったかみてやる」
「え。うん。それじゃあ」
壁に掛けているなぎなたを手にするなり、中段の構えで『始め』の合図を待つ。
「狂子、いつでも打ってこい」
「うん……たあ!」
十分後……異世界と大差ない運動性の自分に(どうして?)と疑問を抱いてると
「はじめは良かったが……相変わらずの大振りで、構えがあまくなるな」
「うん……あ」
母親の気配と視線を感じた狂子は、バックステップで一気に祖父と距離をとるなり構えを解いた
「ごめんなさいおじいちゃん。ママがきたから」
「うむ」
『待ってました』と駆け寄るあたしに苦笑いする母
「気にせず続けてたらよかったのに」
「うん……でもお爺ちゃん、あたしに合わせて手加減してるの、なんとなく分かるもん」
「ははは、ばれておったか……じゃが、毎回わしが勝ち、その悔しさをばねに確実に強くなっておるぞ」
「ありがとう、おじいちゃん……ママ、異世界って運動力が上がるのかな」
「ふふふ……そんな訳ないでしょ、お爺ちゃんと手合わせして分からなかった?」
「確かに、異世界も元の世界も同じ感じ……だけど、千世ちゃんと、木刀で模擬戦して最後、けが押させない様に手加減しちゃったけど。あそこまで見事に避けられるなんて。異世界で千世ちゃんの瞬発力ってどうなってんの⁈ ……ま、結果あたしが勝ったから良いんだけど」
不満げに強がる狂子を鼻で笑う母
「ふ、まったく。狂子も千世ちゃんもまだ恥ずかしがり屋の子供ね」
「どういう事⁈」
今度は真顔で言葉を返す母
「しょうじき自分で気づいてほしかったんだけど……狂子、あなた自分は彼女を守らなくちゃだめで……彼女も、自分に守られなきゃいけないなんて思い込んでいない?」
「そんな事考えてないもん! だって千世ちゃんは大事な親友で、あたしより弱いし、一緒に居ないといじめられるから、守っ……あ」
「分かってくれたみたいね……で、千世ちゃんは勘が良い(かしこい)子だから、『そう考えられてる』てずっと前から気付いてるけど『言ったら嫌われる』なんて」
「あたし、そんな事で嫌いになったりしない!」
「そうね……千世ちゃんもそれは分かってるだろうけど『もしも』なんて臆病になってるから」
「あたし……どうしたらいいかな?」
「そうね、普通なら、本気で殴り合いの喧嘩したら、彼女も実力を出さずにはいられないだろうけど……あの子の場合」
「あたしに謝り続けるだけで、反撃なんて絶対しない」
「でしょうね、あの子、現世さん譲りで頑固なところあるから」
「だったら、どうしたらいいの?」
「狂子。あなた明日から千世ちゃんのストーカーになりなさい!」
真顔でとんでもない事を口走る母親に、思わずせき込む狂子と、声を上げるおじいちゃん
「はぁ、いったい何を⁈」
「そうじゃぞ静江、お前、娘を犯罪者にでもしたいのか⁈」
「ごめんなさい。でも勘違いしないでね。私が言いたいのは……帰る時間遅くなって良いから下校で、あの子と別れてからとか、休日に気づかれないようにあの子の家をの覗いてみなさい」
「私生活を覗けって事、風呂とかトイレとか」
「誰もそこまでしろって言ってません! ……ただ、現世さんと何かしらの稽古、みたいな事はしてるはず」
「確かに、日頃から体を鍛えてなきゃ、あんな動き出来ないもんね……でも、あの細身のお爺ちゃんと」
「ええ、信じられないでしょうけど……現に現世さん、異世界じゃ屋根から屋根へ飛び移って、まるで忍者みたいだったし、前に立たれただけで『あ、勝てないな』て頭に浮かんだもん」
「うそ」
「本当よ……話はそれだけ」
「うん」
「だったら夕食が出来てるから冷めないうちに食べに来なさい、お父さん(おじいさん)も、お風呂で汗流してからで構わないので、早い目に来てくださいね」
「おう分かった」
と言うなり、おじいさんは、なぎなたをかたずけ、道場に一礼をして出て行き、母も後に続いて出て行った。
(ママの説明とアドバイスは、分かるし……もし、あたしより強くても、親友だから分かる『千世ちゃんは暴力が嫌い』だから守ってあげたい)
道場に一人残ったあたしは、安心しようと何度もなずき、深呼吸した……と、どこからともなく声が聞こえる
『あたしのおかげで、あの娘は生きていられるんだ』
『そうさ、あんな娘……』
「いやだ、あたしそんな事」
思わず耳をふさいだ……けど止まない上から目線の声に気付き、吐き気に似た疲労感をおぼえた
(もしかして、これって、心の声? あたし、自分でも気づかないうちに)




