狂子ミドルニア訪問(後編)(狂子VS千世、摸擬戦)
両開きの扉を開き、広い裏庭に出たあたしは、その意外性に驚いた
『城や宮殿の庭』と言えば花や緑でいっぱいの綺麗な場所(女子が喜びそうな場所)だろう……けど、今あたしの眼前には、武舞台のごとく平らに敷き詰められた石畳。を中心に砂利が敷き詰められ、さらに花の代わりだろうか、物騒に木刀やこん棒、鉄製の武器がかざられてある。
「どうだ狂子よ、風呂に入る前にかるく一汗かいてゆかぬか? 静江の娘であるお主の剣の腕前が見たい」
「もちろん良いですよ……て言いたいけど……木刀であっても、さすがに他国の姫に振り下ろしちゃ」
「ああ無論、よとではない……が、もし希望するなら相手になろう……だが、その時は決死の覚悟でかかってこい」
「え?」
鼻で笑うように返事をしたべリハへ視線を向けると……彼女の脇には、燃えさかる炎の毛並みをもつトラが、驚くあたしを睨んでいる……と、べリハは炎の毛並みを撫でトラをなだめている。
『瞬間で理解できた』
さっき大広間でイージス王国の『アストラルワーク研究』
……そしてこれが意味するだろう『軍事力の差』を笑った元老院、理由を……。
理解すると同時に、戦意を無くすけど……気をとりなおし。
「もしかして、イツキさんと」
『負けても良いから戦ってみたい』ワクワク挑戦意欲丸出しの視線を向けるあたしに、笑い返すイツキ。
「ははは、狂子、確かにお前は強そうだけど、あたし相手じゃ、木刀一振りできず一瞬で負けるよ」
「まさか」
と苦笑いするあたしをよそに、イツキの言葉に共感した全員が「「ああ確かに」」と頷き、あたしを黙らせた。
「べリハも、あたいも、多分ビギナも気になってる……異世界の人間同士で、かるく模擬戦を見せてくれないか?」
「えっ、そんなのあたしが勝つに決まってるし、親友にケガさせたくない」
べリハとイツキは、残念がっているのか、複雑な表情をむき合わせる……『そんな二人にもんくを言ってやろう』と歩み寄るあたし。
「まあまあ、でも、勝負は時の運とも言うじゃありませんか」
空気をよんだのか、両手を上げ割って入ってきたビギナ……しかし、助け舟を出してくれると思っていた彼の目も『興味津々』と輝いた視線を向けてくる。
「どうしよう……ねえ、ちいちゃん」
(あたしは知っている。千世ちゃんの事だ、きっと断り切れず困った顔をしてるだろう『断る理由ができた』)
安心して、困ったふりをしながら千世に向けると……予想に反して彼女は、真剣な表情で壁にかかっている木刀を手に取っては、感触を確かめるように振りながら
「皆さんもこう言ってるので、模擬戦しませんか? でも、お手柔らかにお願いします」
と、あたしに視線を返してきた。
(やる気満々『環境は人を変える』ってよく聞くけど、ここまで変わるなんて……さすがは異世界……こうなったら仕方ない。あたしも腹を決めた)
「うんいいよ」
千世の言葉と視線に『負けちゃいられない』と腹を決めたあたしは、深くうなずいて、彼女と同じ木刀を手にとった。
そして裏庭中央、木刀の感触を確かめる様に振り回しながら
「でも思えば、ちいちゃんと木刀を交えるなんて、何年ぶりかな」
「小学二年生いらいなので、五、六年まえになるので……お手柔らかにお願いします」
「じゃあ、これつばが無いから、刀身を合わせて、押し合い……しのぎ削ろうか、でそのまま待った無しで模擬戦、開始で良い」
「はい」
あたし達は接近し、互いに刀身を合わせ、気付く。
「誰か、号令と審判を……」
あたしの声に、機嫌よく手を挙げるべリハ。
「よし。摸擬戦を言い出したよが、号令をかけよう」
「「お願いします」」
『準備完了』とベリハに視線を送る……と同時に視点の変更。
「では模擬戦……開始!」
振り下ろされたべリハの腕。
瞬間で二人の腕に力が入り、押し合う木刀がかるくきしむ。
「ちいちゃん、なかなかやるね」
狂子は、集中し返事が出来ない千世の顔を見ようとしたが、押し合う木刀が前後するたび、にかすかに揺れる胸
(たしかにこれは、なかなか、まだ見ていたい……でも一進一退のままなんてちまんなくて周りは見たくない)
『かくなるうえは』木刀のみね中央に右掌を滑らせた。
「うそ!」
『卑怯者』といわんばかりに目を丸くし驚く千世をよそに、狂子は力いっぱい彼女を突き飛ばし尻餅をうたせた。
「ほらね、あたしには勝てない」
(でも、待った無しだからね)
痛そうに目をつぶる千世の頭目掛け『痛くしないよう』そっと木刀を振り下ろし(一瞬の手加減し)たのが悪いのか。木刀はむなしく、地面を叩いた。
「あれ⁈」
顔を上げた狂子の視界に、間一髪バックステップで頭頂部への一撃を避けた千世の姿が。
(さすがは異世界、元の世界なら当たっていたはず)
二度も起こる予想外の展開に思わず笑みがこぼれる狂子は、テンションを上げ、間髪入れず速攻。はを上に向け、千世に迫りながら切り上げる。
『つばめがえしモドキ』
しかし再びバックステップする千世に、攻撃は横へ受け流され……体勢を崩した狂子は回転受け身をし。千世の背後に立つなり、上段に構え振り下ろした。
が、背負う様に木刀を回した千世に見事防がれた!
「うそ!」(すごい反射力……だけど、このまま!)
また狂子は木刀のみね中央に右掌をあて、押し込み、千世を突き飛ばす。
……そう間髪入れず攻め続ける狂子。じざいな体勢で防ぎ続ける千世……と、狂子優勢の攻防戦が続くうち……。
ばててきたのか、防御体勢で後退する千世は『倒れまい』と背後ををちらちら確認しながら……しまいに……テラスにあるテーブルのそばに追い詰められた!
千世は後ろ手に、天板に手を付ける『しまった』と狂子を見る。
(袋のネズミ)
「あたしの勝ち!」
勝利を確信した狂子は満面の笑みをうかべ『逃がすものか』とばかりすぐさま上段に構えまっすぐ振り下ろした!
「決まった」
しかし、またしても空振り……刀身は、高い背もたれ椅子の頭を叩いている
「うそ、まさか変わり身の術。どこ」
(テーブルが有るからバックステップなんて無理、だからといってテーブルの上にもいない、テーブルを盾に利用してしゃがんでもいない、両サイド、にも居ない……
どこに消えた)
木刀を地面と平行に中段の構えのまま、周囲を見回していると……狂子の前に、正確には彼女が持ってる木刀の刀身に……まるで平均台に、少し股を開きしゃがみ『犬のお座りみたいな姿』で千世が現れた。
(驚いた。でもどこから……左右には柱があって横移動は出来ないし。木刀の上に現れたんだ、テーブル下は論外……だったら)
天井を見た狂子は一瞬で理解した。
そう千世はバックしながら、狂子を定位置までおびきよせ。
彼女が木刀を振り下ろす瞬間に、自分の木刀を捨て、天井から延びるランプフックの鎖につかまり、周囲を見回す狂子を、見下ろし……。
頃合いを見て手を放し、木刀の上に登場したのだ。
つまり最初から『狂子は千世の作戦どおりに動かされていた』のだ……
などしるよしもない狂子は、ただ眼前のありえない光景に唖然とするばかりで『頭真っ白』動けない。
狂子に、木刀に乗ったまま千世は、さとす様な口調で
「確かに元の世界では、私はきょうちゃんより弱いです……けれど、ここは異世界『油断大敵』きょうちゃんの悪い癖です」
『はい』感心する様にうなづき我にかえった狂子は、ニヤリと笑みを浮かべ言葉を返す
「確かに……でもちいちゃんこそ、灯台下暗し……水色か」
「えっ?」
「ほら、パンティー見えてるよ」
狂子があごで千世の股を指すなり
「きゃ!」
顔を真っ赤に声をあげ、すぐさま股を閉じる千世。
だが、その油断と反動でバランスを崩し、木刀から滑り落ち、尻餅をうった千世。
そこすかさず狂子が千世の首筋に木刀を当て、ニコリと笑い『勝敗確認』
「でも最後はあたしの勝ち……でいいよね?」
「はい、参りました」
「よし勝負あり、勝者、狂子! ………礼を言うぞ。良い、面白い勝負であった、二人とも汗をかいておる、千世にいたってはそのきれいな黒髪が砂だらけではないか……さあさあ早く風呂で流そう」
と、ベリハは手を伸ばし千世を引き起こす。
「ありがとうございます、マスター」




