「ただいま」異世界(後編)(朝稽古、そして)
一時的に視点は変わり……まだ薄暗い早朝(午前四時)
狂子が寝息を立ててるベッドの横で、装備を整えたイツキと千世がうなずきあう。
「行ってきます」と言い残すと二人は窓から飛び出した。
そして日が昇り……全開の窓から遠慮なく光が、狂子の顔面めがけて降り注ぎ、寝返りを打ち転がる彼女はベッドから落ちた。と同時に視点を狂う子に変更。
(うう窓全開。誰が)
まだ眠たい目をこすりながら見回すと……そこに、一緒に眠っていた二人の姿はなかった。
(全開の窓に、消えた二人……うそ、もう帰っちゃった⁈)
目を丸くした先……机の上、たたまれたブレザーのそばにあるメモには
『おはようございます、心配しないで下さい、朝の散歩に行ってきます……すぐ戻ります』と千世の字で書かれていた
(よかった)
安心したあたしは、服装を整え厨房へ……一足早く来て大量のパンを焼いているビギナと朝食の準備をはじめる。
テーブルに料理を運んでいると、匂いに誘われたように『腹減った』と散歩を終えたイツキと、千世が正面の扉から戻って来た。
「おはようございます。これ、二人の朝ごはんです」
「おう(おはよう)。すまねえな狂子ちゃん……しかしここ(エトセトラ)は良いな。野外任務が日常のうち(影の一団。アボティラン)と違って毎度飯が出てくるうえに……しかもそれが美味いときたもんだ。まさに天国!」
「おだてたって、何も出ないよ」
料理長が愛想笑いを返す。
朝食と皿洗いを終えたあたし達は『腹ごなしに体を動かそう』と訓練場を歩いていると
「おう。朝の見回りご苦労さん」
「なんの、これくらい」
「昨晩頼んだ事だが……久しぶに今から、わしと手合わせしてくれんか?」
「望むところ……そっちのえものは?」
「わしは木刀でいかせてもらおう」
「……ならあたいは、ナイフ代わりに短い木刀を一本」
返事を聞くなり、ゲイルは壁にかかっている木製武器から、短い木刀を取るなりイツキに投げ渡す。
「短刀一本とは、自信満々だな……だったら、皆にも見える様、中央でやらないか」
『わしだって自信満々』といわんばかり木刀を振り、練習場中央に誘うゲイル。
「なあそれ、あたいにとっちゃ不利この上ないんだけど、できれば木の近くで」
「良い年と体をして、甘えたことを言うでない……ほれいくぞ」
開始の合図もなしに、木刀を振り上げ襲い掛かる
そのまま数分が経つも、攻め続けるゲイルの攻撃を、ただ受け止めるだけでイツキからは攻撃の意思が感じられず
業を煮やしたゲイルが、声を上げる
「なぜ全力で来ん!」
「『やあやあ我こそは』なんて名乗りを上げて一騎打ちが信条である戦士タイプのあんたと違って……あたいらの流儀はアサシンだからこんな平原みたいな地形じゃ、使い物にならない」
「だったら、名乗りをあげれば良いだけの事」
『この筋肉脳みそ』噛み殺すような小声の後「これから殺そうって相手に正面きって名乗りを上げる本末転倒な暗殺者がどこに居るって言うんだ……第一さっきから、あたいの背後をとろうと、カニ歩きしてるあんたの方が、よほど暗殺者っぽいよ」
「ははっ。言われると確かに」
「じゃああれ、木の近くで仕切り直さない?」
「断る」
「なんで」
「木の下まで誘い、わしの攻撃と同時に、みきを駆け上がり宙返りし、わしの背後をとって首筋をきるか、律儀に殺さずの誓いを守ってアキレスけんを」
「いやあ」
『ばれたか』と苦笑いするイツキに言葉をつづける。
「または、剣や槍が届かない高さまで飛び上がり、頭を下に捨て身の直滑降で、わしの頭や首筋をたたき、脳震盪できぜつ」
「わかってんなら」
「うむ、分かっていても勝てんのだ」
(そんな情けないこと、胸を張って言わないで)
「だからこのまま、平地で勝負だ」
「いいけど……少しひきょうな技で勝つよ」
ため息をもらしたイツキは、もう少しで懐に入れるまで詰めた間合いをくずし距離をとり「仕切り直そうか」と構える
イツキ。周囲をぐるぐる回る
マスター。その場で回り……足が交差する
その瞬間
イツキ。突進
マスター。交差した足(もつれた足)では木刀が上手く振れないうえ、正面から迫ってくる相手へとっさに横移動、後退ができず……
尻もちをついたゲイルに、ハヤブサのごとく一瞬で詰め寄ったイツキは、すかさず彼の手から木刀をけり落とし奪うと、短刀を腰(背中)に収め、押し倒し(ゲイルの)腹の上にまたがっては木刀を地面に立てた。
「お見事!」
思わず出た声に口を押さえるあたしを見て、確信の笑みをうかべ勝利宣言
「今回もあたいの勝ちみたいだな」
「うむ」
ばつが悪そうに立ち上がり頭をかくゲイル……ふいに視線が合った千世に(何を思ったのか)提案を持ち掛ける。
「お。そこの、イツキのお連れの嬢ちゃん……良ければわしと一勝負、手合わせしてはくれんか……負けたままでは、ギルドマスターとしてしめしがつかんからな」
「私ですか?」
「他に誰がおる……して、名前は?」
「はじめまして、暗木千世、と言います」
『暗木』という名に周囲がざわつく
「暗木……もしや暗木現世の娘か」
「あっ、いえ、孫になります」
視線をそらし小声で答える千世に、首をかしげるケイルだが……『まあ良い』と木刀を振り、練習場の中央に戻って構えた。
「……そうか、うん、現世の家族であれば、期待しておるぞ」
「お手柔らかに、お願いします」
千世は短刀を取りかけたが『目には目を』と木刀をチョイス
「ちいちゃんが戦うなんて、あたしと小学三年のチャンバラ以来だね、がんばって」
「はい」
応援するあたしに、自信なさげな愛想笑いを返し……ゲイルの前に立ち一礼
「お願いします」
「感謝する。では、いざ勝負……」
ゲイルの構えは上段(右肩から振り下ろす)
千世は中段と八相の混ざったような構え(弾き飛ばそうと)
ゲイルは距離をとり……脇構え
(初激勝負)さぐるように構えをかえあう無言の攻防が
(そろそろ一分……はやく)……と
「たあ!」
『カンカンカンカン。力押し』といわんばかり、ゲイルの連続攻撃に防戦一方の千世。
「イツキさんに負けたのが悔しかったからって。ひどい……けど」
一撃一撃、確実に防ぎ、流している千世。
「どうした!」
声を上げ挑発するゲイルに、なぜか千世はあたしを見つめる……反撃する気配の無い事にゲイルは
「やめだ!」
攻撃の手を止めため息をつき言葉をつづける
「どうやら訳あり、いや、疲れているようだ……色々すっきりしてから再戦しよう」
「……あの……すみません」
気になったので戻って来た千世に、質問する
「さっきの勝負の時、あたしの方ちらちら見てたでしょ」
「ごめんなさい……その……見られてると思ったら、集中できなくて」
「うん、でも、謝る相手間違えてるよ」
あたしの忠告に、申し訳ない表情でゲイルへ視線を送り、回れ右をして歩き出す千世。あたしは彼女の肩を引っ張り言葉をつづける。
「いまさら謝られても困ると思う、だから今度の手合わせでは、全力で」
「はい」
重くなる空気に言葉を失うあたし……そこに助け船が
「お二人さん。昼一の船(飛行船)でかえるんだろ?」
「うん、その予定」
「稽古で少し腹すいただろ……まだ時間があるから、そこのテーブル、朝食の残りになるけど、良ければもう少し食べてくかい?」
「ありがてえ。いただきます……狂子ちゃん達もどうだ」
「いただきます」
そして対面するように座り、間食を始める。
大口を開けむしゃむしゃと、あたしの横に座ってるビギナ以上に男らしい食べ方をするイツキ……その強さと装備に
「ミドルニアってどんな国。強い? もしイージス(この国)とせん……」
あたしのセリフ遮るイツキ
「めったな事言うんじゃないよ! まあ勝つだろうね……人間主義なこの国と違って亜人がいる」
「獣人とか」
「いや。獣人などはバキアに居るけど、ミドルニア(うち)にはエルフやドワーフが居て武器を作ってる」
「エルフにドワーフ!」(これこそ異世界!)
感極まったあたしは、声を上げ椅子を飛ばして立ち上がり……イツキを笑わせる。
「ははは……あ、そのうえ『魔王』を自称してるお姫様も居る」
「魔王!」(辛抱たまらん)
鼻息荒くするあたしに
「気になる。会ってみたいかい?」
「はい」
「うん……だったらあたい達と一緒にミドルニアに来ないか?」
「え。良いの」
「ああ、あたいらは問題ないけど。狂子はゲイルさんに、ちゃんと許可取ってからな」
「すいませんゲイルさん……あたしとビギナ二人で、イツキさんと一緒にミドルニアに行ってもいいですか?」
「ゲイルさん。あたいからも頼むよ」
「うむ……毎日、訓練と見回りでけだ……『社会勉強』という事なら良いか」
「ありがとうございます!」
「あ『社会勉強』とはいえ、帰りはバキアで下船せずまっすぐ帰ってこい」
「はい」
そして……身支度を整えたあたし達は『行ってきます』と手を振り、ギルド宿舎を出て運河へむかう。




