入部(入会)『自然観察同好会』(狂子)
そして翌朝、昇る太陽が一日の始まりを告げ……再び場所は鬼道家、狂子の私室。
一時は『RPGは卒業』と寝た……まではよかったが……彼女にとって数日ぶりになるゲーム、その誘惑に(ちょっとくらい良いよね)と、今回も寝落ち。
画面には『ゲームオーバー』の文字が点滅している……「ううん」起きたようなので視点を狂子に交代しよう。
(そうだ、制服に着かえなきゃ)
すぐさま、テレビとゲームの電源を切り、急いで制服に着替えたあたしは、乱れた襟や寝癖を直す暇なしと部屋を飛び出し、階段を駆け下りてはリビングに飛び込んだ。
「おはようママ」
『どんなもんだい(起こされる前に起きた)』と笑顔のあたしに、ため息まじりに小言をもらすママ。
「まったく異世界から帰ってきても、進歩してないのね」
「異世界じゃちゃんと早起きしてたし、起こされる前に起きたじゃん。けど我が家だからこそ」
「はいはい、もういいから遅刻しないよう早く行きなさい」
そして『いってきます』と家を出たあたしは
(この、興奮冷めやらぬ気持ちを共有しよう)と通学路をひた走ていると……彼女も同じ気持ちなのか早歩き(ランニング)する千世の姿が見え……あたしは彼女の肩をたたく。
「ちいちゃん、おっはよう」
「あ。おはようございます、きょうちゃん」
「ねえ、昨日はすぐ眠れた?」
「はい」
(なんだ)不満げに鼻で息するあたしに、千世は言葉をつけたす。
「あいえ、でも寝る前にすこし……今後、あちらの世界に行きやすいように、模様替えと、ドアにあちらの世界に居ますといった掛札を作ったの」
「部屋の模様替えね……なんかめんどくさいからあたしはパス……けど掛札っていい! あたしも帰ったら段ボールで作ってみよう」
なんて、あたし達にしか分からない『異世界トーク』で盛り上がりながら校門をくぐる。
そう……電信柱の陰に隠れ、こっちを見てはほくそ笑んで眼鏡を光らせる男に気づかずに。
「はあは、もう少し様子見と思ってたけど……我慢できないよ……もう昼休みにでも接触しちゃって良いよね? ……ふふふっとふが三つ」
という彼も彼女たち同様、気づけずにいる。
『ママ、あのお兄ちゃん何』『見ちゃいけません』
と通行人の母子からのお約束の反応をされていることに。
(また異世界に戻りたい……出来るなら今度から二人一緒に)
『時間の立つのは早いもの』で気づけば昼休み開始のチャイムが鳴っている。
机をくっつけ向え合わせに昼食を食べたあたしと千世は、腹ごなしに廊下を歩いている。
「ちいちゃん、一限のホームルームで先生が言ってた『クラブ活動』だけど、何処に入る?」
「私は、体育がだめだから、人の足を引っ張りたくないから運動系はやめて……読書部に入ろうと思いますかな」
「えまた? 小学校の頃と同じじゃん……だったらあたしも、読書部にしようかな」
「きょうちゃんこそ、私に合わせず運動部に入れば(げんにお誘いが来てたし)」
「うんありがとう。でもここの図書室、前に見たとき漫画いっぱいあったじゃん……だいいち運動なら、うちの道場や、異世界で思う存分できるから必要なし」
「でも……」
どうやら千世は、あたしを運動部に入れたいらしくしぶっている……ここは一言。
「そんなお二人に朗報!」
あたしのセリフと、進路を遮るように、メガネ男が飛び出した!
あたしはすかさず千世の前に立ち、身構え男をにらんだ。
(制服を着てるから生徒、襟章は、二年生と先輩の様……だけど怪しさ大爆発)
「誰、あんた」
「これは失敬、僕はメガネ君先輩……話が聞こえたら、部活さがしのようだね」
「なら何」
「元気良いね……けど僕いちおう先輩だよ……て、まあいいか。自然観察同好会、なんて興味ない」
「同好会、何をするの?」
「ほらあそこ。グラウンドの端……みえるだろ『自然学習の森』とは名ばかりの、焼却炉とゴミ捨て場を隠すために在る池と雑木林が。そこの物置小屋が、部室であり……活動はおもに、中庭等の掃除や水やりかな? 放課後、昼休み毎日だから毎回適度で良いよ」
「それはまるで……」
「そう、用務員のおじさんを手伝っているうちに作った同好会だからね」
あたしは思わず噴き出した
「でそのどこが、あたし達にぴったりだって言いたいの⁈」
(活動内容があまりに退屈……もしかして馬鹿にしてる)
くってかかるあたしをものともせず、言葉を返す眼鏡男(メガネ君先輩)
「よくぞ聞いてくれた……活動内容は『水やり、草むしり、掃除』と単純。活動場所は中庭と、主に、教師たちの目が届かない雑木林で、会員は僕と君達三人だけ……そしてなにより部室は窓のない物置小屋だから、叫んだって誰も来ない」
息を荒げ力説する眼鏡男。その言動はまさに『不審人物』(こんたん見えた)
「だから何! もしかして、いやらしいことでもしたいの」
声を荒げ睨みつけた。が、どうじないどころか鼻で笑い不思議そうな顔を向ける
「いや……だから僕が言いたいのは、君たちがもし、放課後や昼休みに数分間……この世界から消えたって、だれも騒がないって事さ」
「あたし達がこの世界から消えるって……何、物騒なこと」
メガネ君先輩の言葉『数分間消える』に心当たりあるあたし達は、焦るあまり思わず吹き出し、声を上げた。
「遠まわしは避け、ある程度ストレートに言ったんだけど……いや、まだとぼけるのか?」
「「……」」
チャイムが鳴り『助かった』と胸をなでおろすあたし達だけど
「入会してくれるまで、僕はあきらめない。いつまでも声をかけるよ」
「げ」
「……それが嫌なら今日の放課後、雑木林の物置小屋に来るといい……ではまた会おう、鬼道狂子くん、暗木千世くん」
不意に名前を呼ばれたあたしは、慌て名札を見るが『鬼道』名字しか刻まれていない。
「どうしてあたし達のフルネームを」
回れ右をして去り行くメガネ君先輩に、早口で問いかけるあたしに、彼はふり返り笑うように答えた
「それだけじゃなく、君達の事なら、家族の事までいろいろ度知ってるよ」
「きも……ストーカー?」「……(怖い)」
「おいおい鬼道くん。口に出てるよ……ま、怖がらないで。少なくとも僕は君達の味方、ある意味ファンだから安心したまえ……それでは」
制服をマントのようにひるがえし、去り行く男
「どうしよう」
軽く頭をかかれるあたしに……今度は先生が声をかけてきた
「やっかいな奴に、目つけられたな」
「やっかい?」
「ああ……あいつの後ろには『元やくざ』がいるとか」
「やくざ。だから?」
(それ程度であたしがひるむとでも?)不機嫌に返事すると
「『島守組』と言えば分かるだろ」
(なるほど、そうきたか)
中二寺をはさんで『北の鬼道、南の島守』といわれるほど有名で、彼らのボランティア精神は尊敬し、年末の公園餅つきや、夏の河川敷祭りには、参加している。
「たしかに……やっかいで、怪しく、何考えてるかわからん男だが……悪い奴じゃないぞ」
「はい……でもな」
……あたしは午後の授業そちのけで『あんなメガネ男忘れてやる』と思えば思うほど……あの強烈なインパクトがくりかえしおそう。
(そうだ。一方的に結ばれた約束なんて破って放課後そのまま帰っちゃえ……いや……それこ翌朝からそしつこく付きまとうんだろうな……しまいには、家まで来たりして……)想像しただけではしる悪寒に、背中がふるえた。
そして放課後。
「行くしか、ありませんよね?」
「はは。やっぱり」
かんねんしたあたし達は『行くしかない』とため息まじりにグラウンド隅の雑木林に向かった……。
(意外)
てっきり草ぼうぼうの原生林と思っていた私は、レンガを並べ作られた道に感心しを進むと……(もったいない)かつて自然学習で使われていたであろう、ひあがった池や小川にかかる石橋を渡り、少し歩いた先……木々越しに物置小屋が見えてきた。
(雰囲気ある)感心するもつかの間。
「げ!」「あ」
あたしたちの前に、フード付きローブ姿の男がうつむき加減に、軽く両手を広げて立っている。
(初対面の時から、もしやと思っていたけど……ここまでこじらせていたとは)
ローブ姿の男……異世界であればなんという事もないけど、元の世界だと怪しさ満点だ。
(千世ちゃんが横にいなければ、今すぐ回れ右をして、逃げ出したい)
思わず弱気になり一歩後ずさりするあたしは、お約束と言わんばかり枝を踏み音を立ててしまった。
すると『もう逃がさない』とばかり、さらに両手を広げ、ゆっくり近寄ってくる。
「おお、よくぞ臆さずに来てくれた……ようこそ『自然観察同好会』に。歓迎しよう……あ、これは来てくれた礼だ。キンキンに冷えてるよ」
ローブの袖から取り出したコーラ缶を受け取る。
(確かに……でも、何分待ってたかしれないのになぜ冷えてる?)
コーラ缶の冷たさに、頭も冷める。
「ありがとうございます」
「ありがとう。って、そんなことより……昼休みの答え、早く教えてくれない」
「私にも教えてください」
「いいとも。ストレートに言うから君達、おどろかないこと……いいね」
「「はい」」
「よし……では言おう、君達は最近異世界に行った事があるだろう……イージス王国、ミドルニア王国、バキア、ギルド『エトセトラ』、どうかな?」
「どうしてそれを」
「答えは単純さ、御同類……僕も君達同様、異世界旅行者という事さ……一つ違うところは、僕は向こうの世界出身という事」
「異世界と行き来、出来るデバイスは、あたしとちいちゃんの二つしかないと思ってた」
「それも答えは簡単……僕は君たちの言う『異世界人』で、僕のつけてる眼鏡は君達が使ってる異世界転移できるデバイスの試作品だからね」
()
「先輩はこれを修理できるのですか?」
「まさか……修理なんかできないから転移のたび、ドキドキものさ」
苦笑いしているメガネ君先輩に……なんとなく理解できたけど納得は出来ないあたしは、コーラ缶を見て思い出し質問する。
「もしかしてだけど、イージス王国の公衆浴場で混浴を廃止したり、この世界からコーラを持って行ったりって」
「御明察、僕だよ。今日もこれから持っていくつもり……けどちょっとした行動や発言がきっかけで社会まで変わることを知って怖くなった僕は、残り短い人生傍観者になることにした」
「傍観者のわりには、コーラ高値で売りつけるんですよね」
「ああ……市場を狂わせない程度に、稼がせてもらうよ」
「そう……だったら向こうの世界であんたを見つけて」
かみつこうと歩み寄るあたしを、後ずさりしながら鼻で笑う
「ふふっ無理だね……この姿はこの世界用で、本来の姿よりはるかに若いから、多分、向こうですれ違っても君達は僕に気付くことなんて出来ないだろうし、さっき言ったとおり傍観者だから、僕から挨拶なんてしないよ」
「くうう……」
悔しがるあたしに安心したのか、歩み寄ってきた
「だが、君達が助言を求めるのであれば……あえて僕は曖昧に答えてあげよう」
「なんで」「ずるい」
「これは君達一人ひとりの人生だ、僕が与えられるのはあくまで助言であり、その先に明確な答えなんて無い……と思う」
『返事をよこせ』といわんばかり、どや顔でポーズを決めたまま制止するメガネ君先輩……数秒後……諦めたのかため息をはき、扉と内を開く。
「まあ、そう言う事だ……という事で、お先に僕は元の世界、バキアに戻るよ」
「バキアってどこ?」質問するあたしに
「狂子くんはまだ行ってないか。イージス王国とミドルニア王国の間にある中立の商業都市で『人間至上主義』のイージス王国じゃ、そうそうお目にかかれないだろう獣人やエルフ、亜人が普通に歩いてまさに十人十色で、僕の商売が終わるなんてことはない」
(あんたの商売なんてどうでもいいけど、獣人、エルフ)
興奮気味のあたしを見て、ここぞとばかりに声をはり、奥を指さするメガネ君先輩。
「さあ。入会する気があるのなら、手続き簡単。ほら、奥のテーブルに有るプリントに名前を書くだけでオーケー!」
「はい……あ、そうだ。メガネ君先輩が行った後、あたしたち二人もここから異世界に行ってもいいですか? ……その『入会するかの答え』は戻ってきてからという事で」
「いとも……分かってると思うけど。数分とはいえ異世界が戻ってくるまで、ここは無人になる……万が一、戻って来た時に、他人とはちあい『どこから現れた』とトラブルにならないよう……物置小屋の扉を閉めてくれ……それではお先に」
と言うなり、メガネ君先輩の姿が光り消えた。
「ほんとにあたし達と同じ、異世界旅行者なんだ」
「はい。それできょうちゃん……わたしは入会してもいいと思います」
扉を閉め、内から鍵をかける千世
「たしかに、安全に(異世界転移)行き来出来る場所が多いにこしたことはない……それより。そろそろあたし達も行こ!」
「はい」
「ナビ」「さんだゆう」
「「いざ、異世界へ!」」




