元の世界に帰還(前編)(狂子)
ここは鬼道家、道場のトイレ……つまり今から狂子が帰り着く場所である。
……『噂をすれば影』なのか、宙に光る球体が現れたと思いきや砕け散り、元の世界に転移(帰還)した狂子が現れ、間髪入れず彼女は『は!』声を上げ大股を開き、見事、和式便器にまたがる姿勢で着地した。
のでここからは視点を狂子に変えよう……しかしこの姿、ひとに見せられたものじゃない。
「は! ふう間一髪。って臭い!」
(分かってたけど、異世界から戻ってきたら
(道場のトイレに戻ってくるのは分かってたけど……この臭いで『戻ってきたんだ』なんて実感したくない……もう今後はあたしの部屋から異世界に行こう)
とりあえずあたしは、臭い(悪臭)と匂い(芳香剤)漂うトイレで、深くゆっくり深呼吸をし、気を落ち着かせ「よし」と一言、扉を開けると……道場では家族がかたずけの最中だった。
(手伝うべきかな)などと扉を閉める音で、静止した家族の視線が一気にあたしへ注がれる。
「んと、ただいま。もしかして結構時間経ってた?」
「おかえり……『数分の誤差だ』って言ったでしょ。まあ三分くらいかしら……それより、向こうの世界はどうだった? 何日過ごしてきたの?」
興味津々で近寄り聞きに来るママに、あたしはにやりと笑って
「あ、これはウィップクイーン先輩……半月くらいかな」
「ウイップ?」「なんじゃ」
当然パパとおじいちゃんは分からず、首をかしげる。
「ねえ狂子……どこでそんな言葉覚えたのかな?」
顔をこわばらせるママを見て『弱みを握った』などと笑みを浮かべた……のもつかの間。
「狂子ぉ~」
にこやかに笑みを返すママの低い声、その背中から
『口は災いの元ってことわざ、知ってる⁈』
と、押し寄せる殺気にも似た威圧に、あたしは思わず固まり理解した
(やっぱりママには逆らえない『終わった。あたしの三秒天下』)
「ごめんなさい」小声で目をふせるあたしに安堵したママは改めて質問してきた。
「で……向こうの世界はどうだったの?」
「ギルド『エトセトラ』に入団したよ」
「ふ、でしょうね」(そこで『ウィップクイーン』を知ったのね)
あたしの返事を聞いて、思い出したのか。
やさしい笑顔を浮かべ、再び聞き返すママ
「ビギナ(あのこ)とは会えた?」
「うん、年上だけど……ビギナ・スター君と、他にも」
「ビギナ君か、懐かしいな……何歳になってた?」
「十八歳、だったかな」
「そうか十八……私が向こうの世界、卒業して、五年たってるのね……他にもって誰?」
「イツキさん……そうだ、写真撮ってきたんだった見る」
デバイスを手渡そうとするあたしに
「空間に映し出して」
「え?」
「見せたい写真にアクセスし『投影』と念じてみて」
言われたとおりにすると……撮った二人の姿が立体映像でうかぶ。
当然驚き目を丸くするあたし、パパ、おじいちゃんをよそに、それを見るママの顔は穏やかで優しい。
「イツキちゃんも。大きくなったのね……予想はしてたけど、もう完全に尻にしかれてるわね……ありがとう」
「うん。どういたしまして」
『投影消して』と念じ、一息ついたあたしは『いい事思いついた』とひらめき、さっそくデバイス(それ)をママに向け。
「そうだ。おかえしにママの写真を」
「やめて」言葉をさえぎるようにママがあたしの腕をさ下げる。
「あの子たちには、いい思い出として、あの姿の私を覚えていてほしい」
「確かにギルドマスターの部屋にあった写真のママ、とても若」
「ん?」再びおしよせる無言の圧力。
「わ……可愛かったもんね」
ここで疑問が浮かんだあたしは言葉をつづけた
「五年経ったったって……この腕輪、時間覚えて、時間差なく行き来できるんでしょ?」
「それはね……狂子と千世ちゃん、二つの時計があると考えて……まずこの世界の時間は共通してるから、除外して」
「うん……残るは異世界での時間」
「狂子の時計は……お爺ちゃん、私、狂子の順で……千世ちゃんの時計は、暗木のお爺さん、千世ちゃんの順で、受け継がれてるの」
「うんそうすると、暗木のお爺さんて、かなり長い間使ってたんだね」
「そう、そこがポイント! 少し話は変わるけど、私の異世界活動も狂子と同じ中学入学いわいに、デバイスを渡され始まったの……でお爺ちゃんが手を回してくれてたおかげで、すぐ『エトセトラ』に入団……でその頃、ビギナ君が生まれたの」
「そうだ、だったら。ビギナのママって誰か知ってる?」
「えっ、そんなの料理長のサラ・スターさんに決まってるでしょ」
「料理長は、サラ・ブレイカーさんだよ」
「あ。私の知らないうちに離婚してたか……ビギナ君の成長と比例して、夫婦喧嘩も大きくなってたもんね……やっぱりね」
満足げにうなずき自己完結するママ、まるで『のりつっこみ』と、ことばがつづく「……て狂子、興味本位なんかで離婚の理由なんて聞いちゃだめだからね……人生色々なんだから」
「うん……それから」
「十年後……ビギナ君は彼女と出会ったの。まさに『ボーイ・ミーツ・ガール』ね」
(言葉じゃああ言ってるけど……ママも心の中じゃあたしと同じ『カモ・ミーツケタ・ハンター』って思ってるんだろうな)
「イツキさん……背が高くて、ちょっと怖いけど、かっこいいお姉さん」
「そう。そして三年後……私は異世界での生活を、卒業したの」
「え。急になんで⁈」
(あんなに慕ってくれてる人たちを、見放したのか)
少し腹が立って声を上げくってかかるあたしの頭を、優しく撫でおさえる。
「そんなの簡単……狂子、あなたを身ごもったからよ……そんな体で無理できないし……異世界生活より楽しくなりそうだからね」
「ママ……で、残る五年は」
「それはね、この世界で十三年の内に……暗木のお爺さんが、千世ちゃんの異世界時間を、五年間進めてたの」
(なるほど。三たす五で八年か)
「え……だったらなぜ、あたし千世ちゃんと、すぐ会えたの」
「それはね……二日前、暗木のお爺さんが家に来て『わしらの都合で二人が異世界で会えないのは可哀そうじゃろ』て……千世ちゃんの異世界時間を基準に、デバイス(おたがい)の時計を同期させてくれたの」
「てことは最後の『同期させた』が答えなんだ……魔法を使えないマジカルアイテム、のくせして何か、デジタル」
「ふふ。身もふたも無い事言わない! ……うん、予想以上にデバイスを扱えてるから便利な機能教えてあげる」
「なに?」
「インベント」
「イン弁当?」
「お約束のボケありがとう『インベント』よ……あつづけて『イベント』なんてボケたら殴るからね」
「へへ。ばれたか」(表情に出てたか)「道具袋のことだよね。どう使うの?」
「デバイス」
と手を伸ばすママにデバイスを渡す。
「見てなさい。過去に入れてたものいくつか出すから……財布。ソード。アーマー」
ママの言葉へ応えるようにそれぞれが、出てきた。
「すごい」
「ふ。入れるときは……財布インベント」
またも応えるように、財布が一瞬で消える(デバイスに吸い込まれるように)
「おお」
「簡単でしょ。その三つは異世界デビュー祝いにプレゼント」
「ありがとう」(だったら、さっそく)RPG好きのあたしがこんなの前に大人しくいられないと、ソードに手を伸ばすあたしに
「まって……プレゼントって言ったけど、二つ、守ってもらいたいことがあるの。一つ、実はこっち(この世界)と異世界の通貨は共通して使えるの」
「便利、だったら」
「だから、その財布の中のお金とギルドで稼いだお金は、こっち(この世界)で使っちゃだめ! 二つ、料理の手伝いで包丁すらまともに使えないんだからソードはいざってとき以外は出しちゃダメ(道場や、自主練は許可)」
「アーマーは注意事項ないの?」
「ええ、ためしに装備したら分かるけどダメージ受けすぎないでね」
つけると胸にこぶし大の空間が出来る
「……」言葉を失うあたしにすかさずナビが
『主。これは胸ポケットです。けしてサイズの違いでできた空間ではございません』
「ナビ、フォローありがとう。でも優しい言葉は時に人をきずつけるのよ」
ため息をつくあたしの気をそらそうとママが話しかけてきた。
「あ。狂子、気を取り直して……インベントリの中は時が止まってるから、食べ物を腐らせたり、冷めさせることなく持ち歩けるから便利よ(けが人を病院に運ぶ時便利)」
「てことは、異世界に冷えた炭酸飲料持ってけるって事⁈」
話題に食いついたあたしを見て『ほっ』とした表情をするママ
「ええまあね、でも、知ってると思うけど異世界にはペットボトルなんて無いんだから……ゴミはちゃんと持ち帰ってくること」
「はい」
「分かればよろしい。てもうこんな時間(午後十時)この世界に戻って、体力も戻ってるからしんどくないだろうけど、明日も学校でしょ。ゲームで夜更かしせず、着かえてはやく寝なさい」
「は~い……おやすみなさい」
(うん。ママの言うとおり、異世界に行く前同様、疲れてないし、髪や服からは洗いたての匂いがするけど……『異世界ではあんなに運動して汗かいたんだ』)
と妙に落ち着かないあたしは、かるくシャワーを浴びリフレッシュ……したところで
(ちょっとだけなら良いよね……三十分だけ)
とゲームのスイッチを入れ画面の前に座った……けど
さすがに本物の異世界を体験しただけあってか、その作り物の違和感に、スイッチを切る
(ゲームは卒業……いや、とうぶんの間RPGは卒業、カード、パズルゲームをメインに)
と思いながら寝る
読んでいただき、ありがとうございます。
『オタク系女子中学生が異世界転移⁈ 狂子のお気楽ファンタジー』
第十四部『元の世界に帰還(狂子)(千世)』
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by.メガネ君(作者)




