町を出、初任務(その五、作戦開始)(千世)
そしてここは一際高い木のてっぺん……周囲を見ると、バキアの街並みが小さく見え……反対には大きな町(イージス王国)が見える…………とそこにイツキの予想どおり北から盗賊らしき影が。
「イツキさん、北北西から来ました」
『報告ごくろう。それじゃ引きつづいて、おっさんらを守ってやって』
「はい」
会話を終えるなり私は、木のてっぺんから飛び降り、一番下の太い枝にに着地し枝葉に隠れながら、眼下周囲に目をくばっていると……少し離れたところから、剣げきと、男達の叫び声、怒号が聞こえる。
「始まった……よし」
しかしすぐ終わったのか、それは五分も経たない内に静かになった。
(もう終わったのかな?)
と私は再びデバイスを通しイツキさんをよぶ。
「流石です、イツキさん」
『ありがとう……でも何か今回は少ないな、盗賊も人員不足か……そっちはどうだ』
「はい……」
川向こうで茂みが揺れ、頭にバンダナをし『盗賊です』と言わんばかりの髭面男が顔をのぞかせては、隠れた。
「あっあれ!」
そう盗賊達は、対岸からおおきく回り道(テレビゲームで言う『裏どり』)をしたのだ。
『どうした⁈』
「はい今、その不足分が川むこう(南)から来ました」
『毎度の事と油断した! 、意外と賢いな。ははは』
「感心しないで下さい……対処します」
『そうだな、たのんだ! あたいも、こいつら縛ったらすぐ行く』
ひそみ寄る盗賊達……千世は、枝から枝へと飛び移り、地面に着地するなり猛ダッシュ。
警備をしながらも談笑する『エトセトラ』ギルドの男達に背を向けトンファーを構える。
「嬢ちゃんどうした、そんなおっかない顔して」
「川むこう、回り込まれてます! ……北側のイツキさんと合流してください!」
「ああ」
目を見開き声を上げ、指示する私の迫力に圧倒されたのか、男達は返事はするけど、すぐに体は動かないようだ。
「早く!」
いつの間にか川を渡った盗賊達が、私の声だけで状況をつかんだのか『チャンス』とばかり頭を上げ、茂みから姿を見せるなり走ってきた。
私は一気に姿勢を低くし、正面の敵にダッシュし……数人の盗賊の足にロープを絡ませ、こけた背中にまたがり両手を縛ることで数人を捕縛。
(初めてだけど、鮮やかな手際だ)
『ほめてもらおう』などと顔を上げると、いまだ棒立ち
の正面に、うちのがした盗賊が。
私は回れ右してまいもどる
先頭の盗賊が手を頭に、武器を持たぬ商人の男へ、頭を下げた。
(背中から刃物をぬくのか)
私は賊たちの足をすりぬけ、先頭にいる賊の背中をひじ打ちし気絶させた……が『仕返し』とばかりすぐ別の(先ほどすりぬけた)賊に背中を狙われ、地面に転がり回避した。
つもりが避け切れず、わき腹を手で抑えながらも、馬車の屋根に飛び上がり、トンファー構え……
(あれ? なぜ賊たちは棒立ちの商人を襲わない? 商人もなぜにこやかな顔をしてるの?)
眼下の様子に疑問を感じ、首をひねる私に賊がほえる。
「なにしやがる! 女のガキかよ!」
と俗の投げつけた石を弾き飛ばすと同時に、カウンターとばかりに跳びかかり頭突き!
よろめいた賊の背中を踏み台代わりに、馬車へと蹴飛ばし気絶させると……指揮官がったのか、他の賊が大人しくなる。
(チャンス)
私は、残る賊数人の中心に立ち、姿勢を低く構え、攻撃しようとした時!
「ストップ!」
叫び声とともに人影があらわれた。
(勇気あるな)顔を上げると意外なことに商人が私を止めている。
話を聞くと、さっきから私がつかまえた賊たちは、例の『食料など必要物資』をいただく別動隊であり、本隊……その証拠に大半は運搬要員のため木箱をひっかけるため手首にかぎ爪刃を付けているが、これといった武器は持っていない。
「ごめんなさい。おけがはありま、すよね……ごめんなさい」
早とちりとはいえ、しでかした事にする私を、賊がなだめる。
「いやいや。お嬢ちゃんが謝る必要なんてないよ……『生きる為』とは言え悪事をはたらいてるのは、俺達なんだからな、ははは」
「ということで、今月分の食料、頂に来ました」
調子のいい賊に、商人がつっこむ
「おいおい。分かってんなら働け……もちろん悪事以外をな」
「しかしお嬢ちゃん。見ない顔だし若いね、新人かい、名前は?」
「はい、暗木千世です」
「もしかして、現世さんの? ……どおりで強いわけだ」
…………などと談笑しているところへ、イツキが両肩に一人ずつ、賊を土産のように担いでは、今までのやり取りを見てたのか聞いていたのか、笑いながら歩いてきた。
「ははは……なかなかやるじゃねえか」
と私がロープで縛り無力化させ……茂みでのたうつ賊の体を調べ
「派手にあざは付けてるけど……よし、さほど出血はさせていないな……でだ……ミドルニア炭鉱で働きたいやつ以外は、ロープを解いてやれ」
「はい」
ロープを解かれたり、けがの治療をしてもらった賊達は、手首足首の柔軟、伸びをしたりとリラックスムード。果ては商人と笑い合ってる者まで……と、イツキが頭を掻きながら声を上げる。
「ああ! 用が済んだなら、とっとと荷物持って消えろ!」
「へ、へいさん」
「その呼び方やめろ!」
「しかし……でしたら一度、俺達のあじとに」
「以前行った時に、あれほどはっきり、あのに言ってやっただろ『兄貴(家族)とは認めない』って」
「いやいや、頭の首にナイフで切り傷入れて……あれじゃ、ただの脅しですぜ!」
「ああ言えばこう言う……まけたよ、また気が向いた、いや、奇跡でも起こったらまたお前らのアジトに行ってやるよ」
『しっし』と手で追いやる
そして、就職希望の賊を警備隊の馬車に乗せ終え……一息ついていると。
「千世、傷の手当てしてやるいから、そこの川までて来い」
「はい、ありがとうございます」
とついて行ったものの……少し離れたもの影まで来て……川で二人顔を洗っていると、イツキが真剣な顔で質問する
「仕事が始まる前向こう(エトセトラ)の男が言ってた娘……知り合いか?」
「あ、その」
はっきりしない返事にイツキは、ふにおちない表情を見せる
「ここなら人が居ないし、鳥の鳴き声と沢の音で声も消える……現世じいさんと、静江さんの関係からして想像は付くが、お前の口からききたい正直に答えろ……狂子って誰で……お前にとって何だ?」
「はい……彼女は、元の世界で唯一の親友です」
『予想的中』し自慢気に鼻で笑うイツキ
「ふ。だろうな……だったらさっきの、あの態度はなんだ⁈」
「彼女にとって……私は守られる存在……弱い女の子でなければだめなんです」
「彼女にとってだ? それはお前が決める事か?」
「……いえ……私の勝手な願望です」
「自分を偽って……親友とか……狂子がふびんだな」
「…………」
「ふっ、まぁいいさ……お前に話を合わせてやる……が、そんな嘘、こっち世界じゃすぐばれるだろうし……その時、どうなるかは誰にも分からんし、親友関係が壊れようが、それはお前の自業自得(せいぜい高みの見物させてもらうよ)」
「…………」
「だんまりか……ならよく聞け、この世界では、あたしや、べリハ……仲間達はあざむくな……時と場合によっちゃ、あたいはちゅうちょ無く、お前を殺す……分かったか」
感情もなく、ただ当たり前のように言うイツキの声と、どこか殺気を帯びた冷たい視線に、呼吸をととのえはっきりと答える。
「はい」
「よし…………なんか、しんみりさせちまったな、戻るぞ」
傷口に薬をぬるなど、簡単なてあてを終えた私達は、馬車の並ぶそばに戻り『エトセトラ』の男達と話す。
活動報告書や、荷物伝票などにサインをしながら
「おっちゃん、バキアからの支給品のあまり(荷物)はどうする」
「タスキはまた使うだろから。俺達がもって帰るとして……問題は」
男が向ける視線の先に『うんうん』と目を輝かせうなずくイツキ。そのこんたんが分かったのか、男は笑いをこらえながら言葉をつづける
「酒は腐らないから良しとして……問題は食量だ……半分に山分けでどうだ」
「酒はべつとして、そんなに食えねえよ……第一、報酬はバキアの商業組合から貰うからな……酒は半々で、食料はあたいと千世の二人、一日分で良いよ」
「それじゃ、割に合わないだろう」
「こんな仕事、朝飯いや、夕飯前ってもんよ……その代わり、後の事はお任せするよ……それじゃ又、機会が有ればよろしく……で、山分けの酒、選ばせろ」
「ははっ。ああ」
ガチャガチャ音を立て、夢中で酒をあさるイツキの背中に……私は(今だ!)とばかり声をかける。
「あ、猫耳は帰る時に返却すべきですよね」
「帰る時に返すだって。そんなの無理に決まってんだろ」
「どうして?」
「このまま川を下って、イージス王国から空飛んで帰るんだからな」
「……」(流石は異世界)と言葉をなくすが(あのボートなら川を上っていけるのでは?)と言いかける私をイツキがにらみ
「それに、似合ってるから貰っとけよ」
「おじさんも、そう思うぞ」
「……はい」
(味方なし)
かんねんした私は、せめて落とさないように猫耳としっぽを付け直した。
「て、イージス王国に来るなら、うち(エトセトラ)にも寄ってかないか? 狂子ちゃん。静江さんの娘、会ってみたいだろ」
びくりとする私に目をやったイツキは、ため息交じりにかえす
「いや。きょうみ有るけど、も有るからな……また今度ってことで……千世、木箱運ぶの手伝え。帰るぞ」
「はい」
「そんじゃまた、人手が欲しい時は遠慮なくいってくれ……おつかれさま」
「お疲れ様です」
肩に木箱を担ぎ上げたイツキは手を振り、私は頭を下げ、その場を後にする。
「お疲れ様……ああこちらこそ、又たのむよ」
これにて、私の初任務は完了した。
そして、少し離れた茂みに隠れ『エトセトラ』の様子をうかがったイツキが……ニヤリと笑っては後ろを指さし指示を出す。
「あいつら帰り支度で大忙しだ……これなら(見つかる心配はないから)『アストラル・エンジン』ぜんかいで帰れそうだ……ボート出すぞ、枝葉をどけろ」
ボートを引き出し、川に浮かべ、木箱と一緒に乗り込み……『アストラル・エンジン』をぜんかいに、ボートは水しぶきを上げ川を上っていく。
「え⁈」(このまま川を下るんじゃ)
思わず声をもらす私に
「不満か? 言っただろ『が有る』って」
「はい」あからさまに落ち込んでしまった
「ううんそれに第一。帰りが遅いとベリハ(あいつ)がすねる(面倒くさい)だろ」
「はい」(たしかに)
「ちにかくだ。初任務ご苦労さん……疲れただろ、眠ていいぞ」
「……はい、何だか緊張が一気に解けて」
「ああ、寝てろ……あたいもオヤカタに通信済ませたら、一休みする」
私が眠ると同時に……三人称へ視点変更です。
そしてイツキは、腕輪でオヤカタと通信しながら、寝息を立てる千世の髪を撫でながら……報告後、付け足すように要求する。
「すみませんオヤカタ……どうせならこのままイージスに行かせてもらえませんか……………」
あっさり許可をもらったのか、ボートはゆっくりと転進……運河を下り一路、イージス王国へ流れて行った。




