町を出、初任務(その四、作戦会議)(千世)
バキアの関所を出……きんりんの集落を横目にしばらく下ると、運河は木々に囲まれる。
森とは言え街道だけあって、運河に沿った道は広くて平だ
その周囲に茂みは有るものの、腰ほどの高さで……万が一、奇襲に会っても十分に対処出来るだろう。
ミケからの差し入れを食べ終わったイツキは、指を舐めながら
「食ったか。もうすぐで到着だから、さっき積み込んだ荷物を確認しておくか」
と言うなり早速、木箱の『』をみて開けた。
目にした物は……盗賊へ貢物か、酒に食料。
バキアの商業組合からの指示書一枚と、宣伝もまじえてか、今回のスポンサーである各店の書かれたタスキが数十本。
『女性用』と書かれた箱には、何やら獣人の耳を模した『猫耳カチューシャ』なる代物と『イツキへ』と書かれたメモが、開くと……
『着けた姿を記憶水晶に映し、我に転送せよ、報酬増額、検討する……ジュラ』
手を震わせ、メモを指さしながら
「あのくそトラ! あたいは仕事をしに来たんだ、罰ゲームを受けに来たんじゃねえんだぞ!」
「でも、報酬増額ですよ……欲しくないんですか」
「欲しい、けどよく見ろ、検討するだ……あいつの事だ……確かに検討したが、これでは増額は出来んな、などと鼻で笑うに決まってる」
「ひどい人、トラさんですね」
「ははは、まったくだ……お、思いついた。せっかくだから、お前が付けてみたらどうだ……もしかしたら盗賊が油断して、簡単に捕縛できるかもな、ははは」
『確かに、一理あるかもしれまへんな』一言割り込む、さんだゆう
「そんな事ないと思います!」
「ものは試しだ」
「や、や、嫌です!」
揺れるボートで絡み合う女二人。
恥ずかしさで必死に抵抗したところで、カチューシャを手に覆いかぶさって来る、イツキの体格と体力に勝てる訳はなく『猫耳カチューシャ』装着。
おまけに『猫しっぽ』も……。
「いや千世、似合ってるし可愛い……よし今映してやるから、動くなよ」
押し倒されあおむけの私は、ボートの狭さも相まって……子猫が降参するポーズにも見える、恥ずかしそうに上目遣いの表情が一層、可愛さを引き立てる
そして、満足げな表情のイツキ
「記念だ……お前の記憶水晶にも転送してやるよ……ついでに今後の為にも、あたしと通信できるようにもしておいてやる」
そう言うなりイツキは、腕輪の水晶を私の小手の水晶にくつけ……光った。
「これでよし」
「ありがとうございます……けれど使い方は、どうすれば」
「そんなの簡単だ、水晶に向かって、イツキ(あたい)に繋げ、とか言ったり意識するだけ。で似たやり方で『時の記憶』と言えば、さっき映したその格好とかいろいろ、頭や空中に浮かんで見えたりする……着くまで、少し時間あるから慣れるためだ。あたいをそれで呼んでみな」
「はい」
うなづく私に、ボートの後ろへ距離をとるイツキ……目を閉じる。
(さんだゆうさん)
『なんや、なにするか聞いてたけど、言ってみ』
(イツキさんを呼んで)
『おう……』
と元の世界でお馴染みの呼び出し音がなり……。
『お、一発で出来るとは流石だな。って右前。見えてきたから切るぞ』
彼女の言うとおり、目をこらすと向こうに小さく……数台の馬車と、それを引いていたであろう馬が川の水を飲んでいる光景が見える。
「ここだな……けどこのボート、もう少し下った茂みに隠すぞ」
「はい」
馬車の屋根が見えなくなったところで、ちょうどいい物陰を見つけた私達は、ボートを陸にあげ、川岸に漂着した流木などをかぶせ隠した。
「でも、なで隠すのですか?」
「こんなアストラルで動く、奇妙なボートを、元アサシン集団が使ってんだ……後は言わなくても分かるよな」
「……はい」
「とりあえず、今回の仕事仲間に挨拶しに行くぞ、タスキが入ってる木箱を持ってこい」
「えっ、このままですか?」
「なんだ……お前は一つで、残りはあたいが持ってるんだ、何か文句でもあるのか⁈」
「耳としっぽです……恥ずかしいです」
「ああそれか……似合ってるから問題なし……行くぞ!」
私の意見なんて聞く気無しとばかり、歩いていく
並ぶ馬車のそばで、人々がテーブル上の地図を囲み、段取りを決めているのだろう指さしながら話をしている。
……とそこにイツキが、隊長であろう腕章をつけた年輩の男に話しかける。
「お久しぶりです『エトセトラ』さん、今回もよろしくお願いします!」
(猫耳つけてる私以上の、思わず笑いたくなるほど見事な猫かぶり)
笑みを浮かべ挨拶するイツキの声に、皆が手を止め、視線を向け挨拶を返す
「「久しぶり」」
「おやイツキさん、今回は一人だけかい?」
と、あっさり猫かぶりが解ける。
「いや新人を連れて来たんだけど……って千世、出てきて挨拶しろ」
馬車の影に向け、小石をけ飛ばす
「はいその、はじめまして……暗木千世です……よろしくお願いします」
「緊張してんのか、ういういしくて可愛いな……でも猫耳にしっぽって」
にやりを笑い視線を向ける男に、顔赤く早口で反論するイツキ。
「勘違いすんな! これはジュラの悪戯で、あたいの趣味じゃない!」
「ははは、そうかい……でも暗木って」
「そう、現世じいさんの……家族だ……つまり異世界の人間だ」
「現世さんの、なら心強いや」
「ああ即戦力だ、ならならあたいが保証するよ」
「おお……しかし奇遇だな、まだ経験不足で連れてこれないけど、うちにも、その娘(千世)と同い年くらいの女の子が、異世界から来てるんだ」
「ほう……経験不足ね」
『勝った』とかるく鼻で笑うイツキに、男はニヤリと笑い言い返す
「経験不足だけど、聞いて驚くな……あの静江さんの娘で、たしか名前は『鬼道狂子』だったか」
その言葉に私は(いつかは会える)と思っていたけど(ライバルになるの?)驚き、思わず後ずさりし……入れ替わるようにイツキが前に出た。
「え、うそ、静江さんの⁈ 何であたいの所へ来なかっ……あ……だからあいつ(ビギナ)デバイスで何回よんでも、出くさらないわけだ……ふふふそうか」
よほど頭にきたのか、変わりゆく表情と空気に、周囲の皆が後ずさる。
「まあ、おてやわらかにな」
「何のこと? それよりその子の『時の記憶』とか有る」
催促するように腕輪を近付ける
「そんなハイカラな機能付けてねえよ、こんなもん、通信と地図さえあれば十分だろ……そんな付ける金が有ったら、晩酌に酒のつまみ付ける方がましってもんだ」
「ははは残念、けどおっちゃんらしいわ」
などと楽しく談笑をしたところで、イツキが言葉をきりだした。
「で、さっき作戦会議してたみたいだけど、もう今回の作戦は決まってんの?」
「いや……街道の上流(西)と下流(東)に別れて、ビラ配りと一時封鎖をするまでで、まだ決まってないよ」
首を振る男の言葉を聞いて満足げに笑みを浮かべるイツキ
「ふ……あたいの予想だと、いつもどおりは川を嫌って北から来るだろうから、あたいが先行して、大半以上つかまえてやる」
「イツキさん、私は何をすれば良いでしょうか?」
「そうさね……あたいがとり逃がしたぶんを、ここで、おっちゃん達と一緒につかまえてもらう……出来るね?」
「はい……とにかく皆さんを守れば良いんですね」
「ああ、覚えてると思うけど、盗賊をあまり痛めつけない様に……それと、あたいとの通信は繋いでおけ」
「はい、ところでつかまえた達はどうなるんですか?」
「簡単だけど説明してやるよ。逃げない程度に縄をかけて、バキア警備隊の馬車に乗せるだけ、はいおしまい……ま、あいつらも心の中じゃ、逆に捕まって、真っ当な人生送りたがってるかもな」
「ははは、ちがいない」
そして、盗賊に渡す食料の入った木箱や、テーブルなど荷物を馬車へかたずけ、すっきりとした広場を見渡し、イツキが口を開く。
「それじゃ、あたいは持ち場(北のひらけた場所)につくから、千世はそこの高い木に登って、盗賊が来たら(方向など)教えてくれ」
「はいその後は、おじさんたちと一緒に逃げてきた盗賊をつかまえます」
「頼んだぞ」
「はい」
「それじゃ、皆、いっちょ頑張ろうか!」
「「おお!」」
返事にうなずき、森の中に消えるいつきの背を見送った私は、おじさんたちに一礼して木に登る。




