町を出、初任務(その三、砂漠のバザール『バキア』)(千世)
「見えたぞ……あそこが中立国バキアだ」
イツキが指をさす先に視線を向けると……砂漠独特な砂まじりの風を防ぐためだろう、高い城壁がそびえている。
「大きい」思わず息をのむ。
「おい千世、もうすぐ関所だ。すんなり通りたかったら川の水で、その砂まみれの顔、洗っとけよ」
「はい」
左右に分かれ顔を洗いしばらく進むと……『速度を落として止まれ』声を上げる男が、関所であろう水門を指をさす。
「千世(怪しまれないために)手で後ろ向いてこげ」
イツキが木箱に手をのせ耳元でささやき……ボートは速度を落とし……
関所にさしかかると、水中からロープが現れると、イツキがあごで男をさす
「ロープをつかんで、ボートを寄せろ」
「はい」
「ようこそバキアへ。入国の目的は」
「そちらバキアの商業組合から、同国警備隊を通じてきた依頼で、この国で補給したらそのまま通過する……これが依頼書だ」
「拝見します……確かに本物だ……て。イツキさん、あんた中顔パスで大丈夫さ」「おいおい」
「ははは……これも仕事だから毎回かたちがわりに止まってもらってんだけどな……で、帰りはそこの新人の腕試しにオール漕がせて帰るのか?」
「え⁈」驚く私に、笑うイツキ。
「そんな面倒な事しないよ……そのままイージス王国まで下って、気球で帰るさ」
そんなこんなで、無事関所を……城壁を通過したと同時に私達は、とびかう賑やかな声に包まれる。
「ようこそ中立国バキアへ……どうだい、賑やかだろう」
よほどこの雰囲気が好きなのか、上機嫌に両手を広げるイツキにさそわれ
見回すと……
運河をはさんで、ビルの様にほぼ垂直にきりたった岩石……と、それをくり抜いた店舗が並び……人間・獣人・亜人、と多くの人々が行き交っている。
そうここは……
「はい、まるで『砂漠のバザール』みたいですね」
「みたいじゃなく、バザールだよ……ここは大昔、ミドルニア火山の大噴火で隆起した岩山の群生地に、わき水から発展した、商業都市で……いろんなものが手に入る……で……確かこのあたりで荷物を受け取るはず」
一緒に周囲を見渡していると……。
「ニャー!」
かん高い声に視線をやると……橋の下でこちらに手を振りながら飛び跳ねる人影を見つけた。
「あの人がそうですか?」
「多分そうだろう、って」
「こっちだニャー」
その甲高く甘い声の主は、尖った耳と長い尻尾をはやした少女、ぞくに『獣人』『ケットシー』と呼ばれる種族で……なんともメイド服がよく似合っている。
(みけねこ?)
「げ、ジュラん所の、ミケ」
一瞬、嫌な表情を浮かべるイツキ。
ボートを岸に寄せロープで繋留させる。
「久しぶり~、ツキニャン」
(『ツキニャン』て)思わず吹き出しそうになる。
「毎回、気が抜けちまうからそのあだ名やめてくれないか」
頭を掻き文句を言うイツキをよそに『あニャ?』と、ミケは顔をすりよせる様に私のにおいをかいでいる。
「ねえねえツキニャン、この子って、新入りさんかニャ? でもこの臭い」
「はじめまして暗木千世です」
「クニャキ? どこかで聞いたようニャ」
「現世さんの、むすめだよ」
「ミュシャー」
よほどひどい事をされたのか、後ろに飛んでは胸を隠し身構えるミケへ反射的に謝る。
「ごめんなさい」
「安心しろ千世は女だ……それよりもだ」
あらためて文句を言おうとするイツキの前を素通りした、ミケ
「千世ニャン、あたしはミケ……路地裏のメイド喫茶アビスで、メイドをしてるニャ……今回はあたし達のお願いを聞いてくれてありがとニャ……これ補充物資だニャ」
ミケは、数個の木箱を指さし……ようやく。
「て、ツキニャン、さっきからニャニひとりで怒ってるニャ?」
「ああ、だから毎回、気が抜けちまうからそのあだ名やめてくれないかな……ジュラはちゃんと『イツキ』て呼んでくれる。だからせめて千世と同じで、あたいも『イツキニャン』て呼んでくれないか……さんはい!」
「ニャニャキニャン!」
「ひどくなってんじゃねか! もういいよ『ツキニャン』で……それはそうと積み込むぞ、手伝え」
「はい」
三人で積み込み作業を始め……すれ違うたび動く耳と、自由に揺れ動き私の腕をなでる柔らかいしっぽが気になり、伸びてしまう。
積み終え『確認伝票』にサインしている。
(ここは思い切って、きいてみよう)
「ミケさん、その、耳としっぽ触っていいですか?」
「勿論いいニャ……ついでに耳の後ろかいてほしいニャ」
「はい」
その言葉に遠慮なく、耳をつまむように数回撫で、後ろをかく。
「くすぐったいニャン、千世ニャンは、あたしみたいニャ異種族の体に触れるのは初めてかニャー?」
「はい」
「ニャハハ。なんか嬉しいニャ……あ、忘れるとこだったニャ。これは『うち(メイド喫茶アビス)』からの差し入れ、行きながら食べるといいニャ」
「ありがとうございます」
「お、気が利くね、ありがとよ」
イツキの顔を覗き込むように見て、ため息を漏らすミケ
「しかしツキニャンも大変だよニャ……毎回退治してる盗賊の頭って兄貴ニャンでしょ?」
「は! そんなの、ジュラと、あの男(頭)が勝手に言ってるだけで、知らないよ……あたいは捨て子で、あのギルドの仲間が家族で、兄弟さ」
「けど左右違う目の色と……『クンクン』匂いが似てるんだよニャ」
いつきのわきや髪に顔を近付け、においをかぐミケ
「てミケ、気持ち悪いことしてんじゃねえ! くだらない事言ってると時間が勿体無い、積み込みも終わったんだから行かせてもらう」
「うう、仕方ないニャ……またお店に来てほしいニャ」
「おう、そのうち行かせてもらうよ」
そして手を振りあいながら再び、目的地の街道へとボートを走らせた。
バキア反対側(イージス王国側)の関所をぬけ……人目が少なくなったのを確認して、アストラル・ボートのエンジンを始動……『会話でそんした時間を取り戻さん』と一気に加速。




