町を散策(後編)(狂子)
ざわめく訓練場を後にした。
扉に手を掛けるあたしの肩に、ビギナが手をのせる。
「なに?」
(なぜ怯る? あ……さっき平手一発で男をのしたからか)
「すみません狂子さん。この後町に行きますが、その前に、体についた砂と汗ながしませんか? 厨房の上にある蒸し風呂にでも入って下さい」
『ほらそこ』というふうに、湯気と煙が出てる二階を指さす。
「えっそれってサウナ⁈ そんなの有るの」
「サウナ。狂子さんの世界ではそう言うんですか? 厨房のかまなどから出た熱を利用したもの……なので、食べ物(その時のメニュー)の匂いがつくのが玉にキズですので……パンがメインの朝がおすすめです……その間に、倉庫から何着か着替えを出しておきます……おわったら厨房の食事スペースで待っています」
「ありがとう……それじゃあ」
とあたしは一直線に蒸し風呂へと向かう。
と……どうやらサウナは男女兼用のようで、入り口扉に『男利用中・女利用中』と看板をつるし、ラッキースケベ防止をしているようだ。
(ということは、ビギナのやつ「着替えを持ってきた」と『女利用中』と書かれた扉を開けるのか……よし、後で殴ってやろう)
だが実際、着替えを持ってきたのは「ビギナに渡されてさ」と、サラ料理長がもってきた。
そして……サウナから出たあたしは、ビギナの用意した、帯でウエスト等を調整する白いワンピースを着て、厨房の食事スペースに向かう……と椅子に座り、サンドイッチをほおばっているビギナと目が合う。
「すみません、うっかり忘れてました」
駆け寄り頭を下げるビギナに、あたしは苦笑いしながら
「着替えの事? 大げさだな。すぎた事だから怒ってないよ。ははは」
(でも忘れてたって?)
「よかった……(訓練場の強さを見て)いえつい狂子さんが女の子であることを忘れて……」
「は⁈」
空気(あたしの怒り)をよんだのか
「よく似合ってますよ。これ朝食です!」
……とたてつづけに誉め言葉と。サンドイッチの入ったバスケットとコーヒーを渡してきた。
「あ、ありがとう」
数分で食べ終わり、空になったバスケット等を厨房に返すついで、カウンターごしに、サラ料理長へ「「行ってきます」」と言うなり……ギルド正面玄関から出た。
さすがに早朝『出勤風景』といったところだろうか、道具箱や、とにかく荷物を持った人々がいそいそと歩いている。
「今日は運河に沿った商店街を上流に向けて案内するよ」
と丘の上にそびえる城を背に、通りを指さす。
「うん、お任せします」
商店街に到着。
右側……そばを流れる運河では、手漕ぎボートが行きかい……向こうの桟橋に停泊している大きな船では、男達が荷物の積み下ろし作業をしている。
そして、にぎやかな左側……八百屋、食堂、服屋や、雑貨屋あらゆる店が並び……『ファーストフード』のような食べ物を売る露店もみえる。
(店のつくりや雰囲気も、あたしの居る世界(元の世界)と似てるから、すぐになれそうでよかった)
と安心したのもつかの間、あたしの目はくぎ付けになった。
一度目が行くと離せない『いかにも。怪しい店』を体現した店……あたしは指さしてビギナにたずねた。
「ね、ねえビギナ、あののぼりだらけの店って何?」
腕輪や、ペンダントの絵が描かれているから、宝石専門店か、何かだろう。
「あそこは『アストラル・デバイス』専門店『アス・デバ工房』で、僕も給料日には必ず行ってる、良い店だよ……ちゃんと看板に書いて……あれ? もしかして字が読めないんですか」
(あ、確かに書いてる)
「読めるけど……あの見た目に圧倒されただけ」
むきになるあたしに、笑いながら謝るビギナ。
「はは。ごめんごめん……初心者の一般人。いや異世界人だもんね」
「ビギナ笑いすぎ……でこの店って、デバイスのどんなことが出来るの?」
「それはですね」
小手を見ながら質問するあたしへ、ビギナが得意気に胸をはり(小手を)指さしながら
「ここのブレードや、水晶……他にもいろんなパーツを交換、増設したりして、性能を上げたり、見た目を変えたり出来るんだ」
「へぇ~。良いな」(あたしも給料だ出たら、買ってみようかな)
「それでもほら……かなり高いから、もっぱら僕は、そこに有る中古パーツをあさっているんだけどね」
などと店に並ぶ水晶や、装飾の刻まれたプレートを見ていると……ナビが、焦ったような声を上げ強引にアクセスしてきた。
『わが主、もう私に飽きたのですか! あろうことか、そのようなまがい物に手を出すなんて!』
「痛、って、ただ見てるだけじゃない……それに、まがい物って」
『はいそこに並ぶのは、私ともう一台とはちがう、質の悪いコピー品……自我も、特定の主ももたず、ただ装着者に無言で従うのみのいわば脳無しどもです』
(焦るあまり言葉がきつくなるナビ)
「特定の主をもたないのは、セキュリティー面でどうかと思うけど……無言で従ってくれるなんて、便利そう」
『失敬な、不便です……失礼、しかし、私を外さず、小手の水晶やプレートを変えるのは、性能をあげられるので、良い選択だと賛成します……それでは私は、これにて』
ナビとの会話を終え一呼吸……ふと視線を感じ横を向くと、心配そうにあたしを見るビギナが
「大丈夫ですか、狂子さん?」
「なにいきなり、気持ち悪いな」
「いえその『痛い』と頭おおさえたとたん、急に独り言をしゃべり出したので」
「ああ」(気持ち悪いのは、あたしの方か)
「心配かけてごめん……実はあたしのデバイス『ナビ』っていうんだけど、自我をもてって時々、頭の中へ話しかけてくるの」
「自我をもったデバイスなんてすごいです! あ、そういえば静江さんも、同じことを言ってました……うらやましいです」
「そうかな? で『ナビ』もアップブレードするならこの店が良いって」
「よかった……じゃあ、説明していきますね」
とビギナは、身振り手振りしながら説明していく
「なるほど」
どことなく理解は出来るけど……『庶民の性』か、最初に値段へ目が行ってしまう。
「ううん中古と新品でじゃあ数字が一桁以上違うけど……中古でも高い……しかもスペック表示が意味不明」
「興味がわけば、詳しく説明します……良ければ、次に行きませんか」
「うん」
そして川下に向かってしばらく歩いていると……『丸に曲線が三本』馴染みのデザインが書かれた、大きな煙突をはやした平屋建てが見えてきた。
「ここって、もしかして銭湯」
「せんとう? て、公衆浴場の事ですか?」
「公衆ってことは、もしかして混浴⁈」
「はい、数年前まではそうでしたが、ある旅人の助言から、男女各日の入れ替わりとなり……」
残念そうにため息をもらすビギナ
「残念そうね」
「はい……て、あいや」
あわてて口をおさえるビギナに、今後はあたしがため息をもらす。
「そんなに女の裸が見たいの?」
「え、いや、あの」
視線をそらし、はっきり答えないビギナに詰め寄る
「どうなの、見たいの」
「うう……そりゃあ僕だって男だからみたい。ってなに言わせるんですか⁈」
「ははは。まあいいけどさ」
歩いていると……不意に鼻と腹を刺激する、スパイシーな香辛料の匂いに、あたしの足が止まる。
「なにこれ……良い匂い」
目をやると、肉の串刺しをやく一軒の出店が
(『あれはきっと美味しいやつ』とささやくのよ、あたしの腹の虫が……とにかく食べたい!)
こんな事もあろうかと、ママには内緒で持ってきた財布の小銭を取り出し
「ビギナこれ、日本のいや、あたしの世界のお金って使えるかな?」
「なに言ってるんですか? それ僕達の世界のお金ですよ」
「え」
驚いて見ると、なるほど確かに貨幣の、ついでに紙幣のデザインも変わっている。
(どういう事⁈)と、あたしの疑問にナビが反応する。
『お答えしましょう、それは異世界店にの際に『一円は、一ルド』と変化したのです……これも『ご都合機能』のなせるわざです』
(確かに便利。ありがとう)
「しかしそれでは足りません……今回は……給料が出るまで僕が出しますから、少し早いですが、そこの屋台で昼食にしましょう」
「ありがとう」
そしてあたし達は、香りをたどるように屋台の前へ。
「ラムの串焼、六本お願いします」
「かしこまりました、あちらのテーブルでお待ちください」
「この店『くちなし亭』は、バキアに本店を構え、ここイージス王国と、友好国ミドルニア王国に、一店舗ずつ出店しています」
ビギナが少し得意げに説明していると「おまたせしました」串焼きが運ばれて……その匂いに辛抱たまらずあたしは『いただきます』も言わずがかぶりついた。
外はパリッと軽く焦げ、弾力のある中からジワリと肉汁に、後に残る辛味と鼻を抜ける香辛料の匂い。
(たまらない)
「ああ、コーラが欲しくなるけど、この世界には無いんだろうな」
「コーラなら有りますけど」
「え、有るの⁈ 泡の出る焦げ茶色の」
「はい名前は少し違いますが『コラペリ』の事ですよね……これも先の旅人が持って来るのですが……とても高く……僕達庶民にはとうてい入れない高級クラブでしか味わえません」
(それって、あたしや、千世ちゃん以外に、異世界と行き来してる人が居るって事……いつか会ってみたい)
満腹、満足感の余韻に浸りながら、店を後にし……腹ごなし代わりにしばらく上流へと向かい……ギルドを横切り……さらに一時間ほど歩いていくたび、徐々に店や民家は少なり……代りに馬屋やら、倉庫が見え、運河の立派な岩のとっていには、帆の無い運搬船が泊まっている。
(こんな大きな船、写真でしか見た事ない……乗ってみたいな)
と運搬船に目を奪われていると、ビギナが肩を叩く
「なに?」
「あそこを見てください」
ビギナの指さす先には、立派な城壁と、おりの様に閉まる水門が。
「大きな水門だけど、錆びてるんじゃ」
そう、ここからでも見て分かるほど水門はボロボロで、あちこちくち落ちている……例え閉めたとしたって、役立ちそうにない。
「はい錆びています……ですがそれこそ、平和と国交の証だと僕は誇りに思っています」
その言葉に感心していると……再びビギナが肩を叩くと、あたしの目を奪った運搬船を指さす。
「運搬船を見て下さい……始まりますよ!」
ビギナが目を輝かせていると……船尾で船員が警鐘を鳴らす。
それを合図に渡り板が外され、係留もとかれ……船は川の流れに押されるようゆっくりと動き出し……目で追ってるとさっきの船員が松明を手に、船の中央に並べられた、大きな箱の一つに火をつけた
(気でも狂ったのか)
驚いてると、大勢の船員が横一列に、運搬船を覆えるほどの大きな布の塊を持って来るなり、それを広げだした。
(火に大きな布、もしかして)
あたしの予想は的中!
……布は火の熱で膨らみ始めると、先の船員が他の箱にも火をつけていき……布は一気に膨らみ、そして
運搬船を宙に浮かし……高度を上げていく。
「飛行船」(すごい大きい、迫力)
ため息まじりでつぶやき、うっとり眺めているあたし……
「いえ残念ながら違います」
と邪魔するビギナをにらむ
「え⁈ うそ」
「ごめんなさい……言いたい気持ちは分かります。ですがあれには動力が無く、海からの風と、川上の火山の上昇気流気流にのって移動するだけなので……気球です……それにもう飛行船は、この世界にはありません」
「無いのになぜ『飛行船』なんて名前と仕組み知ってるの⁈」
「いえ、戦争してた大昔は有ったんです……あの時代はみんなデバイスなしで『アストラルワークス』を当たり前に使いこなし……『アストラルエンジン』という動力を使って。川の流れに逆らい上がって行けるボートまでありました」
(そういえば……お爺ちゃんも『ナビ(これ)』のこと、魔法の使えない『マジックアイテム』だっていってたっけ)
「うう~~」
返す言葉をなくし、うなるあたしに
「……そろそろ戻りましょう」
「うん、でももうちょっと。気球が小さくなるまで」
そして案内も終わり、日がかたむいた頃……。
ギルドに戻ると、厨房では夕食の準備もほとんど終わり、旨そうな匂いがロビー全体をつつんでいた。
経験からか、洗い場にたまる皿が脳裏に浮かんだのだろう。
『ただいま』より先に
「洗わなきゃ」
つぶやくなりビギナは、すぐさま厨房に駆け出し……あたしも彼に続いて歩き出した。(夕食が始まったばかりで皿は少なかった)
そして、ボールなど調理器具を洗っているビギナを背に、並ぶ皿へ最後の盛り付けを行っているあたしの肩をサラが『ポン』とたたく。
「おかえり、御両人。デートは楽しかったかい?」
などと茶化してくるサラに、ビギナは聞こえないふりで洗い物をする
「デートだなんてもんじゃありませんけど、ラムの串焼きおごってもらいました」
その言葉にサラは、笑みを浮かべるとビギナの頭を撫でまわす
「引っ込み思案のくせに、やるね(ちゃんと男の子してるね)、ははは」
そして、にぎやかな夕食風景をよそに、出すたびすぐ空になって戻ってくる皿の大群を洗い終え……。
今日も静かな厨房のテーブルで食事をとり……その皿も洗った。
(もう一生分の皿を洗った気分だ……『皿洗いスキル』なんて項目があったら……)
なんてあたしは苦笑いしながら自室のドアを開ける。
「洗わなきゃ」
けしてビギナの真似なんかじゃなくて……ただ忘れてたのだ。
私を出迎えたもの言わぬあいて、それは、今朝の模擬戦で砂だらけのまま机上に放置したジャージだ。
ため息一つ、あたしは訓練場の隅にある井戸で一人、月明かりの中洗い……
『やりとげた』と心地よい疲労感に、ベッドで寝そべり伸びを……ふと気づく。
「あ」
(今日も元の世界に戻るチャンスを逃した……それ以前に……戻る方法ってどうするんだろう)
と悩んでいても……まぶたが重くなり
(は! 寝ちゃだめだ、そう……もどりゅ方法を、考えみゃきゅ……)
と、異世界に来てもあたしは寝落ちしてしまった。
……そして日付が変わり……場面(場所)も変わる。




