ギルド入隊・新人の一日(中編)(狂子)
(まずはギルドに入ろう……とくればギルドマスターに会わなきゃね)
立ち上がったあたしは、一呼吸して部屋を出る。
声と美味しそうな匂いがする方へ、木の廊下を進むと……食堂けん、ロビーに出た。
(ゲームや映画などでしか見た事のない景色が、今、あたしの目の前に)
驚き興奮をとおりこえ、唖然とするあたし同様に……目の前の彼らも、初めて見たであろうジャージ姿の少女に一瞬唖然とする。
「かわった服着てるね、お嬢ちゃん……どこから来たのかな?」
「ギルド『エトセトラ』に何の用だい?」
その質問にあたしは我にかえり、とにかく近くのおじさんにつめより、質問を質問で返す。
「ねぇ、おじさん! ギルドマスターさんて、何処に居るか知ってる?」
「マスター。あ、スターさんだったら、この時間は階段を上がった突き当りの、私室でもある執務室にいるはずだよ」
「ありがとう……あっそれと、あたしの名前は鬼道狂子。異世界から来たの。って分かるかけないか」
「え⁈」
走り去るあたしに驚くおじさん。
(ま、無理ないか)
教えてもらった扉の前
(ここか……よし)息をはき、扉を開けると……
応接間の様な重厚感のある木の部屋。
正面奥にある石造りの暖炉のそばで、使い込まれた革の鎧を着た初老の男が、大きな木の椅子に座り、その立派なあごひげをなでながら何やら思案しているようだが、気配を感じたのか、手を止め、あたしを見る。
「おや、お嬢ちゃんは誰で……(受付も通さずいきなり)こんな所に何の用だい?」
視線が合った瞬間(なぜだろう。視線を外せない)
「はじめまして。鬼道狂子です」
「ほう、鬼道」
ギラリと目を光らせ、ほくそ笑む男に、思わず後ずさってしまった。
「はい……その、ギルドマスター、さんですか?」
「うむいかにも、わしが『ギルド・エトセトラ』を仕切る。ゲイル・スターじゃ……てははは、そんなに身構えんで……ドアを閉めてこっちに来なさい」
「はい」
「あらためて、何の用じゃ」
「はい……あたしをギルドのメンバーに入れてください!」
「威勢が良いの、来るものは拒まんが、お嬢ちゃんはまだ若い……だから最初はここの皿洗いや掃除からしてもらうが、お嬢ちゃんみたいな子供には、ちときついかも知れんが、構わんか?」
「体なら毎日鍛えてるから、任せて」
「ほほぅ、頼もしい返事だ……良し、入るのを認めよう、奉仕のギルド『エトセトラ』へようこそ……そういや、お嬢ちゃん、鬼道といったな、もしや静江という女性を知らないか?」
「あたしのママ……お母さんです」
「やはりか、その強い目……そのデバイスのデザイン……という以前に、そのトカゲの様にてかてか光る服やはりか」
「ママ、母さんを、知ってるのですか?」
「ママで良いぞ。知ってるも何も……仲のいい同僚だ、ほれ」
ゲイルが指さす暖炉の上に……ママの肖像画、ならぬ(ゲイルとママの)ツーショット写真が、何ともファンシーな写真たてに収められている。
「あホントだ、って雰囲気が、世界観が」(でもこれがママ、若い何歳の頃だろう)
相変わらずの、ママのセンス(写真たて)に頭を抱えていると、あらたまった口調でゲイルが質問してきた。
「『森に行ってきます』と言ってからしばらく会っていないが……静江さんは元気でいるか?」
「はい! そりゃあもう元気すぎるくらいで……その証拠といっちゃなんだけど、ほら、元気な娘がここに居るでしょ」
腕に力こぶをつくり、にこりと笑うあたしに『こいつは一本取られたな』と笑うゲイル。
「ははは、確かに……人間いや命あるもの元気が一番じゃて」
「ゲイルさん。しばらくって言ってたけど、どのくらい会ってないんですか?」
「ああ……かれこれ五年くらいかな」
(あれ? 誤差なく行き来出来るって聞いたのに、五年て、どういうこと、戻ったら聞いてみよう)
「心配したんじゃ?」
「うむ、多少は心配したが、神出鬼没、自由な女性だからな……とりあえず部屋は、静江さんも使っていた……さっきいた客室を使うと良い(転移して、急に消えたり、現れたりして皆を驚かせない様に)として、本題に入ろうか……
まだ駆け出しの狂子ちゃんには、当分の間は炊事洗濯の手伝い……この町や地理に慣れてもらうため、わしの息子ビギナと一緒に昼の見回りをたのむ」
「はい、頑張ります!」
「いい返事だ、そうと決まれば皆に紹介せねばな、よっこいしょ……ついて来なさい」
ゲイルは、ゆっくりと立ち上がると……壁に掛けている、さやに針金をまき封印している剣を取り、あたしに手招きして部屋を出て……廊下を歩くにつれ……再び、にぎやかな声と美味しそうな匂いが……。
一階ロビーを見下ろせる、二階わたり廊下に立ち……改めて上から見るとよく分かる。
朝っぱらから乾杯をしたり、乱雑に張られた掲示板の前で相談しあう集団、声を上げる受付嬢、何やら気合を入れ飛び出す若者。
……とにかく騒がしく、思った以上に人が居て……そんな事より驚いた事は、ギルドマスター同様、皆防具は着けているのに誰一人として武器を持っていないのだ、ま武器といえばどこでダーツをしている男の矢と、食堂のナイフとフォーク程度だ
(雰囲気あるな)感心して見入るあたし……と……。
息を吸い込み、『ドン!』強く床をさやで打ち、一喝する。
「注目ぅ!」
さっきまでの全てをかき消す漢の声に、静まり返る空間、同時に視線が、一気にゲイルへと注がれる。
「皆! 今日もご苦労! さて、ここに新人を紹介する!」
「鬼道狂子です!よろしくおねがいします!」
ゲイルに負けじと声を上げる、あたしにも一部の視線がきた。
「彼女はあの、ウィップクイーン、静江の娘だ!」
「「うぉー‼」」
よほど有名なのか、拳や武器を振り上げ、母の名を称賛する人々……しかし
「「うおーおぉおぅ?」」
「娘って、男? いや女だよな」
「おい嘘だろ、女の子だって」
「信じられない……しかし静江さんも彼女も異世界の人だからな」
三度目ともなるとなれたもの
(あぁ、気持ちは分からんでもないが、驚くところ、そこ⁈ 全く、もとの世界でも異世界でも……男どもの頭は)
もはや呆れるばかりにあたしは、ため息を漏らす。
「新人かつ、異界のものゆえ、何も知らない、だから皆、気長に教えてやってくれ、静江の娘だ、一部を除けば、必ず大物になるぞ!」
軽い笑いに包まれるロビー(あんたもかい!)
心で叫びながらも、あたしは頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「「よろしく」」
「以上だ! では再び『人々の笑顔のため』奉仕の心で励んでくれ!」
「「はい」」
返事をする部下達にうなずきかえしたゲイルは、回れ右をして「頑張れよ」と、あたしの肩を軽く叩くなり「ははは」満足げに笑いながら部屋に戻って行った。




