ようこそ異世界へ (千世の場合)
稲光に照らされる、かっちゅう、ガーゴイルや魔獣の像が並ぶ、薄暗い広間。
その突き当り、の段上に……ローブにも似た黒いドレスを着た少女が一人……
豪華な装飾を施された椅子『玉座』のアームレストにひじを立て、あごを乗せ、ゆったりと座っている。
何を待っているのだろう……眼前の魔法陣を、見つめ息をはく。
だが穏やかな顔は……しかめっ面となり、舌打ちする等……よほど長い間待っているのだと、容易に読み取れる。
「もう限界だ! あの老人……娘をおくるなどと、よをたばかったか!」
怒りまかせにアームレストを殴ると、落胆のため息をもらし、段上を降り……広間を出ようと扉に手を掛けた時。
魔方陣が光りだした!
『これはいかん』少女は慌てて玉座にもどり……湧き上がる期待を、深呼吸で落ち着かせ……「よし」と余裕のえみを作ると……右手で顔の右半分を隠しては、左手を突き出しポーズをきめた。
(よし来い)
それを見図った様に、魔法陣から煙があがり……中に人影が。
当然少女は興奮するが
(ええい! あのような煙。今すぐ段上から駆け下り、扇で吹き飛ばしてやりたい……がマスターたるよが、そんな見っともない姿見せられん……ここは我慢だ)
と、ひといちばい高い自意識がそれを許さず……プルプルと震えながらも、ポーズをくずさない。
そして煙が消え……異世界転移された千世が姿を現し……瞳を開いたと同時に、視点も彼女に交代する。
私は、まぶたの向こうで光る雷と、その音に目を開ける。
(夜の洋館?)
煙がはれ……初めて見る、独特な雰囲気漂う空間を見回していると……
「まずは、はじめましてだ……よの名はベリハ……ベリハ・ミドルニア・イルネス ……この館の主にして。ひいてはこの国『ミルドニア』の女王である……お前が新しいサーバントか? 一分千秋の思いで待っておったぞ」
大きな声に、正面の段上へ目を向けると一人の女性が……目にゴミでも入ったのか右手で右目をおさえ、私に視線と左手を向けたままたまま動かない。
(サーバント? 私の事かな、だとしたら)
「はい、マスター……お待たせしてすみません」
『マスター』と呼ばれたのがよほどうれしいのか、べリハは軽く身震いをする。
「名は?」
「暗木千世、と申します」
「千世か……現世というものとの関係は?」
「はい、現世は、私の父にあたります」
「うむ、でお前、年は?」(そのデカい胸……あの老人の娘だ、二十、後半であろう)
「今年で、十三歳になります」
「そうか十三か……十三だと! よより五つも年下ではないか! もしやこの胸を見……よを、バカにしておるのではあるまいな!」
微笑は怒りの表情に一変し、声を上げ立ち上がるなり、段上を駆け下りたべリハは……眼前に仁王立ち。
状況が理解できない私は、ただおびえ目を丸くするしかない。
「そんな、私は正直に」
「ええいうるさい! 第一、あのじじいに十三の娘がいるなど、だれが信じるか!」
そう言うなりべリハは右手で、私の首元をわしづかみするなり、ひたいがぶつかるほど顔を近付け、目を見ながら
「……調べてやる」と、笑みを浮かべ、手に念を送り始めた。
「苦しい……助けて」(こわい)
「案ずるな、まだ殺しはせん……ただ、その『アストラル・デバイス』を経由して、お前の記憶を見ているだけだ……さあ、これで嘘は通じぬぞ!」
数秒後……べリハは一瞬驚いたような表情をし……首元をわしづかみにしていた手のをおろした。
(よかった、まともに息が出来る)
呼吸を整え前を見ると、べリハの顔から怒りが消え……目が潤んですら見える。
「すまぬ……よはお前の胸に、いや、この世の無常にしっとし……我を忘れてたとはいえ、怒りまかせに声を上げ、おびえるお前の首元を息が出来ぬほどにぎっては……勝手に、記憶を、過去を覗いてしまうなど……よが間違えておった……すまぬ、許してほしい」
(こんな時どう言えば)深々と頭を下げるべリハの肩に手をのせ。
「……確かに驚きましたが、もう過ぎた事です。私は怒ってませんから、そんなに自分を責めないで……どうか顔を上げて下さい」
そう目の前で目を閉じ、深く頭を下げるべリハの頭をなぜた……つぎの瞬間!
彼女は、膝まづいている私を『ぎゅっ』と抱きしめると、顔にほほを擦り付け、優しく言葉をかけてきた。
「あぁ……悲しきさだめの中を生きる少女よ……新たなるこの世界が、なんじにとって良い世界になることを……よは、心から願うよ」
「ありがとうございます、マスター」
「うむ」
と私の髪をやさしくなで続けるべリハ……なで続ける……三十分後。
(そろそろ良いでしょ……髪をなでられるのは嬉しいけど……さすがにうっとうしい)
私は「マスター」と声を出し両手で彼女を押しのける。
「おおすまない……」
一息ついた私は、あらためて周囲を見渡すと……いつの間にか雷と雨はおさまり、天井のステンドガラスには月明かりか、あまり光が入ってこない。
「夜」
「ああ、深夜だ」つぶやく私に彼女が答える
「ではマスター……私はどこで、眠れば良いでしょうか?」
「どこでもよいぞ……何なら玉座の間を出た向かい斜め上に、よの私室がある、そのベッドで女同士だ、添い寝でもするか?」
(あの現世の娘だ。言えるはず無い……どれモジモジ恥ずかしがる姿を見てやろう)
ベリハは、まるで小動物を見るよう薄笑いを浮かべ、私の目を見る。
「それは本当ですか?」
「ああ。噓を言ってどうする」
「では、もし良ければ……マスターの膝枕で」
私の言葉に、彼女は一瞬目を丸くするが
「ん。べつに良いがどうしてだ……ベッドの方がよく眠れるぞ」
「だめですか? これから仕えるマスターの温もりを感じたいのです」
「(よの温もりならベッドの中の方が。いや)ふふ……なかなか遠慮を知らぬ娘だ……膝枕だな、良いぞ……うむ、しかし大理石の上では尻がひえてたまらん。そこの玉座まで上がって来い」
予想外。意見が受け入れられたことに返事に、一瞬あっけにとられたが、むしろそこそが人生と、嬉しくなる。
「ありがとうございます。マスター」
「うむ」
だんじょうに上がり、玉座に座り太ももを叩くベリハ
「これでよいか……おっと、し大理石の上で、ひざまずいたままでは、痛くて良く眠れんであろう、このクッションを敷くがよい」
「ありがとうございます……それでは、おやすみなさい」
「うむ……お休み、千世」
数分後……すやすやと寝息を立てる千世の頭を撫でるべリハ
(よほど疲れておったのかすぐに眠りよった……もしやこの膝枕、先のどこでもといった言葉に偽りが無いか、よの事を調べようとしたのか……まさかな……しかし、これはこれで、捨て猫が新しい飼い主を試しているようで可愛い)
べリハもゆっくり目を閉じ、二人は夢の中……そして夜はふけ、月は山にしずみ……ゆっくりと、海から日が昇り……新しい一日が始まる。
読んでくれて、ありがとう。
『オタク系女子中学生が異世界転移⁈ 狂子のお気楽ファンタジー』
第七部『ようこそ異世界へ (千世の場合)』
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by.さんだゆう(千世の『アストラルデバイス』)




