初等部編42
「そしたら、役割分担しないか?」
ジンスの提案に皆が賛同していく。
「俺は品種改良と販売ルートの拡大を図りたい。スコルピウス公爵家には変わらず世話になるとしても販売先によっては俺が直接取り引きしたいと思ってる。ゆくゆくはパンと並ぶ主食にまでしたいからな」
「ジンスはそれで良いんじゃないかな。僕はさっき言った通り災害時や小麦が不作な時を想定した備蓄と配給方法をメインにやりたいな」
レオは利益よりもいかにして国民を守っていくのかを想定しているようだ。
「うちは領地だけは広いからお米の生産もできると思うわ。シュタインボックス領を第2の食用のお米の生産地にしてもらえないかしら?そうしたら、効率的でおいしいお米の生産方法を同じ環境下で比較実験してデータ化できるもの」
「そうすると、シュタインボックス領ばかり利益が上がって貴族間のバランスが崩れないか?」
フランチェスコは眉間にシワを寄せてカトリーナを見たが、カトリーナは微笑み返した。
「そうね、フランチェスコ様のおっしゃる通りだわ。だから、研究に必要な経費と雇った者の給金分の費用を除いた半分の収益を国に納めるわ。お米かお金かどちらが良いかはこれから検討していくのでどうかしら」
「そのお米の一部をピスケス家に流してもらえないかい?僕とイザベラはそのお米を使った新しい調理方法の研究をやりたいんだ。我が家は外交に携わることが多いだけあって他国の食材も入手しやすい。だから、国内外の食材を用いてご飯の食べ方の幅を広げようと思う。新たな食文化の定着に力を入れようではないか。
もし、お米の輸出を考えるほど収穫が出来るようになれば、その時もまたピスケス家の次期当主として助力は惜しまないよ」
何だか話がどんどん大きくなっていく。もはや研究の枠を越えている気がするのは私の気のせいではないだろう。
「お兄様、私はお米ではなく緑茶が良いわ。緑茶の美容効果と緑茶を使用したスイーツの研究をテーマに取り組みたいもの。それに、この間のフルーツティーも捨てがたいわね。どちらを研究テーマにするにしても、私は美容に関する食をテーマにしますわ」
胸を張り堂々とイザベラは言い切った。合同研究の初回から皆とテーマを変える宣言を少し意外に思った。
レオと同じが良いって言わないんだ。良かった……。
……ん?良かった?なんで?
自分の思ったことが理解できなくて思わず首をかしげる。
「収益を納めるとしても、シュタインボックス領以外で新しい米の生産地がもう一ヶ所欲しいな。……この中ではジンスとカトリーナ嬢以外の領地では気候的に厳しいか。ならば、私は米の経済効果について研究しよう。生産に適した領地と実際に軌道に乗せるまでの費用、生産後の収益、どこの領で取り組むことで国内での勢力のバランスが上手くとれるかも検討したい。
ジンス、プリオス。ステーキに合うご飯の研究は頼んだ。時間さえあれば私も品種改良と調理方法の手伝いは是非させて欲しい」
皆が意見を出し合っていくなか、私は何をしたら良いのか考えていた。正直なところ自分に何ができるのか分からない。
「アリアは何をやりたい?」
レオにそう聞かれたけれど、答えられず俯いてしまった。
お米が手に入れば良いとはずっと思っていたけれど、そのために何かをしたことはなかった。
私は何がしたいのかな……。
「俺、アリアにやって欲しいことがあるんだけど」
ジンスの声にのろのろと視線をあげた。きっと彼には私がどうしたら良いか分からないことなんてお見通しなのだろう。
優しく微笑まれていつの間にか握りしめていた手の力が少しだけ抜けた。
「ご飯にぴったりな器をつくれるか?」
その質問に私は小さく頷いた。
初等部編40を加筆しました。
アリアはレオとジンス、まだどちらへも恋心とまではいっていません。
 




