初等部編2
色々と考えている間にアマ・デトワール学園へと到着した。
「大きい……」
事前知識としては知っていたが、あまりの大きさに圧倒された。
アマ・デトワール学園には初等部、中等部、高等部、更に勉学を望む者の為に専門部がある。それに加えて講堂、食堂、ダンスホール、図書館、サロン、寮、温室、園庭など様々な施設が混在しており、学園を取り囲む塀は終わりが見えない。
私達は初等部用の門で門番からチェックを受けて中に入る。学園前で馬車を降りると果てしない道を歩かなければならないため、基本的に校舎の近くまで皆馬車を利用するのだ。
ただし、自分の家の馬車の使用が許可されているのは今日のような入学式など学生以外の人の出入りが認められている日に限る。
普段は門から入ると学園の馬車が用意されていて、それに乗り合わせて校舎へと向かうのだ。
「アリアちゃん、緊張してるの?」
「えぇ、お城でのお茶会でお友達も増えましたが、初めてお会いする方も多いので緊張してしまって……」
これも嘘ではない。ただ、悪役回避というプレッシャーが大きいのだが。
「大丈夫だよ。アリアは優しくて聡明だ。皆が友になりたいと望むだろう。
もし、アリアを困らせるような者がいたら私に言いなさい。すぐに解決してあげるから」
お父様はそう言って優しく頭を撫でるが、最後の方の言葉に不穏なものを感じる。
それって、その子の家が公爵家から圧をかけられるってことじゃないよね?
自分の親ながら、過保護すぎるというか。これって前世でいうモンスターペアレントなんじゃないかな?でも、これってこの世界の普通なのかな……。
とりあえず、ヤバい気配を感じるからスルーしよう。そう思ってお母様の方をみれば、物凄く冷たい目でお父様を見てた。
うん。私は何も知らない。聞いてないし、見てない。
ついっと視線を窓の外に移すと桜が咲いていた。
こんなに洋風なファンタジーのある世界なのに桜が咲いてるのを見て、やっぱり乙女ゲームの世界なんだと改めて実感する。
しばらく桜を眺めていると歩いている男の子が見えた。
あの子、まさか門から歩いているの!?
「お父様、お母様!!あちらの方、もしかしたら門から歩いてるのかしら。
もしそうなら、ご一緒したいのですが……」
私のお願いを快く受け入れてくれたので、従者に声をかけて馬車を降りる。本来なら私から降りて声をかけることははしたないが、これから学友になる相手なのでセーフらしい。
「こんにちは。もしかして、これから入学式に行かれるのかしら?」
驚いたようにこちらを見た男の子は髪も瞳も黒く、日本人のような顔立ちだった。
この世界では地味な顔立ちになるが、私にとっては安心する顔だ。そして、地味だが整っていて、大きくなったらきっと私好みになるだろう。
思わず顔を凝視していると、明らかに嫌そうな顔をされたので慌てて目をそらす。
「そうだけど。何?ナンパ?
急がないと入学式に間に合わなくなるから、そういうのはもっと暇そうな人見つけてやりなよ」
そう言って私の脇を通り抜けようとしたので、咄嗟に腕を掴んでしまった。何て言えば良いのか分からず焦ってしまう。
「入学式に行くのなら、一緒に行きましょう?」
…………やってしまったーーー!!
これじゃあ、本当にナンパだよ。
更なる混乱に陥るなか、男の子はスタスタと馬車へと近づいていく。
「これ、あんたの馬車だよな?乗ってもいいか?」
「……どうぞ」
その子は超がつく程マイペースで「ラッキー」と嬉しそうに馬車へと乗り込んだのだった。
アリアは男の子の腕をつかんだことを、後でお母様に叱られました。