初等部編3
「こんにちは。フォックス子爵家四男のジンスと申します。馬車に同乗させて頂きありがとうございます。
校門から歩いたまでは良かったのですが、あまりにも遠く困っていたのです。スコルピウス家のお嬢様のご温情に心よりお礼申し上げます」
そう言って馬車へと乗り込んだ男の子は綺麗な一礼をした。
先程との対応の違いには驚かされる。
「行き先は同じなのだから気にしなくて良い。私の隣に座りなさい。間違っても妻と娘の隣には座らないよう」
「ありがとうございます。失礼致します」
お父様の言っていることを全く気に留めずストンと腰を下ろす。
そんな様子を見ていたお父様は満足げに笑っている。
「ジンス・フォックスか覚えておこう。
それで?子爵家の四男が何故王都にあるこの学園に?フォックス家は長男ですら地方の学園に入学しているはずだが」
「僻地にある我が家のことをよくご存知ですね。フォックス領は特産もなくこれと言った特徴のない領ですのに……」
「私の質問に答える気がないということかな?」
「いえいえ、滅相もございません。流石、公爵様だと思っただけですよ。
私が王都の学校に来たのは将来は商人になりたいという私の望みを両親が応援してくれたからです。ここで伝を作れたら良いと思ってくれたようでして……」
「ほぅ、フォックス領にそのような余裕があったとはな……」
笑顔で話しているのを見てゾッとした。
何で初等部に入学するような子がこんなやり取りできるのよ。
ほしきみ☆のメインキャラなら未だしも、あなたモブでしょ!?
「あなた、子ども相手に何してるのかしら?」
笑みを深めたお母様の一声にお父様は追及を止めた。
「この子が特別なのはあなたもすぐに分かったでしょう。いくら子爵家のご子息と言えど馬車の紋章を見てあのように挨拶ができるのですから」
どういう意味なのだろう?不思議に思ってお母様を眺めれば「お勉強、頑張りましょうね」と笑顔で言われた。
スコルピウス家はお母様が最強なのではないだろうか。
その後は四人で当たり障りのない会話をしながら講堂へと向かった。
直に遠くに講堂が見えてきて、レンガ造りのおしゃれな建物に少しだけテンションが上がる。
「同乗させて頂きありがとうございました。僕はここから歩いていきたいと思います」
ジンスの言葉に両親は深く頷く。
「そうだな。今なら周りに他の馬車もない。早くしなさい」
「ありがとうございました。失礼致します」
短く挨拶を済ますと周囲を確認して素早く降りていった。
「お父様、まだ距離はあるのに何故ここで降りてしまったのですか?」
「私達とあの子が一緒の馬車から降りてきたらおかしいだろう?」
別に一緒に行ったからといって、何も問題はないと思うんだけど。確かにうちの方が格上だけど何か関係があるのかな。よく分からない。
私が分からずに悩んでいればお母様に微笑まれた。
これ、お勉強が増えるパターンだ。
お母様の笑みの意味を理解し肩を落とすと、お母様は更に笑みを深める。
「アリアちゃん、あなたの優しさは素敵なところよ。でも、その優しさを利用しようとしてくる人がこれから先、必ず現れるわ。
いくら学園と言えど、初めて会った男の子を馬車に乗せてあげたことを知られたら、良からぬことを考える人が出てくるかもしれない。だから、あの子は降りるって言ってくれたの。
あの子が言わなければ私からそろそろ降りるよう言っていたわ」
思いもつかなかったことに驚いてしまう。
少しの親切心で事が大きくなることもあるのか。貴族って大変だ。
「もしかして、乗せない方が良かったのですか?」
「そうね。そうすれば貴族の令嬢としては正解ね。だけど、これから学友になるだろう子が遠くまで一人で歩いているのを放っておくのは人間性を疑うわ。
だから、乗せるまでは賛成よ。問題はその後の対処をどうするかってこと。
その点、ジンスくんは満点ね。このまま成長すれば将来有望よ。辺境の子爵家の四男では教育が手厚いとは思えないのに上級貴族の紋章は全て覚えているようだし、対応も臨機応変だったわ。
強いて言えば、話し方が貴族よりも商人らしかったことくらいかしら。ただ、本人も将来は商人になりたいって言ってるのだから、それすらもプラスになるのよね。
どこまで計算かは分からないけれど、末恐ろしい子よね」
そう言うお母様は非常に楽しげで、お父様も終始頷いていた。
モブなのに能力値が攻略対象並みかそれ以上に高いって……。羨ましすぎる。




