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灼熱の冬  作者: 紫丁香
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6/17

唆し

今日の今日とて は、

修行である。


色々は 教えてもらった。

補助輪もつけた。

現場で実戦もした。


何も 身についてない。


千歳に、

レクチャーされてるけど、

話も 理屈も分かるけど、


実践できない。


何故?


どうしても、

「俺と他」みたいな、

分け方しかできない。


無意識だと、

複雑な条件で 、

「こちらとあちら」を、

分けてるらしい。


その「条件付け」が、

身につかない。


「精進せよ」


してます。


説教も、

踏ん張って聞きました。

半分 寝てたけど。


「どこかで、」

「拒否しておるんだろう」


なにを?


「入ってくる情報を だ」


「自動で『要不要』を分け、」

「アーカイブしてしまう」


それ故、


「核心に思考が至らないのだろう」


「常識なのか、良識なのか」

「生活が変わることへの、」

「不安なのか」


「何かしら、」

「受け入れ難いのではないか?」


「意識の外」の事を、

言っているのだろうか。


「動かそうと思わなければ、」

「何も動かない」


「全ては『意』のままに」



と言って、


座禅する中年を見捨てた。


瞑想しておけ ということだ。


正直、

だだっ広い 板の間で、

足が痺れるまで 座禅したとて、


頭の中は、

これまでのグダグダと、

変わらない。


グダグダが

グルグルしてる。


俺は、

のんびり暮らしたいのだ。


拒否してると言われれば、

そりゃしてるよ、

と言いたい。


普通でいいの。


普通で…

なくなったけどな。


うん。

我ながら どん詰まりだ。


千歳のレクチャーは、

むしろ「視界」というものの、

信用を奪った。


所詮、

脳が結ぶ映像に過ぎず、


見えてるものが事実かなんて、

誰にも わからない。


だから、揺らされる…



うん?

本当にグルグルする。


なんかいい匂いするし。


何の匂い というのでもなく、

匂うだけで快楽というか……


はっ として目を開ける。


目の前に、


真っ黒い美人が、

板の間で 科(しな)を作ってる。


「やっと、見てくれましたね」


子供っぽく微笑む。


強面の美人なんだが、

妙に 幼い表情をする。


「こんなとこまで 入れるんですか…」


キョトンとされた。


「『通行手形』持ってるんですよね?」


「何を、」

「言ってるんです?」


首を傾げて、


「ここ、結界ないですよ?」


あ…


寝観音が この寺の本体、

くらいに思ってたけど、


ここ、鳥居の外だ…


「でも…通れますよね」


話を逸らす。


「通れますよ」


ニコッと…

ニコッとしやがる。


ここの霊能者は何してんだ?

ここに妖怪 来てますよ?


「私ね、」

「貴方の前では、」

「少し、」

「気合いを、」

「入れてるんですよ?」


気合い?


「あの時のように…」

「服を、」

「飛ばされては、」

「かないませんもの」


これが…

流し目というものか?


そんなことはしてません!

あの時?

どの時?

あ…


廃墟の、


月明かりに 照らされた、

全裸の女性…


「驚いたんですよ」

「近づいたら、」

「服が、飛びました」


「貴方が、」

「よくないものを、」

「寄せ付けない、なんて、」

「願ったせいですよ?」


無意識の「界」?


それで なんで、

服が飛ぶ?


「私の、これ、」


服を ひらひら させる。

端っこがほつれてる…

…んじゃなくて煙?


煙化してる?


「瘴気、なんですよ」


ちゃんと服着てください!

今も 全裸ってことじゃないですか。


ケラケラと笑う。


少し ゾッとする。


瘴気って、

纏えるものなの?


しかも、

完全に「見えて」いる。


それ、

本当に「具現化してる」って、

ことじゃないか。


「長く、」

「生きてると…」

「こんな お遊びも、」

「できるように、」

「なるんですよ…」


上着を開いて、

中を見せてくる。


真っ黒い複雑な作りの、

ワンピース。


対照的な、

真っ白な胸元…


聞いてた「感染者」のそれを、

逸脱してる。


それだと、


本物の妖怪…


「そんな風に、」

「言わないで?」


「私だって、」


「人だったわ」


さぞや、

傾国の美女だったのだろう、

と思う。


我儘なのは見て取れるが、

どこか上品だ。


これに ムカつくとかいう、

猫又の気持ちがわからない。


「貴方は、」

「何してるんです?」


上から下まで見られて、

素朴に聞かれる。


「修行です」


素直に答えた。


「あると言われてる『異能』を、」

「使いこなせるように と」


「余計なことを…」

「貴方は、」

「そのままで、完璧なのに…」


限界まで近づいてくる。


え?


「もう、」

「こんなに、」

「近づけるわ」


「思えば、」

「あの時も、」

「貴方は、」


「私を、」

「拒否しなかった」


息がかかりそうな距離だ…


「だから、」

「私自身を、」

「見られたんだわ」


あのですね…


「俺を どうしたいんです?」


声が裏返った…


「王にしたい」


満面の笑顔で、

即答されたけど、


さっぱり わからない。


「こんな しょぼくれた中年の、」

「何がいいんです?」


泣くな 俺のプライド。


「引き締まった表情(かお)は、」

「ハンサムだわ」


「自信を持って?」


この場合、

褒められたの?

喜んでいいの?


喜んでる場合?


「力を、使いたいの?」


頬に…触られてる…


「簡単だわ、」


耳に囁かれる。


「命令、したらいいのよ」


「貴方の『意』は、」


「何でもできるわ」


気づけば、

彼女の胸に抱かれていた。


優しげな瞳で、

俺を見下ろす。


「貴方は、素晴らしい」


髪の毛に、

指が絡んできた…


「私みたいに、」

「人をやめる必要なんて、」

「ない」

「ないわ…」


「この世の、」

「神なのよ」


「でも、」

「長く、」

「生きたくなったら、」


「言ってね?」


額に…唇が…


「いつでも、」

「抱かれるわ…」


そして、

また、

気がつけば、


板の間に 横たわっていた。


どれくらい 時間が経っただろう。


彼女は、

俺を殺そうと思ったら、


または、

仲間にしようと思ったなら、


簡単にできた。


でも、

その事を疑問に思うより、


何故か、

彼女の寂しさが伝わった。


上品な軽口が、

本音を隠している…



…もう、

魅入られてるのかも しれない…


ただ、

単純には、

彼女を嫌いには なれない…



そして、


「命令したらいい」


なんか腑に落ちた。


自動で発動する『界』は、

常に俺の願いを叶える。


こちら と あちら を、

分けるという やり方で。


これを分けろ と、

願えば いいんだ。



飾られてる仏像に目をやる。


「半分に分けろ」


物凄い音がした。


仏像は 見事に半分になる、


が、


上半身が板の間を破壊した。


道仁さんが 飛び込んできて、

目を丸くする。


「何をやらかした?」


「あ いや、」

「なんか壊れましたね…」


……………………



そそくさと帰る事にした。


仔細を語れと詰められたが、

知らぬ、存ぜぬ、

記憶にございません、と。


これまでの、

ちゃらんぽらんが功を奏して、

諦めてくれた。


何となく、

説明しちゃうと、


絵里さんの話になるから、

誤魔化してしまった。


いずれ、

バレるだろうけどね。


千歳と道仁さんの、


「共感」と「鑑定」は、


誤魔化せないだろう。



でも、


解ってきた。


最初から教えられていた。


「全ては『意』のままに」

「結果を望め」


その通りだった。


何をしたいか?を


明確に、

命令する気持ちで、

実行させたらいい。


それだけだった。


自動で発動する「界」は、

俯瞰して俺を見ている、


別人格の、


俺だ。


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