↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼熱の冬  作者: 紫丁香
PR
4/17

谷守

ほら 暗い。


入り口を 見失いかけて、

キキっと曲がる。


峠を下ると、

夜景とは 言えないが、

民家の灯りは見える。


この場所、

夜は ダメだと

俺が 警告したらしい。


夕方だからいいかな?

暗いけど。


珍しく「番屋」に灯りが見える。


漁業で栄えた頃の 木造の建物だ。

今は 記念に残してあるそうだけど、

誰かいるのは初めて見た。



いつも ここに停めてるので、

ちょっと 挨拶することにする。


「ちわっす」


いい具合の お爺さんが、

床掃除してた。


「お?こんなとこに観光かい?」


ああ タクシーで来たもんね。


見覚えのある 爺さんだったが、

面倒なので、


「そうそう、」

「ちょっと ここ停めていい?」


「いいけど 掃除 終わったら、」

「ここ誰も おらんくなるで?」


「いいよ、」

「用事あるの ここじゃないから」


「ほうか、」

「なんか あったら…」


と言って、

表の方を指差し、


「そっちの方の、」

「キャンプ場の家におるで」


ああ、

キャンプ場の爺さんだ。

ここの管理もしてるんだ。


「あんちゃん…」

「谷守さんとこの、」

「息子さんじゃないかい?」


谷守さん?


谷守って ここの事だよな。


いいえ。

俺は谷守さん じゃありません。

花畔(ばんなぐろ)さん です。


「去年 志乃さんを、」

「引き取りに来た人だよね?」


志乃。

母の名前だ。


俺と同じ 花畔のはずだ。

…ああ これ父方の姓か。

俺のために 姓を変えなかったんだ。


谷守?


「志乃さんね、」

「ここの産まれなんだよ」


!


「フラッと帰ってきて、」

「あの アパートに住んでてね」


「あんなことに、」

「なっちゃうなんてね」


知らなかった。

ここ 母親の故郷だったのか…


いや、

知っていたのかも…


俺の記憶は、

当てに ならない…


「花でも 添えにきたかね?」

「手入れも されとらんから」

「雑草だらけだのう」


好きなだけ停めていいと言われ、

俺はタクシーに戻った。



誰もいねぇ。


だからさ。

なんか言えよ。

察してちゃんかよ。


遠くのほうで、

道仁さんの錫杖の音がする。


やれやれ と、

アパート跡地に向かう。



「何か仕入れたか?」


道仁さんのイケボが響く。


「ここ」

「母親の 故郷だったみたいです」


「覚えて おらなんだか」


やっぱりね。

去年 聞いてたんだろう。


化かされたみたいだけど、

化かしたのも 自分だ…


「オヌシの母は、」

「旧姓は 谷守」

「谷守志乃だ」

「代々 ここを護る、」

「神社の血統だ」


言ってよ…

と 言いたいとこだが、

「意識の外」か…


「もっとも、」

「母上の代には、」

「とうに、神社など無い」


「自分の出自を、」

「知っていたのかも 分からん」


「知ったから、」

「ここで 護りをやって、」

「亡くなったんだろうがの」


ここは、

「琥穴」の封印を、

護るための集落。


そう言っていた。


世が世なら、

母親は、

その役目を 受け継いでいた。


そういうことか。


ここに戻った理由は、

それで 推察される…


なら 死んだのも…


「そうだ」

「オヌシの見立ては正しい」


「話を聞いて」

「現場を見て」


「オヌシは、」

「『誰に殺されたのか?』と言った」


「儂らには それが道理でも、」

「警察の適当な話を聞いて」

「オヌシは そう言った」


それは覚えてる。


見りゃぁ わかる。

そのレベルだと思ってた。


死に方が 尋常じゃない。


その時のイラ立ちも、

思い出す。


祭壇の前で、

祭壇に向かい、


正面から「何か」の、

衝撃を受けた かのように、


正座のまま、

後ろに倒れていた。


そのままの それは、

見ていない。


見たのは、

砕けた水晶に塗れた、

祭壇と、


これだ。


首にかけてる、

母親の形見の数珠を触る。


「つけておったか」


「『津曲神社』の後から…」

「何となく」


「それは いわば、」

「安定器だ」


「助けになるだろう」


やはり「異能」絡みだったのか、

この数珠。


今、山田さんが、

かけてるのと同じ。


アイテム。


その山田さんは?


「山を登っておる」


やまぁ?


「熊 出ますよ?」


「熊如きに、」

「後れはとらんだろうが…」


「まぁ 鼻も耳も以前より良い」

「大事ないだろう」


と 言っていたら、

藪の中から 藪だらけで

山田さんが戻ってきた。


「よくねぇな」

「そもそも谷筋の『気枯地(ケガレチ)』だ」

「住むもんじゃねぇ」


勉強不足なもんで…


「前に言ったろ」

「生気を吸われ 気力も枯れる」

「そんな土地なんだよ」


「ここは 谷が末広がる、」

「始まりの辺りだ」

「その根元に『琥穴』がある」


「これこそ『琥穴』という地形だ」


谷間の村。

それが 谷守。


そうか、

「津曲神社」も、

本殿は高台だったけど、


末広がった、

谷の間だった。


しかも その奥底。

天然の洞窟の奥に、

開いていた…


「どのくらい、」

「埋まってるんでしょうね?」

「この下…」


「わからぬ」

「だが ここからは、」

「漏れておらん」


「道理を探ったが、」

「それすら弾かれた」


「オヌシの母は、」

「凄い」


道理を探る が、

何を意味するか 分からないけど、

道仁さんは「鑑定」する。


今風に言うなら、

サイコメトリー?

そんな感じ。


観察眼の上位互換。


「死後、なお強まるよう、」

「『意思』で理を組んでおる」


「ここを掘るのは、」

「問題ないだろうが…」


どんどん、

嫌な予感の方向に、

行ってますよね?


「気枯地である以外に、」

「異変はあるか?」


「ここじゃねぇけどよ…」


と言いつつ、

裏山の 更に先を指差す。


暗くて分からないけど、

月明かりにうっすらと、

小高い山がある。


活火山だ。

たまに 煙を噴いている。


「む」


いや それじゃわからんすよ。


「見えぬか」

「少し、瘴気を含んでいる」


「こういう土地は、」

「感じない程度に、」

「瘴気が滲んでるんだけどよ、」


「あんな風に噴くのは、」

「よくねぇな」


噴き出す。


「津曲神社」の結界から、

噴き出してるのは 見た。


そんな感じなのだとしたら…


「ダメでしょ」


「ダメだな」


…地獄 決定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。