最悪で考える
「そろそろ冬ですけど、」
「建設の予定は?」
「場所が 場所だからね」
「雪降っちゃうと、」
「どうにもならない」
「基礎だけは できるかなぁ」
「ストップです」
「あのまま建てちゃダメ」
「津曲神社」の二の舞だ…
「はなちゃん」
「エージェントらしく、」
「なってきたじゃん♪」
お茶の おかわりが出た。
ついでにシンプルな疑問。
「気になってたんですけど、」
「なんで『エージェント』?」
「いつからかねぇ」
「『代理人』だからなんだけど、」
誰だ?西洋かぶれ
本部が使い始めたらしい。
「雇ってないからねぇ」
「僕たち」
「え?正規雇用じゃないの?」
「ないよ そんなもん」
orz
絶対 就職先 間違えた。
「副業でやってよ」
そうでした。
そうします。
命 危ないから、
労災つけてほしい…
「エージェントとしての判断なら、」
「サポートするよ?」
その前に、
「調査が甘いです!」
道仁さん、
何故わからんかった?
あれ?
なんか そんな話された気が…
『オヌシの母親は 心を残しておる』
『今のうちに キチンとせねばな』
ああ…
「それ」は わかってたんだ。
あまりにも、
封印が完璧だったんだ。
「あのままじゃダメですけど、」
「あそこ、」
「掘ったら 何が出ます?」
所長が天を仰ぐ。
「『谷守』の記録って、」
「あまり ないんだよね」
「『剣山』なんか、」
「及ばないくらい 古いんだよ」
「江戸の前だ」
ものすごく、
嫌な予感がする。
「もし、」
「『津曲神社』みたいに、」
「なってたら?」
それは、
「地獄」だと……
「瘴気の漏れ」を仮定するなら、
それは「津曲神社」の比ではない。
埋めて なお、
漏れて 村人に仇をなせるほどで、
何百年も「決壊」していない。
どれほど、溜まってるか。
どれほど、産んでいるか。
「そんなものは記録にない…」
「地獄以外に 言いようがないねぇ」
最悪じゃないですか。
「それ 触れなくない?」
「触れないねぇ」
「ほっとくと、」
「決壊するけどねぇ」
「その時は 黙示録だねぇ」
おい
「よぉっーし、掘るぞぉ!」
「谷守に重機入れる!」
所長が吠えた。
「あそこ 至難の業だよぉ?」
「なら 道仁に掘らす!」
そんな無茶な…
……………………
「休みます」
「予定を決めてください」
この人は、
前回で懲りてないのか?
帰ってから、
次第を「軽く」報告したら、
これである。
「周が 向き合ったのが嬉しい」
「『琥穴』は人類の問題」
「あの女 絶対来るでしょ」
以上が、
「行くためのプレゼン」だそうで。
「危ないよ?」
が 虚しく響く。
俺もそうだけど、
千歳もそう。
「異能」なんて持ち上げられてるけど、
全く 戦闘向きではない。
「また あの猫ちゃん連れてったら?」
それも、
どうなのだろう?
「通行手形」たる、
「腕輪」はつけてるけど、
それ、
壊れたら どうなるの?
怪異を弾く結界だよ?
ボロボロになった姿見て、
本当に ぞっとしたんだ。
ボロボロにした人には、
もっと ぞっとしたけど。
「それは、」
「ベテラン エージェントに失礼だよ」
そうなんだけどね。
そんなのは、
覚悟してやってるんだろうけど、
どうも「私事」に巻き込むようで、
気が引ける。
「『琥穴』は私事じゃない」
と 語気を強める。
「知ってるでしょ?」
「私もたまに『見る』」
「でも、」
「世界は、」
「そんなものじゃなかった」
「みんなは 見えないんだよ?」
「あの骸骨に斬りつけられても、」
「多分 何があったか 分からない」
俺も 分からない。
瘴気と呼ばれる煙が、
徐々に魑魅魍魎に変わるのは見た。
あれは何?
根本的に、
あれは何?
なのに、
「地獄」と言われた場所に、
「地獄」かもしれない場所に、
行こうとしている。
「何もない、」
「かも しれないんでしょ?」
「封印が 生きてる可能性も」
ある。
それはある。
でも、
「母親が必死で護ってた、」
「らしい から」
「俺は 最悪で考える」
……………………
今日も今日とて、
タクシープールに、
山田さんが来る……
「含笑寺」
はい かしこまりました。
もう、
後の展開 読めます。
ここからなら 近いっすよ。
寝観音が見えて来る。
もう お馴染みである。
今日も、
道仁さんが鳥居の前にいる。
「ほら」
車の窓越しに 数珠を差し出す。
「おお サンキューな」
「腕輪じゃ危なくてよ」
「この前、」
「紐 切れそうだったからな」
ほらぁ、
やっぱり危なかった。
呆けていると、
「首から下げとくからよ、」
「心配するな」
心配だよ…
「通行手形」に目をやる。
素材は前と同じ 黒水晶だね。
黒曜石と水晶の勾玉が増えている。
天然石に「念」を込めるのも、
「理」なんだろうか。
「こいつはやるよ」
腕輪をくれた。
「俺 必要なくないすか?」
「形見だよ」
形見なの?!
「噛まれる かもしれないじゃん」
そんな「かもしれない」は、
いらない。
「備えには なるかもな」
と 道仁さん。
「河童の例もある」
「彼奴らを護る場面も、」
「あるかもしれん」
「俺の『界』じゃ、」
「『理の結界』は潜れませんかね?」
「結界を壊す気か?」
「愚か者が」
今日は、
車を停めてから、
少し歩いた。
なんか浅いプールの方に行く。
「これはな、」
「三途の川を模しておる」
なるほど。
仕掛けはわからないけど、
浅い長いプールで、
流れがある。
周りは白石、
川底は黒い石。
横切るように、
細い橋がかかる。
ド派手な。
その先には ドーム。
入り口には…
狛犬?シーサー?
等身大の仏像に、
左右を守られながら、
通路を抜けると…
奈良の大仏?
奈良じゃないけど、
大仏に見下ろされてる…
その前が少し広間になっていて、
お庭で お茶 みたいな、
テーブルと椅子がある。
よく見ると、
コンクリの大仏だな。
よく こんなもの作るもんだ。
「仏教のテーマパークなんですか?」
「檀家が喜ぶでな」
どんな お客抱えてんだよ。
「ここでの葬式は、」
「評判がいいぞ?」
「で、」
「今日は?」
「谷守に決まってるだろう」
所長から聞いた と。
「儂が掘ると 時間がかかる」
いや やれるの?
「所長がコネ使って、」
「なんとか するそうだ」
「それでも 半月ほどだな」
それは仕方ない。
重機入れるのも大変だけど、
掘るのは もっと大変。
住民も居るしね。
「でよ 少し見に行くか?ってよ」
「儂も 面目ない事をしたかもしれん」
「再調査と行こう」
「まさか と思いますけど、」
「今から?」
「今から」
「おやつの時間 過ぎましたけど?」
「暗くなる前に着くだろ」
「暗くなる頃に着きます」
抵抗は無駄だった。
道仁さんを 後部座席に押し込み、
またまた 旅である…




