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灼熱の冬  作者: 紫丁香
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16/17

継承

さすがに「意力」が減った。


倦怠感だ。


腑に落ちないって顔だね?

みんな。


「手柄ではあるが、」

「ああも簡単にやられるとな…」


「祓うとか 滅するじゃ、」

「ねぇよな ありゃ」

「あっちに同情するぜ」


なんでだよ。


「『怨み』しか読めなかったわ」


残念そうに千歳が言う。


「ものすごい怨み…」


「…よし、」

「一旦、危機は去った」


道仁さんが切り替える。


「問題はあれだ」


突き刺さった錫杖を見る。


津曲神社や、

剣山にあったのと同じ、

四方結界。


大きさや、造りの凝り方は、

全然違うけど。


そして、

鬼門の塔に錫杖が刺さる。

呪いの札をつけて…


あれ?

見えなくなった。


真っ暗な中、

三日月だけが赤く光る。


あ、千歳がいない…


封印のところか。


本当に 離れても大丈夫なのか、

こっちも半信半疑なのに…


側に寄る。


「争いがあったんだ…」

「怨みと怒りと…」

「悲しみ」


「もう、」

「『感情の固定』が強すぎて、」

「細かいこと読めない…」


十分読めてると思うけど。


手を握ってきた。


視界が鮮明になる…が、

同時に、

千歳が読んだ感情も伝わる。


感情自体が瘴気みたいで、

特に怨みの感情が、

渦を巻いている…


溢れてきた瘴気と混じり、

怨みを具現化させていた…


「千年単位かもしれんな」


道仁さんは錫杖の辺りを、

触ってる。


「儂らの持つものとは、」

「素材が違う」

「この金属は…」


「儂には判別がつかない」

「この環境で、」

「サビひとつない」


このままだと、

一休みすらできないので、


入り口の鳥居にかけた、

「界」を「封印」にも張る。


これで三箇所だ。


「意思」で「界」に、

命令するようになって、

わかったこと。


普段の倦怠感も これだわ…


「封印自体にも、」

「保護の術はかかってるな」


構造は壊れていないんだ…


あ…

思いついて、

視界を全開放する。


めまいも慣れてきた。


やっぱりだ、

細い光の鎖が、

全体に絡まって、

流動してる。


蛇のように…


母親の残してた、

結界のように…


千歳が呻く。


「何…これ」

「こんな風なの?」


え?

あ 俺の視界の事か?


どうやら、

俺の視界が逆流したみたい。


解像度とレイヤーが、

段違いだと。


そこまでは分かるけど、

ノイズが邪魔で、

かえって視えなくなると、

手を離された。


なんなの?

俺の視界…


流動する「鎖の保護」とは、

別の回路が視える。


電子基板みたい、

これが「結界」なんだな。


鬼門のところで途切れてる。


「こんなところ、」

「直しになんて来れねぇぞ?」


山田さんが、

暇そうに言う。


そりゃそうだ。

防火服でもなきゃ、

入れない。


今は、

俺の「界」が効いてて、

瘴気は漏れてないけど、


ずっとは無理だ…


視界を下げる。


めまいの反動で、

クラクラしながら、


思いついた事を、

確かめる。


「道仁さん、」

「その錫杖の呪符…」

「燃えてないですよね?」


「保護があるな」

「普通のことだ、」

「破れては意味がないからな」


なら、できる。


津曲神社に張った護符は、

守護の文言と、

俺の「所有」の効果が、

相乗効果してると…


「そうだ、」

「守護はもとより、」

「オヌシの『所有』となった」

「オヌシの『許可』が無ければ」

「『封印』は解けん」


あれ?

それ「津曲神社」の再建には、

俺も行くって話では?


そうだが?


と言われた…


とにかく、


「所有」に関しては、

オートで働くみたい。


俺の「意力」を、

どこまで持っていくのか、

分からないけど。


ここの土地を「所有」した時も、

別に気にしてなかった。


「界」も知らなかったけどね。


「つまり?」


「つまり、」

「その呪符を、」

「都合よく変えましょう」


封印は壊れていない。


ただ、

呪符を施した錫杖が干渉して、

「結界」を妨げている。


不幸中の幸いだ。


「剥がせぬようにも、」

「されてるぞ?」


錫杖を抜いて壊れても困る。

ほぼ 一体化してるからね。


なら、


呪符そのものを、

「あちら」にする。


痛てて、

なんかダメージあるけど、

「界」は「可能」と言ってる。


「削除」


全身に痛みが走る。


そうか、


こちらにも、

「意」があるように、


相手にも、

「意」がある。


「意度」の高さの問題…


やる気のない中年の割に、

「結果」は出したはず…


ひっくり返る俺を、

抱き起こしながら、


「もう一踏ん張りだな」


と道仁さんが笑顔を見せる。


まず、

休みましょう。



方向としては、

干渉する錫杖も利用して、

回路を完成させる。


「封印」を、

俺の「所有」と「護符」の、

相乗で固める。


「谷守の琥穴」を、

俺のものにする。


道仁さんが思案し、

手本を書いた。


どこに、

お習字セット持ってたの?


「これは、」

「『花畔周』が、」

「『封印』を護り、」

「『所有』する」


そういう宣言書だ と。


干渉する錫杖は、

「増幅器」に変える。


これも「俺の名の下に」、

設定するそうだ。


何回も書き直したが、

使えるものができた。


今までと違うのは、

署名と捺印を求められたこと。


捺印…

血判である。


今までの、

どんな危険よりも、

危機である。


「いいからスパッとやれよ」


後ろから蹴られる。


泣く泣く親指を傷つけ、

六枚分押す。


痛い…


俺は、

不思議な世界にいるんだな と、

血判を押した時に実感する。


護符になんかの回路が、

完成するのが視えた。


まず、

錫杖に呪符を固定してた、

古い紐を解く。


新たに、

「増幅護符」をぶら下げた、

紐を縛り付ける。


道仁さんが何やら、

馴染ませている。


「結界の回路」が、

光を走らせる。


妨げていた、

滞りが取れたようだ。


溜まった瘴気を「削除」して、

「界」を解除する。


「封印」自体が、

光を放つのが視える。


「五基の塔の、」

「文言が刻まれていない所」

「手の届くところでいい」


今までと、

大きさが違うのだ。


五メートルくらい?


塔の根元のところに、

丁度良さそうな平面がある。


「『所有』を強く意識しろ」

「『俺の名の下に保護する』と」


そう言われると揺らぐ。

これ 本当は誰のもの?


「花畔…」


はい がんばります…


真ん中の塔に向き合う。


母親が護った封印。


俺が引き受けるのも、

責任だろう。


思いを込めて、

護符を貼る。


え?

護符が、塔の素材に馴染み、

一体化する…


書いた文言が、

直接刻み込まれ、

血判部分が、

光を放つ…


道仁さんを振り返る。


道仁さんどころか、

三人とも目を丸くしてる。


「俺、」

「何か やらかしましたか?」


「いや、」

「おそらく悪いことでは、」

「ないだろう…?」


何 最後のハテナ。


「最後までやろうぞ」


残りの塔にも貼りにいく。


全部 馴染んだ。


血判部分が、

LEDのように赤く光る。


封印全体が、

輝きを増す。


敷地を出て振り向くと、


真ん中の塔の前に、

母親がいた。


やはり、

見据えている。


息子を見る目ではなく…


「ああ 血統…」


千歳が呟く。


「周は、」

「思ってもいない、」

「だろうけど…」


「正統後継者なのよ」


そうなのか…


母親の「結界」も、

入るには「血統」という条件と、


「鍵」として、

この「数珠」が必要だった。


本来は「安定器」だという。


ここまで、

俺を支えて…

いたのかもしれない。


少し「封印」全体の、

不思議な光景に見惚れてた。


インディ・ジョーンズの世界だ。


聳える五基の塔を支える、

ピラミッド状の基礎。


東西南北には、

祠というより、

社が添えられてる。


荘厳な光を放つ封印は、

底に溶岩を溜めた、

堀に護られている。


目に焼き付けておこう。


人間の入れる場所ではない。


ここは、


「地獄」だ。



…思い出して身震いした。


千歳 大丈夫?


ちゃんと、

「界」くん 護ってくれてる?


うん?

なんで形の練習?


「感慨に耽っているみたいだが、」

「脱出せねばならん」


脱出?


「幸い首尾よく行ったが…」


「未だここは『地獄』だ」



津曲神社のように、

溢れた瘴気を止めるとか、

そんなレベルではなかった。


既に「百鬼夜行」となり、

具現化された魑魅魍魎が、

溢れているのだ。


本当に、

人間の来る場所じゃない。


「帰りは自分で視てね」


もはや 千歳の、

ウズウズは止められない。


ここまで、

俺が足枷だったのだ…


「はなちゃんが止めたせいで、」

「あっちでお待ちかねだぞ?」


トンネルに、

ヤバそうな奴が 溜まってる。

ガンガン「界」にぶつかってる。


あれ、消しちゃダメ?



……………………




這々の体で、

「鳥居」まで戻ってきた…


消せたのは、

トンネルに溜まっていたヤツだけ。


キリが無さすぎて、

「意力」が持たない…


視界も、

頭痛しない範囲に下げたら、

見え辛いったらない。


走り抜ける みんなに、

ついていくのがやっと。


温泉の滝壺に、

落ちそうになったよ…


千歳は、

「触られたらアウト」

と言われた、

死神を捩じ伏せてた。


なんで祓えるの?

才能?


手に負えない「火車」が、

三体襲ってきたけど、


無視して走って、


今ここ。


鳥居に喧嘩売ってるわ…


「扉を閉めるぞ!」


道仁さんが、

扉の鎖を解きながら叫ぶ。


片方は山田さんが、

渾身の力を込めてる。


開けた時は、

楽勝だった気が…


「おまえが開けたからだよ!」


お怒りなので手伝う。


本当だ クソ重い。

そりゃそうだ。

青銅の塊だ…


それだけじゃない。


雪が積もってる…


掻き分けながら、

四人がかりで、

やっと扉を閉める。


閂 どこだ?


雪の中から、

閂を掘り出し 差し込む。


開ける時は、

すんなり抜けたのに、

入れ辛い…


灼熱地獄から抜けたら

雪まみれ。


なんなの…


はい?


ああ 血判ですね。


わかりました。


やります、

やります…


…


扉に貼った護符も、

吸い込まれ、

文言が扉に刻まれ、

血判が光る…


これ、

本当に後継者って意味?

それ以上の意味は無い?


え?無視しないで。



鳥居の「界」を解除して、

溜息をつく…


最後の難関がある。


梯子だ…


地味に辛い。


登り終えると、

雪景色に、荒れた日本海。


30cmほど積もった雪に、

足を取られながら、

まばらな民家の、

間の道を行く。


ヨレヨレのドロドロ。


極寒の中、

汗だく、

泥まみれの、

黒衣の集団が歩く。


「あれも、」

「直さねばならんな」


海に刺さった、

鳥居に目をやる。


夕日に照らされた、

鳥居を眺める 四人パーティー。


古い、

RPGのエンディングだ。




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