徒労
温泉が嫌いになりそう、
だなんて言ったけど、
嘘だ。
極楽だ。
見つめる仏像さえ、
愛おしい。
山田さん、
来ないのかね?
俺は、
帰るなり直行した。
早いとこ、
のんびりしたかったのだ。
のんびりしたかったのに…
「何してんすか?」
男湯には有り得ない、
とても、
美しい後ろ姿が
湯気の中に現れた。
そのまま、
俺の隣に沈んだ。
ニコッ。
「ニコッ じゃないですよ」
「男湯入れないんじゃ?」
「そんな、」
「設定、ないですよ?」
ないんかい。
「誰か来ますよ?」
「しばらくは、」
「大丈夫」
なんかしたな…
「もう、」
「貴方のものね」
「ますます、」
「近づけないわ」
ああ…
「嘘ですよ。入れるくせに」
「あそこは、」
「行けないの」
「襲われるわ」
中身 知ってるじゃん。
そういえば…
「あそこで、」
「何か やったんですか?」
「すごい 恨まれてましたよ?」
「身勝手…だわ」
「怨みたいのは、」
「こっち」
やっぱり、
なんか やったんだ。
「先祖の時代の、」
「話よ」
「私には、」
「関係ない」
「貴方にも、ね」
俺?
ご先祖から、
お知り合いってこと?
「歴史を知れって?」
「ええ」
「因果は、」
「面白いわよ?」
「私の好きな、」
「混沌」
事実は奇なり…
と言って、
遠くを見る。
「…俺ね、」
「前に言ったでしょ?」
「母親が、」
「命をかけてまで、」
「あそこを護ってた理由が、」
「知りたかったんですよ」
「行ってみて、」
「余計に、」
「わからなくなりました」
「誰かの怨念が渦巻く、」
「ただの地獄でした」
訊いてみる。
「絵里さんは、」
「解ってるんですよね?」
そして、
「母親を殺したの、」
「絵里さんですか?」
静かに笑う。
「大きな、」
「問題?」
優しげな瞳で、
聞き返して来た。
正直言って、
大きくはない。
全てが、
俺からは遠い…
疎遠な母親の死。
俺の感情は、
それ自体には動かない。
地獄を見て来た今でさえ、
御伽噺のように思える…
でも、
多分、
無関係ではないんだ。
「大きな問題は、」
「絵里さんとの関係性、」
「ですよ」
「親の仇と、」
「仲良くするのも、」
「変な話ですからね」
「仲良く、」
「してくれるの?」
また 幼い顔する。
可愛いなぁ もう。
「会いにくるなら、」
「色々 教えてくださいよ」
「労いに、」
「来ただけよ」
「私は、」
「急がない」
「いずれ、色々」
「知っちゃうわ」
耳に唇を寄せてくる。
「ひとつだけ」
「あの地の、」
「最初の護り手は、」
「神津」
…また、
謎だけ残して消えた。
上津?
あそこを護ってたのが、
上津?
怨まれてた上津 なの?
なんか、
微妙にアクセント、
違うくなかった?
色々、
思ってたのと、
違うんだけど…
……………………
その日は、
誰も顔を合わせることなく、
今朝、
事務所に行こう、
という話になった。
「穴、開けっ放し?」
ああ忘れてた。
そういえば、
ロープ張ってるだけだわ。
「誰も行かないと思うけど、」
「危ないねぇ…」
所長が 困った顔してる。
「丁度よい」
「土に埋めるより、」
「地下室にして祀った方がいい」
地下神殿。
「この際だ、儂が手配する」
「どうせ 、」
「花畔と『契約』した二千万は、」
「『それ以外』には使えまい?」
「だろうねぇ」
「『契約』破ると、」
「どうなるのか…」
「考えたくもないねぇ」
そうなのだ。
「家」を建てる金は、
「調査会社」が出すという話を、
わざわざ契約書 巻いていたのだ。
どうやら俺の能力の、
確認だったらしい。
不履行はできないと、
道仁さんが「鑑定」していた と。
でも、
詐欺られたから無効では?
「書類がある限り、」
「目的を果たさないと、」
「これは『呪符』と化す」
我ながらゾッとする。
どうなるんだろう?
…え?
道仁さん預かり?
ギンギラギン?
「目立たぬようにやる」
「それより、」
「五十万を返せ」
あ…
詐欺られた時、
詐欺師…絵里さんに 、
マケてもらった 五十万。
そりゃそうだ。
無効だわ。
とほほ…
そして、
「報連相」。
「何しに来てやがんだ」
いや全く。
掻き回しに来てると言えば、
そのまんまなんだけどね。
「とうとう…」
「裸のお付き合い、」
「したのね?」
冷静に訊かれる。
しかし、
触れて来た手からは、
この後の「処分処置」が窺える…
「最初の護り手 だと?」
「そう言ってました」
話に逃げる、
「上津の先祖がのう…」
「何があったのかねぇ」
「怨みが渦巻くとか…」
「まさに、」
大焦熱地獄
「聖人に害をなす者も、」
「そこに落ちるという」
「聖人が骸になってたけどな」
怨嗟の言葉を残した、
「火車」化した神主。
巫女と僧兵…
見聞きするもの、
全てが、
理解より 不理解を生む。
知りたくて行ったが、
分からないことが
増えただけ
「あそこの人達は、」
「怨んで怨んで、」
「燃え上がってたけど、」
「被害者とは、」
「限らないよね」
と千歳。
「封印を造った頃から、」
「あんなだったのかな」
地獄では、
なかっただろうけどね。
噴火したら、
「封印」吹っ飛ぶよな…
あ、
だから、
「最悪の琥穴」
なのか?
溜めに溜めて、
大噴火と共に、
瘴気を撒き散らし、
百鬼夜行を顕現させる。
解放は 黙示録級…
手に負えないもの、
俺の名の下に、
しちゃってない?
「責任重大だな」
肩を叩かれる。
猫又め…
「この北の地は、」
「記録が薄い、」
「何が眠ってるやら…」
一連の経験を経て、
道仁さんも、
思うところがある感じ。
俺といえば、
何も無かった。
目の前の事は、
こなしたと思う。
「日本を守る組織」の、
末端である「調査会社」。
その「エージェント」として、
案件は 解決したと思う。
俺も、もう、
自分に「異能」がある事は、
疑わない。
千歳が、実は、
とんでもない逸材なのも、
納得する。
でも、些末な事だ。
何も知ることが、
できなかった。
俺の知りたいことは…
さてと、
「これで合宿終了ですね」
「合宿はな」
おっと?
「修行に終わりはない」
なんて 無間地獄…
「術を教えてください」
「技を教えてください」
「符を教えてください」
千歳?
「夢にでも、」
「目の前にでも、」
「現れたら」
「今度こそ、」
「祓います」




