鍵
一投目で 早くも後悔する。
150cm四方。
意識しすぎて、
深さ150cmの、
大穴を開けてしまう。
ただの落とし穴だ。
階段状だと言ったろ。
50cm四方に設定し直し、
逆方向に階段を作る…
50cmでも高ぇよ…
つまり、
奥行きは30cmくらいで、
高さは20cm?
そうやって、
段々に掘るの?
ロープまでの距離と、
深さを考えると……
面倒くせぇ……
「花畔、」
「梯子を用意してある」
「オヌシに器用な事は、」
「求めておらん」
「地下の門とやらを、」
「傷つけないよう、」
「それだけ気にしろ」
すごく、
やる気を削がれたが、
そうですか…
ならば と、
2mブロックで行きましょう。
そのまま 丁度いいとこまで、
大穴 開けてやる。
…四回。
限界でした。
穴の前でへたばる。
道仁さんが梯子を下ろした。
飲み物を俺に渡して、
千歳が軽やかに、
降りていく。
アウトドアやなぁ。
と感心しながら、
俺も続く。
あまり、
安全じゃないんだけどね。
「後、どれくらいだ?」
上から道仁さんが、
大声を出す。
近所迷惑だから…
アバウトに、
深さ4mってとこだから、
山側の壁を崩せば、
「門」が見えるはず。
どれ、
と 道仁さんが降りてくる。
飛び降りようとしたが、
俺たちを見てやめたようだ。
一休みしたら、
「門」を守るように言われた。
頭痛を堪え、
「門」の位置を把握する。
そのまま、
「門」を「こちら」に、
「ダメージ」を「あちら」に、
設定する。
できるみたいだ。
「よし、下がってろ」
道仁さんの後ろに回り、
視界を下げる。
狭いので、
千歳を抱えるような、
避難になる。
唵!!!!
近所迷惑どころじゃない、
重低音が響く。
地震だ!生き埋めだ!
土が降ってくる。
千歳の頭を庇い、
更に丸くなる。
「よいぞ」
よいぞ じゃねぇよ。
穴 崩れかけてるじゃん。
「丁度よく出たぞ」
土埃で薄目になるが、
扉が半分?見える。
金属?
これ青銅ってやつかな?
道仁さんも掘れる、
みたいな話だったけど、
爆破じゃねぇか。
瓦礫が云々の話じゃない。
しかし、
これだけ掘ったのに、
まだ 半分か。
どれだけ埋めてんだよ…
で、この土、
俺が片付けるのね…
休み休み やる。
まず、
左右を広げる。
正確になんて行かないが、
一辺二メートルの、
立方体を、
左右に四ブロックずつ。
これで、
山に向かって、
奥行き 四メートル
幅 六メートル
深さ 四メートル
の穴になる。
もう、
扉が見えてるので、
ふいに壊す心配はない。
半信半疑でやってるが、
本当に指定した「土」以外は、
傷つけない。
「界」君は優秀だ。
と、
まるで、
スムーズに進んだように、
言ってるが、
今、午後三時。
もう勘弁して。
道仁さんの「鑑定」の結果、
洞窟の入り口を 石で塞ぎ、
扉をつけてると。
ただ、青銅の扉の大きさが、
尋常じゃない。
縦が四メートルほどで、
横幅が二メートル半。
どうやって作って、
どうやって つけた?
本当に古代遺跡なんだけど…
今、現場は、
扉の上半分ほどが露出してて、
扉に沿って30cmブロックで、
土を「削除」した。
なんとなく、
扉の最下部と思えるところで、
作業ストップ…
へばってると、
山田さんが戻ってきた。
「まぁ 前来た時と変わらんね」
「熊もいないし」
「気になるのは…」
「やっぱり あれだな」
と 指差すが、
穴の中からは、
枯れ山しか見えない。
「…煙吹いてる山な」
「瘴気が混じるなんて、」
「まず 普通じゃないし、」
「濃くなってる気がする」
つまり、
噴火口と「琥穴」のある場所は、
繋がってるって事で…
想像すらできない、
「地獄」は、
覚悟したつもりだったが、
え?
火口なの?
「大焦熱地獄だな」
あっさり 言わないで。
帰りの時間も考えて、
今日はここまでとなり、
作業着の軍団は引き上げる。
暗黙の了解で 俺は運転手。
あれ?
仕事量 合わなくね?
……………………
「様子は 解ってきた」
豪華ビュッフェ会議である。
「津曲と同じように、」
「山奥に洞窟が続き、」
「『琥穴』を封ずる、」
「印があるはずだ」
「決壊してる可能性は高い」
山田さんが手を上げる。
「本部のおせっかいは、」
「何やってんだ?」
ああ 異変を感知するとかいう…
「結果として、」
「『決壊』とは判断していない、」
「そうとしか、」
「ならんだろうな…」
歯切れの悪い言い方だ…
ここからの課題は と、
「母上の残した、」
「『結界』へのアプローチ」
「封印がある場所の、」
「物理的環境」
この 二点だと。
物理的環境…
ダンジョンとか、
言ってる場合じゃないか…
……………………
朝である。
何日目だろうか?
長いようで短い。
「短いのだ」
いつもより気合の入った、
「黒いジェダイ」
そう、
今日は 全員 修行着の指定。
「想定より短い」
「末恐ろしいわ」
などと言いつつ、
今日は「突入」も有り得ると。
掘り残しもあるので、
とても不安。
山田さんも、
完全にダース・モール。
千歳は…
千歳は可愛い。
中身は、
格闘家に成りかけてるけど。
昨夜は、
誰のところにも、
「あの人」は来なかった。
道仁さんも、
意地になって結界を張ってた。
こんな風に、
神経を使わなきゃならない。
その時点で、
妖怪だ。
やっぱり。
……………………
ここは、
昨日より寒い。
「あ、雪虫♪」
千歳が声を上げる。
雪虫。
なんの虫だったか。
お尻に綿毛をつけていて、
触れると雪のように消える。
不思議な虫。
そいつが舞うと、
雪が降る。
…
「足場が残ればよい」
「梯子が これしかないでな」
要するに、
梯子でやりとりするから、
残りの分を、
一気に掘ってしまえと。
足場 一メートルほど残すと、
残り なんめーとる?
わからん。
要らんところ「削除」。
それで行こう。
…あーあ。
怖い穴になったよ?
狭い足場に四人。
梯子のやり取り大変。
新しく掘って、
深さ約六メートルになった、
穴の底に降りる。
扉までは 多分、
二メートル半強くらい。
狭い。
扉がでかいせいで、
余計に圧迫感がある。
半分より下くらいに、
太い閂がかかってる。
「内開きだな」
「『琥穴』に対しては…」
「内開きにするものだ」
「こちら側からの、」
「外開きとも言えるがな」
出さないためのものだから、
外から閉める。
そういうことかな。
細長い 大きな扉。
普通に重そうだけど。
道仁さんが 渋い顔をしてる。
イケメンという事じゃない。
「ここまで来ると、」
「はっきり 分かる」
「母上の結界だ」
「ここに能力の全てを、」
「注いだんだ…」
「そんなことしたら…」
千歳が言いかけて、
やめる。
そうか、
「死因」は 一つじゃない。
飢えてもいたし、
衝撃も受けただろうし、
生命の全てを…
異能に注いでいた。
「谷守志乃」は、
そうまでして 護った。
「儂の『意思』はもとより、」
「力では開かん」
「千歳殿、何か読めぬか?」
えーと…
掘ったはいいけど、
開けられない、
とか 言ってない?
「…跳ね返される」
「『読む』のすら拒絶されます」
どうするの?
「おまえだよ」
山田さんに押される。
狭い中、
扉の前に押しやられる。
「サクッと扉に穴開けろよ」
できるかな?
「待て待て、」
「扉は残せ、後が困る」
「じゃ どうすんだよ?」
「そもそも…」
「闇雲に開けたら、」
「大変なんじゃ?」
「それもある」
津曲の再来だ。
それより悪い。
開かないし、
開けられない。
「あ…」
千歳が、
背丈くらいの高さにある、
閂に触れる。
何か感じたらしい。
「『血統』と『手形』…」
「ずっと、」
「『触るな』と言われたけど、」
「伝えてきた…」
「決闘と手形ぁ?」
いや 絶対 字が違う。
「『血統』とは…直系の意か?」
俺を見る。
「因果よの…」
えぇ…?
「『手形』ってなんだよ」
手形?
通行手形?
ん?
「それよ」
千歳が指差す。
俺の胸を。
母親の形見。
値段の張りそうな、
数珠。
「なるほど、」
「『鍵』を残してたんだな」
「開けに来る可能性は、」
「低かろうが…」
数珠を触る。
昨日はしまえと言われたが、
今日の格好には合ってるので、
そのままつけていた。
千歳が、
閂と俺に触る。
……そうか。
俺なら閂を外せるらしい。
千歳を通して、
母親が見える…
見据えられてる。
「…開けられますよ?」
「開けてはならん」
なんで?…あ。
「母上の結界を外すなら、」
「別の結界が必要だ」
そうでした。
「母上の結界のおかげで、」
「儂は中が『鑑定』できん」
「見えるか?」
道仁さんが、
見えないものを?
この「門」の向こう…
視界を戻してみる。
…この めまいも、
いつものことだね…
解像度が上がるだけで、
何もわからん。
土みたいに行かない…
母親の結界が視える。
光の鎖が、
門全体に絡まっている。
ん?
なんか映像がダブってる感じ…
透せたんだ。
目を閉じる。
多分「目」で見てない。
感じて「脳」で視てる…
門を潜ったら…
少し歩いて…
鳥居?
「やはりあるか、」
「そこに、」
「『中のものを出さない』」
「その設定で『界』を張れ」
「津曲の鳥居にやったやつだ」
あの時は 鳥居含めて、
境内をシャボン玉で、
包んだんだけど…
“鳥居から先に”
“中のものは出られない”
そう設定する。
クリック音。
「できた…と思います」
「『意士気』を上げろ」
「オヌシはできる」
疑うな と。
「頼りっぱなしで悪いが…」
「閂を抜いてくれ」
視界を少し下げる。
倦怠感が酷いが、
閂の端を押す。
何の抵抗もない。
数珠が光を纏ってる。
土埃を落としながら、
閂が抜けていく。
狭い穴の底に、
閂が音を立てて落ちる。
道仁さんに促され、
扉を押してみる。
母親の、
鎖の結界が、
解けていくのが視える。
何百年、
閉じられていたのだろう?
瘴気とは違う、
淀んだ空気が流れる。
生暖かい…
生暖かい?
いや サウナの熱波みたい。
ひたすら気持ち悪い…
外の寒さに、
中の熱波が引きずり出され、
風が吹く…
中には、
透した通りの、
「鳥居」が見える。
何百年も、
赤いままで立っている。
「このまま、」
「行くのか?」
山田さんが、
親指で俺を指す。
「大丈夫でしょ きっと」
俺は言う。
「早いとこ済ませましょう」
「ほら」
「降ってきたし」
空には雪が舞い、
穴の熱波を避ける…




