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ノイズ 6
僕は、しばらく動けなかった。
やがて立ち上がって、転がった弁当箱を拾った。米粒がコンクリートにくっついていたので、指で集めて、隅のほうへ寄せた。
プチトマトは、フェンスの根元で止まっていた。
拾い上げると、埃がついていた。シャツの裾で拭いてから、蓋の上に置いた。
今朝この人は、これを詰めたのだ。
卵焼きを焼いて、弁当箱に入れて、プチトマトを二つ選んで、布で包んだ。明日の昼もその次の昼も来ると思っていたから、そうしたのだ。
僕はその場にしゃがんだまま、しばらく手のひらのトマトを見ていた。
鞄の中で、彼女の携帯が短く震えた。
通知の音。誰かが彼女に、何か伝えようとしている。
僕は弁当箱に蓋をして、鞄と文庫本をまとめて抱えた。文庫本にはカバーがかかっていて、何の本かはわからなかった。
携帯を出して、時刻を見る。
十二時二十分。
彼女に残された時間は、あと二十時間と四十七分。
どこで死ぬのかも、どうやって死ぬのかも、僕は知らない。
知っているのは、彼女が死ぬという一点だけだ。
僕は立ち上がって、扉を押した。




