第2部:第11話:黒魔女の敗北と、執念の足跡
――ゴォォォォン!!!
スペーシング王国の王宮の至る所で、二か国の『影』の精鋭たちによる、黒魔女レッド・ビアンカを追い詰めるための壮大な陽動作戦が電撃的に展開されていた。
様々な人間に擬態しながら動き回るビアンカ。その退路を、"金"(オールゴルト)の率いるブラウン家の精鋭部隊が完璧に遮断し、正面からは国家隠密組織の長となった"黒"(ブラックスタード)の直属の影たちがじわじわと彼女をシーリンのいる区画へと誘導していく。
「――もうここまでだ、魔女」
王宮の最深部、王族区画の長い廊下の突き当たりで、"黒"が漆黒の髪を揺らし、冷酷な黒い瞳でビアンカの前に立ち塞がった。
「くっ、おのれ……っ! 面倒な犬どもが……っ!」
自分の擬態が完璧に見破られ、逃げ道を完全に塞がれて激しく焦るビアンカ。
だが、プライドをズタズタにされた魔女の狂気は、その程度の窮地では折れなかった。彼女は血走った赤い瞳をギラつかせ、目の前にある、シーリンが立てこもっているはずのプライベートテラスの重厚な扉を睨みつけた。
「こうなれば、先にシーリンを捕らえてやる!!!」
ドゴォォォォン!!!
ビアンカが魔法で扉を爆発させ、扉は粉々に飛び散った。
吹き飛ぶ扉の破片と爆煙の向こう側。部屋の中には、長い栗色の髪を揺らしてこちらを睨みつける憎きシーリン・ブラウンの姿があった。
そしてそのすぐ隣には、新国王ブルーコーラル
、そして金髪を揺らして冷酷な殺気を放っている男が、彼女を守るようにして確かにそこに立っていた。
「見つけたぞ、シーリン・ブラウン!!」
ビアンカは勝利を確信した邪悪な笑みを浮かべ、部屋の中に突入しようと、思い切り一歩を踏み出した――その、瞬間だった。
キィィィィィン……!!!
ビアンカの足元――透過魔力で隠されていた、シーリンが筆でササッと描き上げた【魔力を一瞬で枯渇させる魔法陣】が、眩い純白の光を放って起動したのだ。
「な……っ!? あ……、魔力が……っ!?」
突入した瞬間、ビアンカの身体から、ドロドロとした大量の魔力が一瞬のうちにすべて霧散し、完全に消滅してしまった。
身体からすべての魔力が抜け落ち、立っていることすらままならず、ビアンカはその場にガクリと膝をついた。
魔力が、ゼロ。
この世界最強の黒魔術師と恐れられた自分が、何の抵抗もできず、ただの一歩で完全に無力な人間に成り下がったのだ。
ビアンカは信じられないという目で足元の魔法陣を見つめ、そして、その魔法陣の術式の美しい魔法陣が、あの香炉の時と同じ、無駄のない美しい術式であることに気づき――その顔を、驚愕から深い、深い底知れない憎しみへと変貌させた。
「なっ……なんなのだ、これはっ! ……またしてもお前か、シーリン……っ!!!」
「ふふ。シーリン、成功だ。…… 黒魔女、それはお前のプライドを粉々に粉砕する魔法陣だよ」
ブルーコーラルは髪を揺らしながら、シーリンの細い腰をグイッと自分の方へと抱き寄せ、冷酷な王の笑みを浮かべて膝をつく魔女を見下ろした。"黒"も、"金"も、そして周囲を取り囲んだ影の精鋭たちも、全員が勝ち誇った冷徹な笑顔で彼女を完全に包囲する。
だが。これまで一度として誰にも捕まえられたことのない、世界最強の黒魔女レッド・ビアンカは、ただでは終わらなかった。
魔力が完全に消滅し、二か国のスパイのトップたちに包囲されるという絶体絶命の瞬間――ビアンカは、自らの『魂』を代償にするという禁忌の捨て身の術式が組み込まれた、最後の隠し玉の魔術具を、震える手で発動したのだ。
ドババババッ!!!
「――っ、全員その場から離れろっ! 魂を媒体にした超長距離の強制転移陣だ!」
"黒"が叫ぶのと同時に、ビアンカの足元から、魔法陣を上書きするほどの禍々しい血の光が噴き出した。
身体が煙のように薄れ、異次元の闇へと引きずり込まれていく中――黒魔女レッド・ビアンカは、目から血の涙を流さんばかりの凄まじい呪詛の眼光で、私の目を真っ直ぐに射すくめた。
「覚えておけっ……シーリン・ブラウン……っ! 今度こそ、お前を確実に殺す……!!!」
その悍ましい絶叫を残し、魔女は血の煙と共に、跡形もなくその場から完全に姿を消したのだった――。




