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第2部:第7話:甘いひと時と衝撃の緊急連絡

「……ふふ。やっぱり、リンの隣が世界で一番落ち着くな。よし、エネルギー補給完了。でも、お茶を飲んだら、午後からのご褒美に、もう少しだけ深いキスをさせてね?」


王宮のプライベートテラスのソファで、私の膝の上に頭を乗せたまま、ブルーはとろけるように甘い青い瞳を細めてそんな心臓に悪いおねだりをしてきた。


(だから、一国の国王のくせにお昼休みから甘さが限界突破してるって言ってるでしょっ!! 嬉しいけど、幸せだけど、私の心臓的ライフが午後までもたないわよ!!)


結婚して1ヶ月が経ち、お互いに「リン」「ブルー」と呼び捨てで呼び合うようにはなったものの、相変わらず私は彼のゼロ距離の旦那様ムーブに毎日顔を真っ赤にしてパニックを起こすばかりだった。



――その時だった。

テラスの重厚な扉が、これまでにないほど激しい音を立てて開き、ブルーの直属の『スペーシングの影』が血相を変えて飛び込んできたのだ。


「――ブルーコーラル陛下! ファンナステッド王国のブラウン公爵家より、あの永久パスの隠密専用回線を通じて、【国家最高機密・緊急暗号手紙】が届きました!!」


「ブラウン家から、緊急の暗号手紙……?」


ブルーは私の膝の上からスッと身を起こすと、いつもの飄々とした笑みを一瞬で消し去った。影から差し出された、金の封蝋がされた手紙。それを受け取ったブルーが暗号を解読し、そこに書かれた文字を上から下へと一気に目を通したその瞬間――。


ピキィッ……!!!


テラスの周囲の空気、大理石の床、果ては風に揺れる花々に至るまでが、一瞬にして凍りつくような、凄まじいまでの魔力がブルーの全身からブワリと立ち上った。

その青い瞳に宿ったのは、他者を一切寄せ付けない、冷酷で獰猛なまでの王の覇気。さっきまで私の膝の上で「甘えさせて」と目を細めていた男とは、完全に別人の顔だった。


「ブルー……? 一体、何が書かれて……」


あまりの空気の温度差に私が怯えて声をかけると、ブルーは一瞬でその冷徹な王の顔を私への深い、深い愛おしさの表情へと戻し、私の細い腰を骨が軋むほどの強さでぎゅっと強く抱き寄せた。逃げ道を完全に塞ぐように、その腕の中に私をすっぽりと閉じ込める。


「……リン。少し、困ったことになったよ」


「困ったこと、ですか……?」


「ああ。ファンナステッド王国の影……君のお兄様からの手紙だ。……あのダクワールと結託していた黒魔女『レッド・ビアンカ』が、自らの姿を他人に変える擬態の能力を使って国境を突破した。……奴は自分の術式を解いた犯人がシーリン……君だと突き止め、今まさに、このスペーシング王国の王宮へと君を狙って潜入しているそうだ」


「えっ!? あ、あの黒魔女が、私を殺しにこの王宮に潜入してるのっ!!?」


私の口から驚愕とパニックの悲鳴が漏れた。


(ちょっと待って! 黒魔術を小枝でササッと上書き解除しちゃったの、そんなに魔女のプライドに激しく触っちゃってたの!? 逆恨み怖すぎるわっ!!)


パニックを起こしてガタガタと震えだす私を、ブルーはさらに強く、絶対に離さないという強固な独占欲を込めて抱きしめ直した。その耳元で、さらに手紙の続きを冷徹に読み上げる。


「……さらに手紙にはこうあるよ。『こちらも今すぐ、永久パスを発動させて、今すぐそちらへ向かう。一秒でも早くそのパスを使用させてもらう』……とね。どうやら、お兄様たちはもうすぐそこに――」


ブルーのセリフが、途中で遮られた。


ゴォォォォン……!!!


突如として、プライベートテラスのすぐ隣にある広大な執務室から、空気を激しく引き裂くような凄まじい魔力の波動が鳴り響いたのだ。

眩いばかりの金と黒の魔方陣が部屋の床に広がり、その光が収まった瞬間――。


「――シーリン!!! 無事かい、僕の可愛い天使!!!」


「金、落ち着け。大国の影のトップが取り乱すな」


光の中から現れたのは、シーリンが黒魔女に狙われているという怒りを滾らせながら、プロのスパイとしての冷徹さを保とうとするオールゴルトお兄様、そしてすべてを見通す冷酷な黒い瞳を光らせたブラックスタード殿下の二人。さらにはその背後に、気配を完璧に消したファンナステッド王国の隠密・影の精鋭部隊が、まるで黒い嵐のようにぞろぞろと王宮の執務室へと転移を完了させていた。


「お、お兄様!? それにブラックスタード殿下までっ!?」


あまりの怒濤の超展開に、私のオタク脳はキャパオーバーした。


永久パスって、他国の王宮の最深部に直接スパイの精鋭部隊を強制転移させるためのパスも兼ねてたの!? もう色々衝撃的すぎるんですけど!!


「やあ、黒、金。……よく来てくれたね。さすがにブラウン家のネットワークは、行動が早くて助かるよ」


ブルーは私を片腕でしっかりと抱きすくめたまま、転移してきた二人に向かって、不敵にニヤリと王としての笑みを深くした。


ファンナステッドとスペーシング、二つの国の最高峰の影の力が、いま、一人の栗色の少女を守るために王宮へと完全集結した。


しかし、そんな最強の男たちの包囲網の裏で、姿を自由に変えられる黒魔女レッド・ビアンカは、すでに侍女の姿に擬態しながら、このテラスのすぐ外の廊下まで、するりするりと足音もなく迫ってきているのだった――。

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