第2部:第4話:推し活と嫉妬
ブルーの過激すぎるお昼休みの膝枕攻撃をなんとか乗り切り、自室のベッドへと命からがら生還した私。真っ赤になった顔をクッションに埋めて、はぁと息を整えていると、侍女がファンナステッド王国から届いたという一通の親書を届けてくれた。
白銀の豪華な封蝋。そして、凛とした美しすぎる筆跡。
差出人は――我が人生のすべて、最愛の最推しにして今や世界一の大親友、デール・ホワイト公爵令嬢だった。
「……っ、デ、デール様からのお手紙キタァァァーーーっ!!!」
私はベッドから跳ね起きると、手紙を両手で神棚に捧げるように掲げた。
『シーリン様、スペーシング王国での暮らしには慣れたかしら? そちらの生意気な男に、毎日のように泣かされてはいないかしらね。……まぁ、あの男があなたを泣かせるような度胸があるとは思えないけれど。私はグレイスタード様と共に、毎日王宮の執務と彼の教育で忙しく過ごしていますわ。あなたがいないお茶会は少し退屈だけれど……あなたのお父様が勝ち取ってくれたあのフリーパスを使って、いつでも私に会いに戻ってきなさい。待っていますわ、私のかわいい親友』
「ううっ……デール様ァァァ……! 色々と忙しいのに私のことを心配してくださるなんて、尊すぎて私の涙腺が完全崩壊しちゃう!!」
私はデール様の直筆メッセージを胸にぎゅっと抱きしめ、「むふふ……デール様最高……毎日拝みます……」と頬を真っ赤に染め上げてベッドの上をごろごろと転がり、完全に己のオタク世界に入り込んで悶絶していた。
すると――カチャリ、と部屋の扉が静かに開いた。
「ただいま、リン。……って、何をしてるんだい?」
「ひゃぅっ!? ブ、ブルー……っ!?」
戻ってきたブルーは、ベッドの上で手紙を抱きしめて限界突破のニヤニヤ顔を晒している私を見て、一瞬でその青い瞳の奥の余裕を消し去った。
彼は大股でベッドへと近づいてくると、私の逃げ道を塞ぐように上から覆いかぶさり、じーーーっと冷ややかな、けれど猛烈に拗ねたような視線で私を睨みつけてきたのだ。
「……リン。さっきテラスであんなに私に甘やかされて赤くなっていたのに、その手紙を見た途端、私の前でも見せたことのないような蕩けた顔をしてベッドで転がるなんて……ずいぶんと酷いじゃないか」
「あ、あの、これはデール様からのお手紙で……っ!」
「分かっているよ。デール嬢が君の大切な親友なのも、君が彼女を救うために命をかけたのも知っている。……だけど、嫌だな。君の頭の中が私以外の誰かでいっぱいになっているのは、たとえデール嬢が相手でも私は嫉妬して狂いそうになるんだ」
ブルーは私の手からデール様の手紙をそっと取り上げて机に置くと、私の両手首を優しくシーツに縫い留め、至近距離で低く掠れた声を耳元に落としてきた。
「……お仕置きだ。君の頭の中を、私のことだけでいっぱいに上書きしてあげる」
「ん……っ!?」
次の瞬間、降ってきたのは、テラスの時とは比べ物にならないほど深く、情熱的で、独占欲に満ちた甘い甘い口づけだった。
何度も角度を変えて唇を重ねられ、私のオタク脳のパニックなんて一瞬で熱いキスの海にかき消されていく。
(無理無理無理!! デール様への推し活は私の魂のオアシスなのに、ブルーの焼きもちは肉食獣すぎて私の心臓のライフが何回あっても足りないわよっ!!)
はあはあと息を荒くして涙目で彼を見上げると、ブルーは愛おしさが限界突破した最高の笑みを浮かべ、私の額に優しくキスを落としたのだった。




