第2部:第3話 甘い新婚生活
裏でファンナステッド王国のブラックスタードとブラウン家、そしてスペーシング王国の影が手を組んだ「最強スパイ連合」が、黒魔女を相手に息詰まる国家規模の情報戦を繰り広げていることなんて、この時の私は、本当に、1ミリたりとも知る由はなかった。
「……はぁ。リン、ただいま。やっと今日の午前中の公務が終わったよ……」
王宮の奥にある、私たち夫婦のためだけに用意されたプライベートな屋上テラス。
お昼休みにやってきたブルーは、留学時の制服とは比べ物にならないほど立派な『国王』としての外套を脱ぎ捨てると、ソファに座っている私の膝の上へと、お疲れモードのままごろんと横になって頭を乗せてきた。
(ひゃあああ! いきなりの膝枕!? 顔の良さが至近距離すぎてまぶしいっ!!)
国中の誰もが畏怖する若き天才新国王が、私の膝の上で、青い髪をラフに揺らしながら「疲れた……」と甘えたように目を細めている。
結婚して1ヶ月が経ち、お互いに「リン」「ブルー」と愛称の呼び捨てで呼び合うようにはなったものの、この国宝級イケメンの旦那様のゼロ距離の甘さに、私は毎日慣れることができずに恥ずかしくてたまらなかった。
「お、お疲れ様です、ブルー。……父から届いた最高級のハーブティーを淹れましたわ。これを飲むと頭がすっきりしますよ?」
「ありがとう、リン。でも……お茶の前に、ちょっとだけこうさせて。君に触れていないと、リン成分が足りなくて午後からの会議を乗り切れる自信がないな」
ブルーは私の細い腰に大きな手を回すと、私のブラウンの髪を愛おしそうに一束指に絡め、とろけるように甘い青い瞳で下から私を見上げてきた。
「……っ、そんな子供みたいなことおっしゃらないでください。一国の王様なのですから」
「王様だって、最愛の妻の前ではただの男だよ。……ねえ、リン。本当に君が私の隣にいて、私の名前を呼び捨てで呼んでくれるたびに、私は世界で一番幸せなんだ。だから、もっと私を甘やかしてよ」
(無理無理無理!! 国王のくせにそんな可愛いおねだりしてくるなんて反則でしょ!! 私のライフはまたしてもお昼休みでゼロよっ!!)
心の中で涙目を浮かべながら、私は赤くなった顔を隠すように、彼の青い髪を優しく撫でてあげることしかできなかった。ブルーは私の不器用な優しさに、ハッとしたように愛おしげに目を細めると、私の手を引き寄せてその指先に深く、甘い口づけを落とした。
「……ふふ。やっぱり、リンの隣が世界で一番落ち着くな。……よし、エネルギー補給完了。でも、お茶を飲んだら、午後から頑張るために、もう少しだけキスをさせてね?」
いたずらっぽく、けれど最高に熱い視線を向けてくる旦那様に、私は顔から火が出そうなほど真っ赤になりながらも、新婚の甘い幸福感に胸をいっぱいに満たされるのだった。




