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〈番外編〉第44話:『ファン恋』本来のシナリオと、"六つ"の結末

もしも、あの裏庭で私が限界オタクとして大爆発していなかったら。


もしも、私が大嫌いなぶりっ子ヒロイン「シーリン」のまま、乙女ゲーム『ファンナステッドの恋する乙女〜王宮の光と影〜』のシナリオ通りに生きていたら、この世界は一体どんな結末を迎えていたのだろうか。


ちなみに、前世の私が何故ここまでヒロインの『シーリン』が大嫌いだったかというと、明確な理由がある。

このゲーム、どのルートでもシーリンはかなりのぶりっ子ぶりを発揮し、攻略対象者の前でだけ「私、可愛くて健気なのに、いじめられて可哀想でしょ?」と言わんばかりの大袈裟な被害者アピールを連発するのだ。

親しい友人の前では、「デール様なんて殿下に振り向いてもらえなくなったからって、私にヤキモチ焼いてる、ただの嫉妬の塊みたいな見苦しいお人ですわ!」と悪口を言っているような人物だった。

物分りの良い大人のプレイヤーは皆そんなヒロインを嫌い、「いや、むしろこいつの方が悪役令嬢っぽくない!?」とイライラしていたし、逆に何をしても報われない、誇り高く美しい悪役令嬢のデール様推しが圧倒的に多かったという、いわば伝説の胸糞ゲームだった。(おそらく、純粋な子供のプレイヤーだけにはシーリンがただの可愛いお姫様に映っていたのだろうけれど……)


これは、私が前世で血の涙を流しながら全ルートをコンプリートした、あのゲームの「本来のシナリオ」の全貌である。



【第一王子グレイスタード・ルート】


幼い頃からグレイスタードとデールは婚約者として共に過ごして来た。だが、デールはあの性格。初めは王子も嫌な態度ばかり取るデールに嫌気がさしていたが、ふとした瞬間、顔を赤らめたり、悪態をついた後に優しい言葉を掛けてきたりするデールに対して段々惹かれ始め、中等部の頃には両思いになっていた。

だが、王子は入学式でシーリンを見た瞬間、目を奪われ一目惚れをしてしまう。式が終わるとすぐに彼女を見つけて情熱的に話しかける。

デールは、それを見て激しい嫉妬を覚え、シーリンへのいじめを始めてしまう。

王子は学園でシーリンを見つけるたびに必ず近づいていき、甘い言葉を囁いては彼女を溺愛し、シーリンも王子に恋心を抱くようになる。

デールのようにツンデレではなく、愛を囁くたびにその気持ちが嬉しいと素直に返すシーリンに対し王子はどんどん溺愛していく。

王子はデールに対していじめをやめるよう何度も警告するが、デールのいじめはさらに激化。

見かねた王子がホワイト公爵に「娘のいじめをやめさせよ」と命じるが、公爵からは『婚約者のくせに他の令嬢と恋仲になるなど、頭がおかしいのではないか?』と逆に正論で激しく責め立てられてしまうがこの気持ちは抑えられない。

デールは愛する王子から、さらには実の親にまで叱責され、完全に精神的に追い詰められ、ついにシーリンに毒を盛るという凶行に走る。

毒に倒れたシーリンを王子が国中の医者を集め治療を施し、王子自身もつきっきりで必死に看病し、大社交会の日にシーリンは見事に復帰。

それと同時に、王子は全生徒の前でデールとの婚約破棄を冷酷に宣言し、デールは泣き崩れる。デールは殺人未遂の他にも悪事にも手を染めており、娘を止められなかったホワイト公爵家の爵位とすべての権利を剥奪され、ホワイト家を国外へと追放するのだった。



【グリーンタール・ルート】


デールとは幼馴染でよく遊びとても仲のいい友人だった。

彼女に淡い恋心を抱いていたが、グレイスタードとの婚約が決まっていたため、その気持ちを押し殺しながらも、友人として彼女のそばに居られるだけで幸せを感じていた。

高等部に入学後、シーリンのことは、王子と結ばれたいがためにデールに対する悪い噂を流す卑怯者だと思っていたグリーンタール。

しかし、デールがシーリンをいじめているのを目撃してしまい、デールへの不信感が募る。

シーリンを調べるうちに、王子のシーリンに対する片思いのせいで、デールによる理不尽ないじめに健気に耐えていることがわかる。

そして廊下の隅で泣き崩れるシーリンを目撃する。

その姿に心を打たれたグリーンタールは、「俺が君を守る」と彼女に惚れ込んでしまう。

しかし、王子、さらには幼馴染までも奪われた気持ちになったデールのいじめがエスカレート。

デールに、いじめはやめるよう何度も忠告するが、逆効果でどんどんいじめが激化する。

そしてついに、シーリンの命が危険にさらされた時、彼は苦渋の決断の末に、幼馴染であるデールを自らの手で騎士団へと引き渡す。

ホワイト公爵家はデールとの縁を切り、デールは辺境の修道院に追放され、泣き崩れる。1年後、障害の消えたグリーンタールとシーリンは盛大な結婚式を挙げる。



【アズパープル・ルート】


最初は「王子を惑わす悪女」として、シーリンを冷徹な紫の瞳で徹底的に監視する第一側近のアズパープル。

しかし、監視して気づいたことは、彼女に一切の非はなく、ただ王子の片思いで情熱的な言葉を掛けられているところをデールに目撃されたため、いじめられていることを知る。

傷つきながらも健気に微笑むシーリン(ぶりっ子)の姿に、彼はいつの間にか王子、さらにデールへの不信感を募らせ、同時にシーリンへの狂おしいほどの執着を抱いていく。

王子の側近としての仕事の傍、シーリンに頻繁に会いに行き、デールからのいじめにより、木の影で泣いているシーリンの手を取り「私が殿下とデール様から必ず君を守る。私の恋人になって欲しい」と告白し二人は恋人関係になる。

その頃になるとデールのいじめはどんどん酷くなっており、顔を合わせる度に暴行を加えるという非道なもので、シーリンの顔以外はアザだらけだった。

最終的にデールを裏切り者として冷酷に切り捨て、王子に振り向かないシーリンを、王子が無理矢理結婚させようと画策していることを知り、アズパープルは裏で強引に奪い去り、他国へ亡命するという、背徳的でドロドロとした愛欲のハッピーエンドを迎える。

デールは暴行の罪、そのあまりの残虐さに殺人未遂もつけられ地下深い檻の中で一生を終えることとなる。


【ブラックスタード・隠しルート】


グレイスタードがシーリンへの恋心で勝手に暴走し、それでもシーリンからは拒絶され、あらゆる手を尽くしシーリンを手に入れようとするがデールによって全て阻止される。あまりにもシーリンへ執着するため、デールはついにグレイスタードに刃を向け、自らもその刃で命を絶とうとする。命は助かったが、国王からグレイスタードは王位継承権を奪われ、デールも殺人未遂で囚われる。ホワイト公爵家も巻き込んで失脚していく様子を、双子の弟であるブラックスタードは冷酷にテラスの上から静観する。

兄とデールが跡形もなく破滅し、国が傾きかけた瞬間、彼は完全に王位を簒奪。

邪魔者を全て排除した暗黒の玉座の上で、彼は面白いと思っていたシーリンを自分の「一生の愛妃(おもちゃ)」としてお城の最深部に閉じ込め、自由を奪って溺愛するダークヤンデレエンドへ向かう。



【ブルーコーラル・ルート】


本編では変顔の特訓(大事故)から始まった出会いだが、ゲームではデールから追い詰められていたシーリンを、ブルーコーラルが木の上からスマートに助ける王道の王子様イベントから始まる。

隣国の王子としての圧倒的なスマートさでデールの嫌がらせからシーリンを毎度軽やかに救い出し、自分を飾り気のない優しさで包んでくれた彼女を、最後は「私の国へおいで」とお姫様抱っこで自分の国へと連れ去り、誰もが憧れる華やかなハッピーエンドを勝ち取るのだった。

デールは隣国の王子の婚約者を傷つけた罪で家族もろとも辺境へ追放された。


ちなみに攻略対象者の中でブルーコーラルが一番の人気だった。


――これら五つのルートの共通点。それは、ヒロインが誰と結ばれようとも、私の愛する最推し「デール様」だけは、必ず全てを奪われて涙を流し、牢に入れられたり、国外や辺境へ追放されるという、最悪のエンディングを迎えることだった。



……しかし。

しおりがこの世界に転生したあと、このゲームに、恐るべき『大型アップデート』が入り、全プレイヤーを絶望させた【最低最悪のバッドエンドルート】が追加されていたことを、今の彼女は知る由もなかった。



【アプデ追加・最悪のバッドエンドルート】


ヒロインとグレイスタード王子は、何もかもが上手くいき、国中から祝福されて王宮大聖堂で華やかな結婚式を挙げる。


かつて執拗にいじめを働いていたデールは、途中で力尽きて諦めたように見せかけ、いじめを一切やめて大人しく席に座っていた。


そして、留学中にシーリンのためにあれほど尽くし、裏で暗躍していた隣国の第二王子ブルーコーラルは、彼女が自分に一切気持ちを向けてくれなかったことへの、狂おしいほどの『嫉妬と憎しみ』をその胸の奥底にどす黒く抱えていた。


パイプオルガンの重厚な音色が響き渡る結婚式。


新郎新婦が、全貴族の前で永遠の誓いの言葉を宣言している、まさにその瞬間だった。


客席のデールが裏で仕掛けていた間者が、隠し持っていた禍々しい魔術具を発動させる。そのペンのような魔術具の先から、シーリンの心臓へ向かって、一直線に鋭い『氷魔法』が撃ち抜かれたのだ。


「――っ、あ……」


胸を貫かれたシーリンは、悲鳴を上げる間もなくその場で即死。

純白のウェディングドレスを真っ赤に染めて崩れ落ち、聖なる結婚式は、凄惨な悲劇の舞台へと変貌した。


最愛の妻を奪われ、廃人のように深く悲しむグレイスタード王子。その傷ついた王子の心を、優しく、健気に支え続けたのは……他でもない、デールだった。


それから3年後。王子とデールは正式に結ばれ、二人の盛大な結婚式が執り行われる。


だが、物語はそこでは終わらない。


隣国スペーシング王国へと帰国していたブルーコーラルは、シーリン暗殺の真相を執念で探り続け、ついにデールがすべてを裏で糸を引いていた『真の黒幕』であることに辿り着いたのだ。


その矢先に発表された、王子とデールの結婚。


最愛の女性を殺され、最愛の人が愛した男と、その犯人が幸せになるという事実に、ブルーコーラルは完全に怒り狂い、理性を失ってファンナステッド王国へ向けて国家総力の戦争を仕掛けるのだった。


隣国の王子の凄まじい軍勢を前に、ファンナステッド王国のグレイスタード、グリーンタール、アズパープル、ブラックスタードといったすべての攻略対象者たちは、シーリンを守れなかった消えない罪悪感を抱えたまま前線で全員戦死。グレイスタードは死ぬ間際、結婚式での黒幕がデールであることを告げられ絶望する。そして、デールはブルーコーラルから『お前のせいでシーリンは死んだ。お前は殺しても殺しても殺したりない。せいぜい地獄で苦しめ』と、狂気に満ちた歪んだ憎悪の元で何度も何度も執拗に剣を突き立てられ、恐怖と痛みと絶望の中、血の海の中で無惨に息絶えた。ファンナステッド王国は跡形もなく蹂躙され、完全に滅びの道を辿る。


そして、血の海と化した焦土の上で、復讐を果たして戦争に勝ったブルーコーラル自身も、「……君の仇は討った。だが……もう、君のいない世界で生きている意味などないな」と、狂気的な笑みを浮かべながら自らの胸に剣を突き立てて自死するのだった――



しおりが前世でずっと待ち望み、夢にまで見た、デールとグレイスタード王子のハッピーエンド。

だが、ゲーム運営が追加したその選択の結末は、関わった全員が死に絶え、国すらも消滅する『最低最悪のバッドエンドルート』となっていたのだ。


しかし。高槻しおりは、本人気づかぬうちに、その最悪のバッドエンドルートさえも、持ち前のブレない推し活パッションで全て完璧に回避していた。


……それも、デールが心から幸せになり、ファンナステッド王国とスペーシング王国の、未来永劫、最も固い絆で結ばれた友好国という、これ以上ない最高に眩しいハッピーエンドという結末の元でーー

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