〈番外編〉第43話:青き海のハッピーエンドと、終わらない愛の囁き
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む南国の柔らかな朝の光。
ふわり、と意識が覚醒し、私がベッドの上で目を覚ましたその瞬間――視界に飛び込んできた光景に、私の心臓は嫌な音を立てて跳ね上がった。
(……うっ、まぶしい。顔の良さがまぶしすぎる……っ!)
すぐ目の前にあったのは、彫刻のように整った、美しすぎるブルーコーラルの顔だった。
彼はすでに先に目を覚ましていたらしく、枕に肘をついて、私の顔をそれはそれは愛おしそうに、慈しむように細い指先でそっと撫でていたのだ。彼の青い髪も、朝日に透けて芸術品のように美しい。
(くっ……! 完全に無防備な寝顔を見られるなど、一生の不覚……! っていうか、この人本当に毎日私より先に起きてるのよね。一体いつ寝てるの!?)
あまりの恥ずかしさと顔の良さへのパニックで、私は一瞬で顔をボッと真っ赤に染め上げ、逃げるようにガバッと後ろを向いて布団を被った。
「ふふ……。おはよう、シーリン。――はい、捕まえた」
背後から、耳がとろけるような低く心地よい笑い声が響いた。
反転した私の細い腰に、彼の大きな手が優しく、けれど拒絶を許さない強さで回される。そのままグイッと引き寄せられ、私は彼の広い胸の中に背中からすっぽりと抱きすくめられてしまった。素肌に感じる彼の体温が熱い。
「……お、おはようございます……ブルーコーラル様……っ」
(離してぇぇぇ! 恥ずかしすぎて心臓が破裂しちゃう! 私、前世を含めて男性への、しかも国宝級イケメンへの耐性なんて一切ないんだから本当にやめてっ!!)
心の中で涙目を浮かべながら、私は彼の腕の中で完全に硬直していた。
あの華やかなスペーシング王国での結婚式を挙げてから、早1ヶ月。
いまだに同じベッドで一緒に眠ること、そして朝起きた瞬間にこのゼロ距離の甘い世界が待っていることに、私は毎朝慣れることができずに恥ずかしくてたまらなかったのだ。
しかし、そんな私のパニックっぷりすら、国王となったブルーコーラルにとっては愛おしくてたまらないご馳走だったらしい。
彼は私の首筋に顔を埋め、ふわりと私のブラウンの髪を揺らしながら、ぎゅっと抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「……ねえ、シーリン。私は、君が本当に私の隣に、私の妻としていてくれることが……夢なんじゃないかって不安になるんだ」
「え……?」
耳元で、彼がいつも通りの飄々とした王の仮面を外し、少し切なげに、震えるような低い声を漏らした。
「君のあの、デール嬢に向ける一途な瞳を見るたびに、私はいつも気が気じゃなかった。……だからね、こうして朝起きて、君の柔らかい温もりが私の隣にあることが分かると……本当に、世界で一番幸せで、たまらなくなるんだよ」
(ブルーコーラル様……っ)
デールが言っていた、あの言葉が脳裏をよぎる。
――『あなたを振り向かせたくて、触れたくて、あの完璧な男たちが内心ドギマギして余裕をなくしていると思ったら、ちょっとクスッとならないかしら?』
そうだ。この完璧で、手段を選ばず国を動かして玉座まで奪い取ってみせた『青き王』は、私の前だと、今でもこんなに余裕をなくして、愛おしさにドギマギしながら必死に私を抱きしめてくれているのだ。そう思った瞬間、私の胸の中にあったパニックが、ふっと心地よい温かさへと変わっていくのが分かった。
私は真っ赤な顔のまま、ぎゅっと握りしめていた布団からそっと手を伸ばし、私の腰に回された彼の大きな手に、自分の手を重ねて指を絡めた。
「……夢なんかじゃありませんわ、ブルーコーラル様。私は、ずっとここに……あなたの隣にいますから」
彼の方に向き直り、私が恥ずかしさを堪えて小さく微笑むと、ブルーコーラルはハッとしたように目を見開いた。
そして、私の重ねた手を愛おしげにぎゅっと握り返すと、今度は少し拗ねたような、最高に甘い声で私の耳元に囁いてきた。
「ねえ、シーリン。……その『ブルーコーラル様』っていう、他人行儀な呼び方はもうやめてくれないかい?」
「え……っ?」
「結婚してもう1ヶ月だよ? 私は毎日君の名前を呼んでいるのに、君が私をいつまでも様付けで呼ぶのは、なんだか寂しくてたまらないな。……私のことも、私だけの特別な愛称で呼んでほしい。……ねえ、呼んでくれるまで離さないよ?」
ブルーコーラルはそう言って、私の体にさらに自分の体を密着させ、おねだりするように青い瞳を潤ませて私をじっと見つめてきた。
(ひ、ひぇぇぇ……! 完璧国王のくせにそんな可愛いおねだりしてくるなんて反則でしょ!!)
私は顔から火が出そうなほど真っ赤になりながらも、覚悟を決め、彼の胸元に顔を埋めたまま、蚊の鳴くような声で小さく呟いた。
「……ブ、ブルー……っ」
「っ……!」
その瞬間、ブルーコーラルの体が歓喜でびくりと跳ね上がった。
「……ああ、本当にずるいな、シーリンは。いや、リン。……そんな風に可愛く呼ばれたら、もう執務の時間までベッドから離せないじゃないか」
「えっ!? ブルー、それは困りま――んっ……」
いたずらっぽく、けれど最高に熱い青い瞳を細めた旦那様に、それ以上の言葉は甘い口づけによって全て塞がれてしまったのだった。
この世界に転生してきた私の物語。
推しを世界一の幸せな王妃へと導き、そして私自身も――世界を変えてまで私を溺愛してくれる、この最高に愛おしい『青き王』の隣で、毎日心臓が悲鳴を上げながら、終わらない最高のハッピーエンドを歩み続けていくのだった。




