第38話:部屋に隠された恋の色と、青き王の甘い焦らし
あの衝撃の国王宣言から、3日後。
正式に次期国王としてブルーコーラルが選ばれたことが王宮から発表され、第一王子シアンコーラルと共に二人でこの国を守り、導いていくという報せが王国全土へと盛大に伝えられた。国中がお祝いのムードに沸き立つ中、私はというと、スペーシング王国の王宮内にあるブラウン家の滞在先で、ここ数日ずっと落ち着かない日々を過ごしていた。
(あの日以来、ブルーコーラル殿下に全然会えてないなぁ……。次期国王の発表とかで、やっぱりもの凄く忙しいのかしら)
そんなことを考えていた、まさにその時。
「――シーリンっ! 会いたかった……!」
バァン! と勢いよく扉が開いたかと思えば、正装のままのブルーコーラルが飛び込んできて、私の両親の目の前だというのに、私を壊れ物を扱うように、しかし、ぎゅっと強く抱きしめてきたのだ。
あまりの突進に驚いて私が固まっていると、お父様の隣で上品に微笑んでいたお母様が、楽しそうにクスッと笑い声を漏らした。
「あらあら……。シーリン、よっぽど愛されているのねぇ」
(お母様! のんびり笑ってないで助けてください! 殿下の心臓の音がうるさいくらいバクバク響いてきて、私までおかしくなりそうなのよ!)
「ブラウン伯爵、夫人。……シーリンを少し、お借りします」
ブルーコーラルは私の両親にそう固い声で告げると、私の手をしっかりと握り、そのまま足早に彼自身の広大な私室へと私を案内した。
(え? 私室? えっ、ちょっと待って! 私、まだ心の準備が全然できてないんですけど!? しかも、今日のブルーコーラル殿下、めちゃくちゃ余裕がなさそうなんですけど……私、一体どうなっちゃうのーーーっ!?)
焦りまくる私を連れ、ブルーコーラルは自身の私室の扉を閉め、鍵をかけた。
ブルーコーラルは、本当に限界だったのだ。あの日から数日間、国政の忙しさにかこつけて彼女に触れることすらできず、悶々とした狂いそうな夜を過ごしていた。今すぐにでも、この愛しい少女の全てを自分のものにしてしまいたいという衝動が、彼の青い瞳の奥で獰猛に揺らめいている。
しかし、パニック寸前の私の目に飛び込んできたのは、彼の部屋の異様な光景だった。
ここは隣国スペーシング王国の王子の部屋のはずだ。彼は留学中でこちらに戻ることはあまりなかったはずなのだ。それなのに、何故か部屋のあちこちに、私の髪色と同じ『ブラウン』の雑貨や、茶色い宝石のアクセサリーが数多く大切に飾られていたのだ。
「あの……殿下。殿下は、ブラウンがお好きなんですか? このお部屋、何だかブラウンばかりの小物が凄く多いような……」
不思議に思って首を傾げた、その瞬間。
スッ……と背後から引き寄せられ、彼の厚い胸板の中にすっぽりと抱きすくめられた。
「ああ。ブラウンが大好きだよ」
耳元。唇が私の耳たぶに触れるほどの至近距離で、あの心地よい低い美声が、甘く、熱く、とろけるように囁かれる。
「……君という、世界で一番愛しいブラウンがね。私はあの裏庭で君に恋に落ちてからというもの、君に会えない時の寂しさを紛らわせるために、君の色のものばかりをたくさん集めてこちらに送っていたんだ」
「っ……!!?」
(ちょっと待って! なにそれっ!? 完璧イケメン王子のくせに行動が可愛すぎるし、『君というブラウン』ってどういうことよ! もう無理、私のライフはとっくにマイナスよ……!!)
あまりの破壊力に限界突破し、顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げてガチガチに硬直する私。
はあはあと息が上がり身体の力を抜いたその一瞬。
ブルーコーラルは、その私が完全に力を抜いて隙だらけになった瞬間を、見逃すはずがなかった。
「シーリン……」
ふわり、と視界が浮き上がる。ブルーコーラルは私を軽々と、お姫様抱っこのように腕の中に抱き抱えると、そのまま迷いのない足取りで、部屋の奥にある大きなベッドへと向かった。
シーツの上にそっと横たえられ、逃げ場を無くすように彼が上から覆い被さってくる。
「ん……っ」
驚いて声を上げるよりも早く、私の唇に、深く、深く、とろけるような甘い甘い口づけが落とされた。何度も角度を変えて重ねられる熱いキスと、その合間に紡がれる甘い愛の言葉に、私の思考力はあっという間に奪われ、体中が甘く蕩けさせられていく。
「……あぁ、まだ正式な婚姻前だからな……。駄目だ、もう耐えられそうにない」
ブルーコーラルは、荒い呼吸を繰り返しながら、何かに必死に耐えるようにきゅっと唇を噛みしめた。そして、私の首筋や鎖骨、手の甲など、あらゆる場所に、痕を残すかのように熱く切ない口づけを落としていく。
「何故、君はこんなにも魅力的なんだ……。私をどうするつもりなの、シーリン……」
彼の低い、掠れた熱い声が部屋に響く。
前世を含めて恋愛経験がほぼゼロの私。彼が今、どれほど必死に理性を保とうと格闘しているのか、そしてこの先「何をしたいのか」は知識として分かってはいるものの――私にできるのは、ただただ顔を真っ赤にして、彼の胸元に顔を埋めて俯くことしかできなかったのだった。




