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第37話:青き王たちの夜明けと、王座の約束

あの前代未聞の、全貴族を大震撼させた婚約式典の直後。


きらびやかな舞踏会場から離れた、王宮の奥深くにある防音の施された第一王子の私室。そこには、二人の青い髪の王子が対峙していた。


「……本気なのか? ブルーコーラル」


重苦しい沈黙を破ったのは、第一王子シアンコーラルだった。


彼はデスクに両手をつき、弟と酷似した青い瞳を激しく動揺させて見つめている。


「お前は昔から、私よりも遥かに優秀で、何をやらせても完璧だった。……それなのに、『自分は王位などに全く興味はない、兄上が継げばいい』と、ずっと笑っていただろう。それが何故、あのファンナステッド王国の伯爵令嬢を隣に迎えた途端にそんな大口を叩きにきたのだ!」


詰め寄る兄に対し、ブルーコーラルはいつもの飄々とした仮面を外し、真摯な、しかし底知れない覇気を宿した瞳で真っ直ぐに見返した。


「……彼女のためになるのならば、国一つ動かせるだけの『王の権限』が、どうしても欲しくなるほどに……私は彼女を、シーリンを手に入れたかったんだよ。兄上」


「一人の女のために、玉座を奪うというのか……!」


「そうだ。……それに、一応言っておくが、兄上。 ブラウン家を、ただの中位の貴族だと思って侮らないことだ。ここだけの話だが、あの家は、ファンナステッド王国の国王直属の『影』の首領(ボス)……実質は公爵格の、恐るべき特級スパイ組織だよ。敢えて表向きの爵位を中位の伯爵に留め、周囲の油断を誘って裏から不正をすべて調査している……と言えば、その恐ろしさが分かるだろう? あのダクワールの密輸ルートが我が国で即座に壊滅したのも、あのブラウン家の網が最初から奴らを完全包囲していたからだ」


シアンコーラルは額に脂汗を浮かべ、愕然とした。


「……っ! それほどの、他国の最高機密を握るような家の娘が、何故……何故お前の元へ嫁ぐというのだ!?」


「私が、彼女をどうしようもないほど愛してしまったからだよ、兄上」


ブルーコーラルはふっと、どこか誇らしげに唇を緩めた。


「 私が彼女と結ばれるためには、彼女が胸に秘めた唯一の願い――親友であるデール嬢との未来を叶える方法が……私がこの国の『王』となり、ファンナステッド王国と未来永劫の友好国であることを証明する以外に、無かったからだ。……兄上。本当に申し訳ないが、兄上の王座は、私がもらうよ」


「……ッ」


シアンコーラルは、ガタガタと椅子の背もたれに体を預け、天井を仰いで自嘲気味に笑った。


「……昔から私より何倍も優秀だったお前が、本気でその気高き野心を胸に抱いて、王座を狙いにきたのだ。それはもう……お前が次の王になるのも同然ではないか。……分かったよ。私はもう、いい。私は元々与えられていた辺境の領地へ下り、そこで細々と余生を生きるさ。お前と、その最強の婚約者に怯えながらな……」 


諦めたように寂しく目を細める兄。


ブルーコーラルは大股で歩み寄ると、シアンコーラルのデスクの前に立ち、次期国王となるはずの彼が、一人の兄に向かって、深く、深く頭を下げて頼み込んだのだ。


「何を言っているんだ! 兄上がいなければ、この国は終わる!!」


「……ブルーコーラル?」


「私は優秀かもしれないが、自分の愛のために周囲を平気で巻き込む、傲慢で自分勝手な人間だ。私に足りない、国を、臣下たちを地道に愛して支える『王としての優しさ』は、ずっと真面目に努力してきた兄上にしか無いんだ! ……兄上の口からそんな寂しい言葉を聞くために、私は王座を奪いに来たんじゃない。……自分勝手で本当に申し訳ないけれど、兄上……お願いだ、私を、私たちを支えてくれ……っ」


頭を下げたまま、必死に声を震わせる弟。


シアンコーラルは大きく目を見開き、信じられないものを見るように弟の青い頭頂部を見つめていた。やがて、その顔に、今までで一番晴れやかな、誇らしげな笑顔が浮かび上がった。


「……はは、お前から私に、そんな必死な頼み事をしてくるなんて、生まれて初めてだな。……いいだろう。お前がそこまで一人の女性と、この国の未来を本気で背負うというのなら――この兄が、お前たちの最強の盾となって、全力で支えてやろうじゃないか」


「……っ、ありがとう、兄上!」


ブルーコーラルが顔を上げ、少年のような満面の笑顔を咲かせる。


一人の栗色の少女への愛が、隣国の優秀すぎる第二王子を『王』へと目覚めさせ、そしてバラバラになりかけていた王家の兄弟の絆を、世界で最も強固な「二頭政治」へと昇華させたのだった。

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