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第32話:聖なる神殿の誓いと、青き王子のプロポーズ

馬車に揺られて到着したのは、王都の外れに厳かに佇む、歴史的価値の高い広大な神殿だった。


古くから国の重要な儀式が執り行われ、いま現在でも、貴族たちの格式高い結婚式の舞台として使われている神殿だ。


一歩足を踏み入れると、ひんやりとした神聖な空気が肌を包む。天井を見上げれば息を呑むほど美しい壮大な宗教画が描かれており、立派な大理石の支柱の間には、色鮮やかな高級絨毯がどこまでも敷き詰められていた。そして、その一番奥には厳かな祭壇があり、色とりどりの瑞々しい花々が美しく飾られている。


「……わぁ。なんて、美しいの……」


私がブルーコーラルからプレゼントされたマリンブルーのドレスを揺らし、その圧倒的な光景に思わずうっとりと見惚れていると――隣にいたブルーコーラルが、何故かその白い頬をふっと赤く染めた。


「……まるで、花嫁だな……」


「え……っ、またご冗談を……っ」


あまりに心臓に悪い呟きに、私が目を見開いて顔を真っ赤にさせた、その瞬間。


スッと手を引かれ、抗えない力で、彼の胸の中へと強く、強く抱きしめられた。


「すまない。……私はもう、君の前だと、どうしても余裕がなくなってしまうんだ」


背中に回る彼の腕が、小さく震えている。


「今まで発した君への愛の言葉は、全て本物だよ。……ああ、本当に気が狂いそうだった。

君の隣に違う男がいると思うだけで、私の心は毎日、嫉妬と絶望で引き裂かれそうだったんだ。」


彼は、はぁと大きく息をつく。


「あの社交パーティーでのグレイスタード殿下とのダンスも、嫌で嫌で仕方がなかった……。君の立場では断れなかったと分かっていても、君の細い腰に別の男の手が触れているのを見るだけで、その男を今すぐ排除してしまいたいとさえ思うほど。

君がデール嬢への熱い気持ちを口にするたびに、私はその『一途な想い』にすら激しく嫉妬していた。その温かい、眩しいほどの情熱を、私だけに向け、私だけのために微笑んでほしいと……胸が張り裂けそうになる。

そして…あの3人とのデートの前日から、私は気が気じゃなくて、ずっと落ち着かなかったんだ。夜も全く眠れなかった。

君が、他の男の腕の中で赤くなっているのではないか、誰かのプロポーズを受け入れてしまうのではないかと考えたら……不甲斐なくも、涙が出てきてしまうほどにね。」


彼の手がまだ震えている。


「君の前だと、王子という称号も、プライドも、何もかもが小さく見えてしまう。それほどまでに私は君が、シーリンが欲しい。今すぐにでも私のものにして、誰も触れられない場所へ連れ去ってしまいたい。」


ブルーコーラルは、腕の中の私をさらに愛おしげに強く抱き締めると、消え入りそうな、けれど切実な声で懇願した。



「……ねえ、シーリン。私と一緒に、スペーシング王国に帰ってくれないか……お願いだ。

もし君が私を選んでくれたのなら、私はこの生涯をかけてあなただけを一生愛し、敬い、守り抜くと誓う。

………シーリン。

世界で誰よりも、君を……君だけを愛している。」


「……っ、あ……」


あまりの甘さと、完璧な王子の初めての「弱さと剥き出しの執着」をこれでもかと長い言葉で浴びせられ、私の脳内は完全にオーバーヒートを起こした。そして言い切ると同時に彼が顔を近づけ、私の鼻の頭に、優しく、愛おしそうに口づけを落とした。


心臓が今度こそ爆発して消し飛ぶのではないかというほどの凄まじい衝撃の前に、私はもう何も考えられなくなって、その場に崩れ落ちるように腰を抜かしてしまった。


「……シーリンっ!? …だっ…大丈夫か?」


焦ったブルーコーラルが、すぐに優しく私の体を抱き抱えてくれる。


その腕の中で、私は生まれて初めて、本気で思ってしまったのだ。


(……この人と、共に生きたい。)と。


(この人は、私がピンチの時に何度も何度も助けてくれた。そして、私の限界オタクとしての色々な変顔を見ても、いつも笑って『面白い』と言ってくれた。こんな人……世界中を探しても、他には絶対にいないわ……っ)


だが、その直後。オタクとしての私の魂が、猛烈にアラームを鳴り響かせた。

(いや待って!? この人と隣国に行ってしまったら……私、デール様に毎日会えなくなるじゃないのーーーっ!!?)


私は大急ぎで顔をブンブンと横に振り、急激にオタク心に火をつけ、ブルーコーラルへの感情を鎮めようとする。


人生最大の幸せを掴むことよりも、推しのデールを最優先にしようとしてしまうのが、さすがは高槻しおりである。


その、私の激しい表情の移り変わりをじっと見ていたブルーコーラルは、ふっと、切なげな苦笑いをその美しい唇に浮かべ、静かに、しかし覚悟を決めた目で告げた。


「……やはり君の中では、デール嬢が一番なのだな。……ならば、少し卑怯なことを言ってもいいだろうか?」


「え……?」


ブルーコーラルは、私の目を真っ直ぐに見つめ、一国の王子としての凄まじい覇気と真摯な光をその青い瞳に宿した。


「ねえ、君はデール嬢と『親友』になったんだろう? それで、君が私の元に嫁ぐとする。グレイスタード殿下とデール嬢は将来、この国の国王と王妃になる。……私は第二王子だが、これからは自国で【国王】を目指そうと思う」


「っ……国、王……!?」


「そして、君を私の正妃に迎え、スペーシングとファンナステッドは未来永劫、最も固い絆で結ばれた友好国であることを世界に示そう。君がデール嬢に会いたくなった時は、いつでも、好きな時に我が国の特権を使って会いに行けばいい。そして、その特権はファンナステッドでも得てみせよう。……だが、他の男が誰も、君の隣に立つことだけは絶対に許せない。シーリン……これでも、君の隣に立つのは、私ではダメだろうか……?」


私とデールの絆を守るため、そして他の男たちから私を完全に独占するためなら、自国に戻って国王の座すら奪い取ってみせる。


その、一人の少女のために世界を動かそうとする彼のあまりにも壮大で、あまりにも深い愛の計略の前に、私の胸の奥から、今度こそ止めどない「愛おしさ」がドクドクと溢れ出してきた。


(……あぁ。この人なら、本当に私の全てを委ねてもいい……っ)


私は顔を真っ赤に染め上げながらも、今度は逃げることなく、彼の青い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「……ブルーコーラル殿下。殿下の…そのお申し出……喜んで、お受けいたします」


私が涙を流しながらも最高の笑顔でそう答えると、ブルーコーラルは世界で一番幸せそうな笑みを浮かべ、一筋の涙を流し、再び私を強く、強くその腕の中に抱きしめ直したのだった。

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