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第30話:漆黒の誓いと、噴水でのプロポーズ

馬車が城下町に到着し、扉が開いた瞬間、目の前には活気溢れる賑やかな雑踏が広がっていた。


「……ッ、人が多いな。離れるなよ」


馬車を降りた瞬間、ブラックスタードはブルーコーラルへの焦りが頭を過ったのか、私の返事も待たずに、初めて私の手をギュッと強引に握りしめてきた。


大きな、けれど少し強張った手。驚いて見上げると、変装用の帽子の下で、彼の耳はトマトのように真っ赤に染まっていた。不器用だけど、絶対に私を離さないという強い意志が伝わってきて、私の心臓はまたしてもバクバクと鳴り響く。


「人混みではぐれたら面倒だからな。……文句を言うな」


ぶっきらぼうにそう言って、彼は私を引くように雑踏の中へと歩き出した。



そんな彼に手を引かれながら、私たちは城下町全体を使った、いま大流行中の『謎解きゲーム』に挑戦することになった。


町中に隠された複雑な魔術式や暗号を解き明かしていくゲームなのだが……ここで、私の…ヒロイン、シーリンのチート級魔術スペックが、またしても無自覚に大爆発してしまった。


「あ、ブラック様、この暗号の配列は、さっきの露店の看板の文字と連動していますわ! だから次の目的地は……あそこの時計塔です!」


「……は?」


難解な罠を次々と一瞬で見抜き、サクサクと答えを導き出していく私を見て、学園最強の切れ者であるはずのブラックスタードは、ぽかんと黒い瞳を丸くして完全に呆気に取られていた。


「シーリン……お前、本当に何者なんだ。……フン、やはり私の見込んだ女だ。ますます手放したくなくなった」


驚きがやがて深い感嘆へと変わり、ブラックスタードの瞳の奥に、いつも以上の熱い敬愛と惚れ直したような光がメラメラと灯る。ヒロインの有能さが、意図せず彼の恋心にさらにガソリンを注いでしまったようだった。



謎解きで頭を使ってお腹が空いた私たちは、お忍びらしく、町外れにある活気溢れる大衆食堂へと立ち寄った。


並んでいるのは、串焼きや大盛りのお肉など、庶民的なものばかり。


「……これは、一体どうやって食べるのだ? ナイフとフォークは無いのか?」


普段は王宮の最高級のフルコースしか口にしない第二王子。彼は目の前の、串に刺さった豪快な焼き鳥を前に、どう手を付けたら良いのか分からず、借りてきた猫のように本気で困惑していた。そのあまりの迷子のようなギャップが可愛くて、私は思わずクスッと笑ってしまった。


「ブラック様、こうやって直接口に運ぶんですよ。……ほら、あーん」


私が悪戯心で、一切れの肉を串ごと彼の口元へと差し出すと。


ブラックスタードは一瞬、世界が静止したかのように目を見開いて硬直した。そして、顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げながらも、私の手元をじっと見つめ、小さく口を開けて……ぱくり、と私の「あーん」を受け入れたのだ。


「っ……う、美味い……」


モグモグと口を動かしながら、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って俯いてしまうブラックスタード。


(うわぁぁぁ! 何この生き物、ギャップ萌えで行き倒れるレベルで可愛いんですけど!? デール様が言っていた『完璧な男がドギマギしてる』って、まさにこれじゃないのーーーっ!!)


私は彼の新鮮すぎるキュートな姿に、心の中で激しい身悶えを起こしていた。



楽しいデートも終わりを告げ、夕暮れ時。


私たちは城下町の中央にある、美しい水飛沫を上げる大きな噴水の前へとやってきた。夕日に照らされた水面が、キラキラと黄金色に輝いている。 


ブラックスタードは立ち止まると、私の前に向き直った。


いつの間にかその顔からは不器用な照れは消え去り、すべてを見通すような、しかし今までで一番深い熱を秘めた漆黒の瞳で、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「シーリン。……今日のデートで、私は確信した。君のその聡明さ、愛らしさ、全てが愛おしくてたまらない」


「ブラック、様……っ」


夕日の光に包まれながら、彼は私の目をじっと見つめ、耳元に心地よく響く低い美声で、甘々な愛の言葉を次々と囁き始めた。


「君の笑顔を見るだけで、私の凍りついた心がどれほど救われるか、君には分からないだろう。私はもう、君のいない未来など想像もできない」


そして。


ブラックスタードはスッと私の前に一歩歩み寄ると、あろうことか、大勢の行き交う人々がいる噴水の前で――本物の騎士のように、私の前で片膝をついたのだ。


「ひゃっ……!?」


驚きに息を呑む私。彼は私の右手を両手でそっと包み込み、宝物を扱うかのような真摯な瞳で、下から私を見上げて告げた。


「シーリン・ブラウン。……いや、私の愛しい小鳥よ。どうか、私の妃になってくれ。私の生涯をかけて、君を世界一幸せにすると誓う」


そう言い切ると、彼は私の目を真っ直ぐに見つめたまま、握りしめた私の手の甲に――誓いを立てるように、音を立てて熱い口づけを落とした。


(……っっっ!!!???)


水飛沫が夕日にきらめく噴水の前。


国中が恐れる冷徹な隠し攻略対象者からの、片膝をついての完全なるガチのプロポーズ。


私は顔をこれでもかと真っ赤に染め上げ、心臓が今度こそ爆発して消し飛ぶのではないかというほどの凄まじい衝撃の前に、声も出せずにただただ真っ白にフリーズするしかった。デールのお茶会で洗われたはずの私の心は、またしてもイケメン王子の超弩級の猛攻の前に、完膚なきまでにノックアウトされてしまったのだった――。

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